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「音楽は心を潤す」という言葉を耳にしたことはありませんか?
実は音楽は、私たちの心を癒すだけでなく、子どもの発達にも驚くべき効果を発揮します。
近年、医療や教育の現場で注目を集めている「音楽療法」。 これは、音楽の力を活用して心身の健康を促進する治療法で、音楽療法を専門にした「音楽療法士」という職業があるくらいです。
今回は、さまざまな医学論文から、音楽療法が子どもの発達に与える素晴らしい効果を紹介するとともに、それを支える音楽療法士の役割について、分かりやすく解説していきます。
音楽療法の効果その①:自閉症などの発達障害を「癒す」
発達障害の治療に、音楽療法はよく使われています。
例えば、発達障害の一つに、自閉症スペクトラム障害(ASD)という、社会性やコミュニケーションに困難さを持つ発達障害があります。
近年、このASDに対する音楽療法の効果が注目されているのです。
2014年に発表された研究では、165人のASD児を対象に、音楽療法の効果を検証した10件の研究を分析しています。
その結果、音楽療法を受けたASD児は以下のようになりました。
- 社会的な相互作用が、約0.71SD向上
- 非言語的コミュニケーション能力が、約0.57SD向上
- 言語的コミュニケーション能力が、約0.33SD向上
- 自発的な行動が、約0.73SD向上
- 社会情緒的相互性が、約2.28SD向上
(SD:標準偏差)
1SDというと、ちょっとイメージしづらいかもしれませんが、これは効果量としては「中程度から大」に分類されます。そう考えると、社会情緒の相互性が2.28SD向上というのは、ものすごい大きい効果にあたります。
そして、社会情緒が高くなるということは、例えば、以下のようなことができるようになるのです。
- コミュニケーション能力の向上: 他者の感情を理解し、自分の感情を表現できるようになることで、スムーズなコミュニケーションが可能になります。
- 社会性の発達: 周りの人と適切な関係を築き、社会の一員として適応していくために必要な能力を育みます。
- 情緒の安定: 自分の感情をコントロールし、ストレスをうまく解消できるようになり、心の安定につながります。
- 学習意欲の向上: 先生や友達と良い関係を築けるようになり、学習意欲や集中力が高まります。
- 自己肯定感の向上: 周りの人と良好な関係を築き、受け入れられる経験を通して、自己肯定感を育みます。
- 問題解決能力の向上: 他者と協力し、コミュニケーションをとりながら問題を解決する力を養います。
ASDという発達障害に対して、これだけの効果が確認されている治療法はなかなかありません。
音楽療法の効果その②:言語障害も改善する
音楽療法は、単に「心を癒すツール」ではありません。言語能力も改善する効果が認められています。
実際、2010年に発表された研究では、3歳半から6歳までの言語発達遅滞のある子ども18人を対象に、音楽療法の効果を、SETK 3-5という言語発達テストを用いて測定しました。
すると、音楽療法を受けた子どもたちは「非単語の音韻記憶」と「文章理解」の能力が有意に向上していたのです。
具体的には、音韻記憶の平均点では、音楽療法前は37.4点でしたが、音楽療法後は47.0点にまで上昇しました。また、文章理解の平均点は、音楽療法前は37.4点でしたが、音楽療法後は48.2点にまで上昇しています。
さらに、音楽療法により、文の記憶や形態統語規則の生成、単語列の記憶といった、他の言語能力の向上も示唆されています。
このように音楽療法は、言語発達遅滞のある子どもたちの言語能力を向上させるうえで、有効な治療法となり得ると考えられているのです。音楽ってすごいですね。
音楽療法の効果その➂:入院中の慢性疾患の子どもたちにもさまざまな効果が
もうひとつ、面白い研究があります。なんと脳とは関係ない疾患などで入院中の子どもたちにとっても有益だというデータがあるんです。
2022年に報告されたドイツの研究では、慢性の消化器疾患および腎臓疾患を患う小児が、小児特別治療室 (SCU) および小児集中治療室 (ICU) で退院するまで、週 2 ~ 4 回音楽療法士による音楽療法を受けてもらいます。
結果、子供たちが音楽療法を受けると、以下の通りバイタルサインが軒並み安定するようになったのです。
- 心拍数は1分あたり18回減少
- 酸素飽和度は2.3%増加
- 収縮期血圧は9.2%減少
- 拡張期血圧は7.9%減少
特別治療室や集中治療室に入る子どもたちは、生死の境目を経験するような子どもたちです。バイタルサインが安定することは、後々の予後にも大きく影響します。
そのなかで、音楽療法がこれだけの成果をあげたことは素晴らしいですよね。
今回は、子どもに限っての研究を紹介しましたが、他にもアルツハイマーやパーキンソンなど色々な疾患に応用されています。
音楽療法のプロ、音楽療法士の仕事
音楽療法が素晴らしいことは分かったと思いますが、誰でもできるスキルではありませんよね。音楽療法を突き詰めて学び、実践している職業があります。
それが、「音楽療法士」です。
音楽療法士は、音楽の力を利用して、人々の心身の健康をサポートしていきます。
音楽には、気分をリラックスさせたり、高揚させたり、記憶を呼び覚ましたりするなど、様々な効果があります。音楽療法士は、これらの効果を熟知し、患者さんの状態に合わせて音楽を選び、演奏したり、歌ったり、音楽を聴いたりする活動を通して、患者さんの心身の健康を改善していくのです。
音楽療法士は、病院、高齢者施設、障害者施設、学校など、様々な場所で働いています。患者さんの年齢層も乳幼児から高齢者までと幅広く、それぞれのニーズに合わせて音楽療法を行います。
では、どうやって音楽療法士になるのでしょう。
日本では、音楽療法士の資格は現在、民間の資格です。数種類の音楽療法士の資格がありますが、日本音楽療法学会の定める音楽療法士は、認定された養成校で3年以上学び、試験に合格することで取得できます。養成校では、音楽療法の基礎知識や技術に加えて、医学、心理学、福祉などの関連分野についても学びます。このような資格が法整備されて国家資格となることは日本の子どもたちの未来のために必要なことだと考えます。