協力雇用主とは?出所者の社会復帰を目指して雇用する企業(株式会社渋谷組)
”協力雇用主”という言葉、制度があることをご存知でしょうか?
協力雇用主とは、犯罪や非行をした者の自立や社会復帰に向けて事情を理解した上で就職先として受け入れる、受け入れようとする民間事業主です。
刑務所からの出所者を雇用している企業の存在を知らない人も多いのではないでしょうか。知らない方にとっては知るきっかけになれば、協力雇用主に興味がある方にとっては参考になればと思います。
犯罪や非行をした人の就労支援を推進していくために手を挙げて活動されている事業主様にインタビューさせていただきました。協力雇用主をなぜやろうと思ったのか?良いこと、苦労することは何なのか?そして、これから実現したいことなどを株式会社渋谷組(しぶたにぐみ)の取締役部長である鉄信一様に伺いました。
<目次>
協力雇用主になったきっかけ
Q、御社の事業内容について教えてください
建設業でとびと土工をやっています。足場を中心にやっていて、解体作業の足場を組んだり、土木工事では水道管を取り替えたり、流雪溝という雪が流れるような設備を取り替えたりしています。冬の時期は、JRの機関庫という列車を修理する場所の除雪もやってます。
現在(2023年12月時点)、当社の社員は18名おり、出所者1名も含まれています。
Q、出所者を雇用しようと思ったきっかけは?
人手不足ということが一番のきっかけでした。若い世代の入社が少ないなかで解決策を模索していたところ、私の元警察官という経歴を活かし、出所者の雇用を検討しました。協力雇用主に相談し、2020年頃に初めて出所者1名を受け入れました。その後、2021年に私が当社に加わり、協力雇用主としての取り組みを本格化させました。
Q、社員の方にはどのタイミングでどうお伝えしましたか?
2023年11月に、刑務所ではなく拘置所で執行猶予を受けていた1名を採用しました。出所者を同じ職場で働かせる際には、その事実を社員全員に周知します。社員からの反応は「そうなんだ」という程度で、特に大騒ぎになることはありません。
予期せぬ問題を避けるため、罪名も社員に伝えています。先月から働いている出所者の罪名は窃盗です。そのため、社員はお金を持ち歩かない、または近くに置かないなど、問題が起こらないように注意を払っています。
出所者との関わりで意識していること
Q、出所者を雇用してみて実際いかがですか?
以前、私は警察官として留置所に勤務していて、刑務所と同様の業務を行っていたので、特に抵抗は感じていませんでした。これまで合計3名の出所者を雇用しました。
最近雇用した従業員についてですが、彼は内向的な性格で、指示された仕事は遂行しますが、自ら積極的に意見を述べるタイプではありません。以前雇用していた2名の従業員については社員からの評価を聞いていますが、彼らは問題なく仕事をこなしていたようです。出所者であるかどうかは関係なく、個人の性格や人格がその人の働き方に影響すると考えています。
彼らは季節限定のアルバイトとして働いており、そのうちの1名は別の会社で雇用されていた人の面倒をみていました。季節限定のアルバイト期間が終了したら、そのまま残っている人はいないですね。
Q、出所者を雇った当初と現在で、雇う側の気持ちや環境などで変わったことはありますか?
特に変わったことはありません。相手が緊張することのないよう、通常通りの対応を心掛けています。特に気を遣わずに言いたいことを言っていいし、指導が必要な場合には適切に行うよう社員には伝えています。“普通に接する”ということが、関わり方で特に意識しているポイントです。
一方で社員からの意見を聞くと、懸念を感じていることもあるそうです。出所者の中には傷害罪で服役した人もいて、彼らを刺激しないように配慮して接している場合があるとのことです。
出所者との仕事での良いこと、苦労すること
Q、出所者と一緒に仕事をするなかで、良いことや苦労することがあれば教えてください
出所者と一緒に働く機会は日常的になかなかなく、自分たちが模範となる必要があるので、社員教育になって良いことだと思います。出所者の方々との関わりを通じて、私たちの視野が広がっていると感じています。
しかし正直なところ、一部の社員は出所者を「刑務所にいた人」という先入観で見てしまうことがあります。このような上から目線は避けるべきですが、残念ながらそういう態度を取る社員はいます。
誰もが完璧ではありません。上から目線で他人を見る人に対して「あなたは完璧な人ですか?」と問うても完璧と答える人はいないでしょう。この問題を認識し、改善するための指導は社員教育の重要な部分です。
また、出所者の方が運転免許を持っていないことも、苦労する点のひとつです。刑務所に服役している間に免許が失効してしまうことが多く、青森のような地方では公共交通機関の便が少ないため、通勤や移動が困難です。そのため、出社や移動のための送迎を行う必要があるのが、大変なところです。
これは地方特有の問題ですが、交通機関が整ってないと日常生活において大きな障害となります。出所してから改めて免許を取ろうとしても時間やお金がかかるので、免許取得までの間、何らかのサポートが必要です。これは、出所者が直面する日常生活での重要な課題のひとつです。
Q、出所者に裏切られたような経験はありますか?
