マスク着用について 義務が解除されている今、もう一度考える

「マスク着用について 義務が解除されている今、もう一度考える」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

新型コロナウイルス感染症COVID-19が流行してから、長く着用が義務付けられていたマスクですが、2023年3月に厚生労働省は「屋内・屋外を問わず着用するかは個人の判断が基本となる」としました。
それから1年以上が経ち、マスクを着用している人は減少しています。

多くの人がマスクなしで外出できる状況は、歓迎されるべきですが、COIVD-19の流行の前からマスクは存在し、感染予防に大きな効果をもたらしています。
今後は、普段はマスクから解放されつつ、必要なときにはうまくマスクを利用して、感染症にかからないように対策をしていくことが重要です。

今回は、マスクを着用する機会が減った今だからこそ、再度確認しておきたいマスクの着用効果と、着用すべきタイミングについて解説していきます。

2021年3月12日における各国のマスク着用に関する施策状況

まずは、コロナ禍のマスク着用について、世界各国の施策状況を振り返るため、表にまとめました。

着用を推奨    日本、フィンランド           
特定の供用/
公共スペースで着用
台湾、香港、ロシア、スウェーデン、
ドイツ、ブラジル、チリ、
ニュージーランド、オーストラリア
すべての供用/
公共スペースで着用
韓国、マレーシア、イスラエル、
南アフリカ、ナイジェリア、イギリス、
アルゼンチン、カナダ
自宅外では常に着用フィリピン、インドネシア、シンガポール、
インド、トルコ、イタリア、フランス、
スペイン、メキシコ、アメリカ
施策なし
表1. 2021年3月12日における各国のマスク着用に関する施策状況
参考:橋元良明,篠田詩織,大野志郎,他.コロナ禍における人々の意識と行動―世界29カ国比較調査.東京大学社会科学研究所.2023.3 ISS research series No. 71

「社会の趨勢」によってマスク着用の施策は変わりましたが、基準が多様性にあったことが分かります。

そもそもマスクの効果とは

コロナ禍でマスクを着用が義務付けられたとき、多くの人が「マスクをつけて何が変わるのか」という疑問を持ちました。
この時期、さまざまな研究でマスクの有効性が検証されています。
令和5年の新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードより発表されている、マスクの着用の有用性に関する科学的知見という資料に、マスクの効果がまとめられています。
どのような効果があるのか見てみましょう。

まずマスクの着用は、会話や咳の際に、自分の感染性粒子を飛ばさないようにする効果があります。自分が罹っている感染症を、他の人にうつさないという効果があるということです。

他の人にうつさないという効果は、COVID-19の対策としてはとても重要でした。
インフルエンザなど、これまでの季節性に流行するウイルス性の疾患では、高い発熱やだるさなどの症状が比較的早期に出るため、他の人に移すような時期に外に出て、他人と接触することは少なかったのです。しかし、COVID-19は軽症の人では症状が軽いこと、発病前の潜伏期間にも他人にうつす可能性があることから、元気で症状のない人は、他の人に感染させてしまう危険性があるのです。

参考:西浦 博,阿南英明,今村顕史,他.厚生労働省. マスク着用の有効性に関する科学的知見

さらに、マスク着用について検討した論文をみていきましょう。
世界中の内科医師から、絶大な信頼を得ている医学雑誌であるNEJM誌に、2022年に掲載された論文があります。

「Lifting Universal Masking in Schools - Covid-19 Incidence among Students and Staff」(マスク着用ルールを解除した学校と継続した学校のCOVID-19発症率比較)というタイトルです。

米国のマサチューセッツ州が、2022年2月に、公立学校では一律にマスクを着用するという政策を撤回しました。この論文では、そのときから、マスク着用義務を解除した学校とそのままマスク着用を続けた学校を比較しています。その結果、マスク着用義務を解除すると、ルール変更後の第1週は、解除した学区では継続した学区に比べ、生徒と教職員1,000人当たり1.4人(95%信頼区間0.6-2.3人)、COVID-19の患者数が多くなりました。それが、第9週では9.7人(7.1-12.3人)に増えていました。15週間で、実際に増えた患者数は1万901人(8651-1万5151人)と推定されました。つまり、現在においてもマスクの着用は、COVID-19の患者を減らすのに役立っているのです。

参考:Tori L Cowger,Eleanor J Murray, Jaylen Clarke,et al. Lifting Universal Masking in Schools – Covid-19 Incidence among Students and Staff. N Engl J Med. 2022 Nov 24;387(21):1935-1946

これからのマスクとの付き合い方

ここまで、マスクがいまだに有効であることを解説しましたが、COVID-19が流行していたときのように、マスクを必ずつけて外出すべきかというと、一概にそうは言えません。COVID-19が流行し始めて間もない時期と比べると、今はワクチン接種率や既に感染した人の割合が増加しており、重症化する症例が少なくなっているからです。

そのため、屋外など、そもそも他の人と近い距離で長い時間いるわけでない場合や、十分に広い屋内などでは無理にマスクをする必要はありません。ただし、まだマスクをした方がいい状況というのは存在します。

マスクを着用すべき状況とは

マスクを着用すべき状況について考えてみましょう。

まず、感染した場合、重症化する可能性のある人が多くいる場所に行くときには、できる限り感染させないように、マスクを着用することが望ましいです。
例えば、医療機関や高齢者施設への訪問などがそれにあたります。日常生活でも、高齢者や基礎疾患のある人、妊婦など、感染がリスクとなりうる人と長時間過ごすときには、マスクの着用を検討しましょう。

マスクは他者を感染させない効果が強いのですが、自分の感染を防ぐ効果もありますので、満員電車など明らかな3密環境のときには着用できるように、マスクを携帯しておくと安心です。

参考:厚生労働省. マスクの着用の考え方について

マスクは必要に応じて活用を

今回は、マスク着用義務がなくなった後のマスクとの付き合い方について、解説しました。

マスクは、今も昔も感染症を防ぐ上で重要な役割を担ってきました。
COVID-19の流行が落ち着いても、うまく使うことで健康を守るツールとなります。
無理にマスクをつけさせたり、外させたりすることなく、個人個人の考え方を尊重しつつ、必要に応じてマスクをうまく利用しましょう。

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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