刑務所は教育の場へ。日本で唯一「TCプログラム」を導入する島根あさひ社会復帰促進センターが目指すもの

島根あさひ社会復帰促進センター

受刑者を訓練生と呼び、社会復帰するための教育に力を入れてきた島根あさひ社会復帰促進センター。ここは、薬物依存や精神疾患等を持つ人たちが一緒に暮らし、対話による回復を目指すTCユニットを国内で唯一導入している刑務所です。

共同生活と対話を軸にした教育更生は、どのように行われているのか。その内容と効果について、訓練室の担当者と民間企業の心理士に話を聞きました。

共同生活のスキルを育てるTCプログラム

施設で勤務する民間の心理士へインタビュー
施設で勤務する民間の心理士へインタビュー

「回復共同体」という意味を持つTC(Thearapeutic Community)では、訓練生同士の対話を通じて更生を促しています。島根あさひ社会復帰促進センターでは、9つの収容棟が立ち並び、収容棟の中には4つのユニットがあります。ひとつのユニットでは約40名で集団生活しています。ユニット内のドアの施錠や食事の搬送は自動化されており、運営の効率化が進められているのが特徴です。

運用のモデルとして採用されているのは、アメリカのアリゾナ州にあるアミティ。アミティは依存症回復の理想郷と呼ばれている施設であり、「治療共同体モデル(TC)」を確立しています。この施設のカリキュラムをベースとして、島根あさひ社会復帰促進センターの文化に合わせて微調整したものを運用しています。

官民共同で運営されるこの施設では、民間の心理士も重要な役割を担っています。

「心理士の役割は、訓練生の感情表現を豊かにすることです」

そう語る心理士は、施設内で教育分類というカテゴリーの業務を担当し、訓練生の改善指導を実施。

「自分の感情と向き合って、他者の立場を考える力は重要です。また、その訓練は私たちも受けた方がいいですよね。TCを通して学ぶことは多いです」

TCではグループワークで意見を出し合う場面が多く、参加者は日記に感想を記します。そのことを続けていくうちに、自分のことしか考えていなかった訓練生は周りのことまで考えられるようになるとのこと。

「幼い頃にこの訓練を受けたかった」「社会人になってから共同体で自身への理解を深める場に参加したかった」と、訓練生からの声も上がるといいます。

「訓練室」で学ぶ社会生活の基礎

施設で勤務する訓練室担当職員へのインタビュー
施設で勤務する訓練室担当職員へのインタビュー

特化のユニットには、知的障害や精神障害のある人たちを中心としたユニットが3グループあります。訓練室の担当者によると、訓練生の年齢層は20代から50代。その中には人の感情を読み取って行動するのが苦手な人もおり、人間関係の距離感を図ることができず、トラブルになることも。それぞれの特性に応じた対応を心がけているそうです。

「訓練生が罪を犯した原因は育った環境にも原因がある」と、訓練室担当職員は語ります。

「訓練生は話すことに対して無意味と感じるような態度を見せることも多いです。誰かに相談できなかったり、相談した時に人間性を否定されるような経験をしてきたのだろうと感じます」

言葉によるコミュニケーションが苦手な訓練生の中には、限界を超えた時に暴行事案などの規律違反を犯す人もいます。「幼い子どもが自分の気持ちを伝えられなくて、感情が爆発する状態に似ている」とのことで、職員も対応に苦慮しています。

また、服装を正すための声かけに対し、 過剰な拒絶反応を示す訓練生もいて、 対応した職員は「過去に暴力を受けた経験があるのではないか」 と推察します。

島根あさひ社会復帰促進センターでは、刑務作業を行う工場を「訓練室」と呼んでいます。今回取材したのは、島根県西部に伝わる伝統工芸品「石州(せきしゅう)和紙」の製作技術を学ぶ訓練室です。

この訓練では島根県西部に伝わる伝統工芸品である「石州(せきしゅう)和紙」の生産者の指導のもと、和紙を作ります。訓練生が作った和紙は、近隣学校の卒業証書に使用されるほか、刑務官の名刺としても活用されています。

作業は数名のグループで行われており、取材時は14名の訓練生を2グループに分けていました。紙をすく機械だけでなく乾燥させる作業やゴミを取り除く作業などがあるため、それぞれが声を掛け合いながら取り組んでいました。

訓練生同士のコミュニケーションが必要になるため、最初はじっと端に立って、訓練に参加できない人もいるそうです。しかし、訓練を重ねるにつれて、徐々に輪に入れるようになるなど変化が現れると言います。担当者もそれぞれの特性を見ながら、過度に介入せず絶妙な距離を保つように工夫しています。

「会話はできなくても、輪に近づいただけでも本人の進歩、成長です。それを時折褒めながら見守っています」

和紙の製造では、パソコンや建築機械の職業訓練のように実務的なスキルを習得するのではなく、社会人としての基本的なスキルを身につけることを目的としています。黙々と作業をする知的障害や精神障害の特性を持つ人とマッチしやすく、困っている人の協力をする姿も見られるといいます。

今回の取材を通じて見えたのは、訓練生が置かれた背景を深く理解したうえで、社会復帰を支える職員たちの姿です。施設を出所したら、職員が訓練生達の仕事を直接支援することは困難です。だからこそ、個々に適した教育による更生の重要性を実感します。島根あさひ社会復帰促進センターが導入している教育更生の今後にも注目していきたいです。

丸山希商業ライター

投稿者プロフィール

愛媛県出身・広島県在住。
FP2級を保有しており金融記事・ライフスタイルコラムが得意。

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