再犯防止に不可欠なのは「働く場所」の確保。社会復帰を阻む壁と再犯防止に向けた取り組み

再犯防止に不可欠なのは「働く場所」の確保。社会復帰を阻む壁と再犯防止に向けた取り組み

前回の記事では、刑事弁護人が担う「情状弁護」について詳しくお伝えしました。被告人が罪を認めている場合に、いかに更生の可能性を裁判所に示していくかという実務の裏側を解説しています。

今回は、判決が出た後のステップである「社会復帰支援」がテーマです。執行猶予などで社会に戻る機会を得ても、その後の支援が足りなければ再犯を防ぐことは難しくなります。

国が推進する「再犯防止推進法」に基づき、現在はどのようなサポートが行われているのでしょうか。最新の取り組みを紹介するとともに、現場が抱える人手不足や社会的な偏見といった根深い課題についても、具体的に掘り下げていきます。

<目次>

再犯防止に向けた社会復帰支援の取り組み

受刑者の社会復帰支援に向けて情報収集する担当者

情状弁護を尽くして執行猶予になるなど、被告人が社会内で更生の機会を得られたとしても、その後の社会復帰支援が十分でなければ再犯を防ぐことは困難です。近年、国もこの点を重視しており、2016年には再犯防止推進法が施行され、官民連携した更生支援が推進されています。
 参考:再犯防止推進法

法務省や地方自治体は再犯防止推進計画を策定し、刑務所出所者や保護観察対象者に対する包括的支援策を展開しています。具体的な支援施策としては次のようなものがあります。

  • 就労支援
    安定した職に就くことは更生の要です。法務省はハローワークと連携した専門窓口「コレワーク」を設置して出所者の職業紹介を行い、民間企業にも協力雇用主として元受刑者を積極的に雇用する動きがあります。また刑務所・少年院内でも職業訓練が実施され、必要な技能習得を支援しています。
  • 保健医療・福祉サービスの支援
    出所者の中には精神疾患や知的障害、依存症などの問題を抱える人もいます。厚生労働省や福祉団体と連携し、矯正施設内での治療プログラムや出所後の医療・生活保護支援につなぐ施策も取られています。特に薬物事犯者に対しては薬物依存リハビリテーションプログラム、高齢・障害受刑者には地域生活定着支援センターと連携した福祉的支援が用意されています。
  • 教育支援と更生プログラム
    高卒認定や職業資格の取得支援、読み書きや生活技能の指導など、社会復帰に必要な基礎教育や社会性回復プログラムも重要です。若年出所者には、地域の教育機関やNPOと連携して学び直しの機会を提供し、更生を後押しするケースもあります。
  • 住居の確保と生活基盤整備
    住む場所がないということは、全く生活が安定しないことを意味します。この不安定は、あらゆる再犯のリスクを高めてしまうため、更生保護施設(いわゆる「宿泊付きの更生施設」)や自立準備ホームが出所者を受け入れ、一時的な住居と生活指導を提供しています。

出所後の住居支援は、文字通り一時的なものに留まります。障害や年齢等を理由に自立することが困難な場合であったとしても、支援の期間は最長でも12か月とされています。住居の支援は更生の土台ですが、現状では定員や予算の制約もあり全員を十分には支えきれていません(※本記事では住居支援の詳細は割愛します)。

  • 民間ボランティアとの連携
    地域でボランティアの保護司や更生保護団体が出所者の生活を見守り、相談に乗っています。保護観察所の指導の下、保護司が定期的に面談して更生をサポートする体制があります。またNPO法人や教会・社団法人などが「居場所づくり」や就労支援で協力する例も増えています。
  • 弁護士による更生支援(よりそい弁護士制度)
    最近では、弁護士会が中心となり「よりそい弁護士制度」が各地で始まっています。これは罪を犯した人に寄り添って、裁判が終わった後も受刑中・出所後まで継続的に支援を行う弁護士の仕組みです。刑事裁判が終わった後や、刑期を終えて出所した後の各種行政窓口への申請や各種支援の相談について、弁護士が同行する等して助言・補助を行うというものです。

国選弁護人としての役割を超えて、判決後の社会復帰まで弁護士が伴走するこの制度は、再犯防止に向けた新たな取り組みとして注目されています。

このように就労・医療・教育・住居・付添い支援など多方面から切れ目のない支援を提供することが再犯防止策の柱となっています。しかし、現場では依然としていくつかの課題も指摘されています。

社会復帰を阻む壁と支援の課題

ノートパソコンを見る協力雇用主

まず、資源とマンパワーの不足です。出所者の数に対して、更生保護施設や保護観察官・保護司の数は十分とはいえません。特に職場定着支援や専門的ケアが必要なケースでは、マンパワーによる支援には限界があります。また、社会全体として受け皿となる企業や地域コミュニティの協力もまだ十分とは言えず、「働き口がない」「帰る家庭がない」人が少なくありません。

実際、再犯者の約7割は犯行時に無職であり、職がない人の再犯率は職がある人の約3倍にも達するといわれています。このように仕事や生活基盤を失った人ほど再犯しやすい現実があり、彼らをどう社会に繋ぎとめるかが課題です。

次に、社会の偏見とハンデの問題があります。一度罪を犯すと、就労や人間関係においてさまざまなハンディキャップを背負うのが現状で、どれほど更生の意思があっても社会復帰が思うようにいかないことが再犯要因になっています。前科があることによる偏見や雇用の忌避、身元保証人の不在など、本人の努力だけではどうにもならない壁が存在します。この点を解消するには、社会一般の理解を深め、元受刑者を排除しない包摂的な地域づくりが不可欠です。

さらに、切れ目のない支援の難しさも挙げられます。刑務所内でいくら改善指導を行っても、出所後に支援が途切れてしまえば元の環境に逆戻りしがちです。制度上は受刑中から保護観察所や更生保護施設と連携して出所プランを立てますが、それが実際の地域生活に十分引き継がれずフォローが不十分なケースもあります。

たとえば、せっかく協力雇用主制度等を利用して、出所後すぐに就職できたとしても、仕事内容とのミスマッチや人間関係がうまくいかない等の理由から定着できず、短期間で辞めてしまうということがあり、再び無職に戻って犯罪に手を染めるという負の連鎖も起こり得ます。

これを防ぐには、就職後しばらくはジョブコーチが職場を訪問するなど「伴走型支援」を続けることが理想ですが、現状では一部のモデル事業にとどまっています。一人の受刑者・出所者のために複数人が支援するモデルには、それだけの(人的、金銭的)コストがかかるのです。
このように、再犯防止施策は少しずつ充実し成果も上がりつつありますが、同時に制度的・運用上の改善点も多く残されています。官民の連携をさらに強化し、出所者一人ひとりの事情に合わせたきめ細かな支援を切れ目なく提供していくことが今後の課題と言えるでしょう。

足立直矢弁護士

投稿者プロフィール

大阪大学法学部卒,軽犯罪から重大犯罪、経済犯罪や収賄事件に至るまで幅広く担当。情状弁護,再犯事件,非行少年の弁護にも注力。時には厳しいアドバイスをすることもあり、依頼者やその家族からの信頼は厚い。

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