出所者の中には、連絡が取れなくなる方もいます。警察官をやっていた経験からすると、連絡が途絶える場合は再犯の可能性が高いと考えられます。再犯する人は、同じような罪を犯す傾向があります。出所者を信じてどこまでも面倒を見ても、また悪いことに手を染めてしまうこともあるので、なかなか難しいのかなと少し感じています。
誤解なく受け取っていただきたいのですが、最初から出所者を信用しないことも重要です。以前、協力雇用主から「信じ過ぎると裏切られた時のショックが大きいので、少しは疑うことも必要だ」というアドバイスを受けたことがあります。信頼は大切ですが、すべてを信じるのではなく慎重さを持って接する必要があるのが、この問題の難しい部分です。
求める人物像や今後のビジョン
Q、出所者に問わず、採用していきたい人材像は?
何事にも一生懸命で真面目で、コミュニケーションがとれて素直な人を求めます。建設業は、割とやんちゃな人が多いですが、大半が素直ですね。やんちゃだった人たちの方が明るいし、ダメなものはダメと言えます。
出所者の方は孤独を感じていると思うので、経営者の立場から言うと面倒をみてあげたいです。上から目線になってしまうかもしれませんが、どうにか雇用の機会を与えたいと考えています。
たとえば、受刑者等の専用求人誌「Chance!!」に掲載されている企業のように、住居の提供も含めたサポートを行っているところもあります。すべての面倒をみてもらうからには、出所者はある程度の覚悟が必要です。
弊社だけでは限界があるかもしれませんが、他の企業と協力して空き家問題などを活用して、出所者が住める場所を提供したり、自力で通勤できる環境を整えることも、支援のひとつの方法だと考えています。
Q、今後の目標やビジョンを教えてください
建設業界では若い人材が不足しています。特に青森県内では多くの若者が県外へ出てしまうので、そんな若者に魅力が伝わる会社を目指しています。
私自身もかつて建設業の実態をよく知らなかったため、この業界の魅力を積極的に伝えることが重要だと感じています。私たちが取り組んでいる足場工事やその他の技術は、職人の技によるものです。これらの技術を継承し、さらに発展させていきたいです。
一方で、出所者の年齢層はこれから上がっていくと思います。青森刑務所を訪問した際、特に高齢者が多いことが印象的でした。年配の方でも働ける職場環境を整えるためにも、新しい事業を見据えながら今後も活動していきます。
Q、最後に、協力雇用主に関して伝えたいことがあればお願いします
協力雇用主は覚悟を決めて、受刑者たちを雇う受け口を作りたいという想いを持っています。
出所者には、「ラッキー!ここで働ける!」という軽い感覚ではなく、自らが会社にとってプラスとなるという意識を持って入社してほしいと思います。受け入れる側の覚悟に見合う、強い決意を持って挑戦してもらいたいです。
悪いことをして刑務所に入ったので、自分が変わる必要があることは前提として、やはり覚悟は決めてほしいです。入社する人の中には、「うまくいかなければ辞めよう」と考える人もいるかもしれません。どこか逃げ道を作ろうとか、揚げ足とってやろうという態度ではなく、自分を変えて会社に貢献してほしいですね。
株式会社渋谷組(しぶたにぐみ)
https://www.shibutani-gumi.com/
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