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- リーゼント刑事が現場で対峙したドラッグの現実【前編】〜脳を狂わす「覚醒剤」という悪魔〜

おはようさん。リーゼント刑事こと秋山です。
3月は、別れと始まりが同時にやってくる季節です。朝晩はまだ冷える日もありますが、昼間の日差しは確かに春の気配を感じます。厚手の上着を脱ぐ人が増え、気持ちも少し前へ進もうとします。
そんな時期は、知らず知らずのうちに心のガードも緩みがちです。新しい環境、新しい人間関係、知らないうちに背伸びをしてしまう時期でもあります。その一歩が、思わぬ方向へずれてしまうこともあります。今日はこの3月という季節にこそ、読んで欲しい事を書いていきます。
<目次>
更生を誓った19歳の少年を蝕んだ覚醒剤

警察署の刑事課に一本の電話が入りました。相手は、かつて私が逮捕し、20日間にもわたり取り調べをした19歳の少年でした。やんちゃではありましたが、向き合ううちに心を開き、世間話や将来の話をするようになりました。
その後、少年は逮捕され、少年院で一年程過ごした後、出所するとすぐに「秋山さん、今出ました!」と律儀に連絡をくれました。後日、その少年と少年の彼女と私の3人でステーキ屋に食事に行きました。
その時少年は、「彼女と近々結婚します。立派ないい家庭を築き、トラックの運転手になってがんばります。そして彼女との子供を作ります」と真っ直ぐな目で誓ってくれました。
その後もしばらくは頻繁に電話があり、「おはようございます!」と元気な声を聴かせてくれていました。しかし、ある日を境に連絡が途絶えました。仕事探しに忙しいのだろうなぁ。と思っていた頃、大阪で張り込みをしていた私のポケットベルが鳴り、警察署からの連絡でした。
その当時携帯電話はなかったので、近くの公衆電話に走り、嫌な予感とともに警察署の刑事課に電話をすると、「秋山、〇〇少年から電話やで、なんか急ぎの電話らしいわ」と言われたので、急いでの少年に電話をかけました。
「もしもし、秋山やけど何があったん?」と聴くと泣きながらその少年が「もう俺死ぬから。俺、もう駄目なんや。ダメなんや…」と言うのです。私は「ちょっと待て!今大阪におる、明日必ず行くから、話聴くわ。ちょっと待ってくれ!」と伝えても少年は、「いや、俺もういい。俺死ぬから。死ぬ。死ぬ…」と言い電話が切れました。
翌朝、急いで自宅を訪ねると、玄関から廊下にかけて大量の血が流れ、室内は惨状でした。ガラスを割り続けて全身を傷つけ、パンツ一枚の姿で大の字で失血死していました。少年は解剖の結果、覚醒剤を使用し錯乱状態だった事が判明。なんでこんな状態になったんだ…。
解剖が終わった後、「私がすまんかった。ほんまにごめん…」と言いながら看護師さんと共に少年の遺体の傷が大きいところを包帯で巻き、ご家族に引き渡しました。なんで少年からの連絡を優先しなかったのかと何度も何度も自分を責めました。
翌々日、少年の葬儀があり、私はその葬儀に出ました。その時、お母さんから言われた言葉が…「あの時、うちの息子を覚醒剤の現行犯で逮捕してくれていたら、死んでなかったかも知れないですね」ほんまにきつかった…。お母さんの言うとりやと。その言葉は今でも胸に刺さっています。
「刑事に覚醒剤を打たれた」と妄想を叫び続ける

覚醒剤は、少年の命だけでなく、家族や彼女、生まれてくるはずだった子供の未来まで一瞬で奪う「悪魔のような薬物」です。もしこの文章を大人になろうとしている少年や少女が読んでいるなら、どうか覚えておいて欲しい。「覚醒剤」は、勇気や強さをくれるものではない。一度で人生を狂わせる。
君たちの命は、誰かに試されているものでも、軽く扱われるものでもない。どんなに苦しくても、逃げ道は他にあります。だから、絶対に覚醒剤に手を出さないでくださいと…。
知っている方もいらっしゃると思いますが、簡単に「覚醒剤」と呼ばれているものは何か?について説明します。日本で「覚醒剤」と呼ばれているものの正体は、主に「メタンフェタミン」という科学物質です。もともとは医療用途として研究された経緯もありますが、現在は強い依存性と危険性から、法律で厳しく禁止されています。
➀覚醒剤の「所持・譲渡・譲受・使用」
- 単純…1年以上の有期懲役
- 営利…有期懲役又は情状により500万円以下の罰金の併科
➁覚醒剤の「営利目的(輸入・輸出・製造など)」
- 単純…1年以上の有期懲役
- 営利…無期若しくは3年以上の懲役又は情状により1000万円以下の罰金の併科
※参考:厚生労働省・あやしいヤクブツ連絡ネット
私が機動捜査隊にいた時代に、ラブホテルの管理人から110番通報がありました。内容は「女性が一人で2日間連泊し、毎晩、意味不明な叫び声をあげている。様子がおかしい」というものでした。
私は覆面パトカーで現場に急行し、管理人の立ち合いのもと部屋に入ると、女性は一人で錯乱状態にあり、意味不明の言葉を叫び続けておりました。室内のテーブルには、小袋(いわゆるパケ)に入った粉と、注射器が乱雑に置かれており、会話は成立せず、状況は明らかに異常でした。
その白い粉を簡易検査したところ、覚醒剤の陽性反応が出たので、覚醒剤所持の現行犯逮捕し、最寄りの警察署へ連行しました。取り調べが始まると、女性は一貫して「リーゼントの刑事に無理やり打たれた!」と供述したのです。初対面にもかかわらず、20日間の取り調べを通しても供述は変わらず…。
しかし鑑識の結果、覚醒剤の袋も注射器も、検出された指紋は女性本人のものだけでした。事件は裁判へと続きます。女性は法廷でも同じ嘘偽の供述を繰り返しました。それを聞いた裁判官は強く叱責し反省がないと実刑判決が下されました。もちろん、私は女性に覚醒剤を打っておりません。なぜ彼女は私のせいにしたのか…。今もなお不明です。
この事件で痛感したのは、「覚醒剤」という違法薬物は、人をおかしくする程度のものではないということ。ラブホテルで錯乱し、ありもしない妄想を語り続けたあの女性のように、脳を狂わせ、現実と嘘構の境目を奪う。そして、将来を誓い、真面目に生き直そうとしていた少年のように、突然すべてを投げ出させ、自らの命を絶つところまで追い込むこともある。
「覚醒剤」は一瞬の高揚と引き換えに、人間の理性、尊厳、未来を容赦なく削り取っていきます。壊れるのは本人だけではありません。家族も恋人も、生まれてくるはずだった子どもまで…。私は、現場で、その現実を何度も何度も見てきました。だからこそ強く言います。絶対に「覚醒剤」に手を出すなと。
「シャブ取り名人」として覚醒剤は絶対に許さない

今回書いた2つの事件は、私の中に強い怒りと決意を残しました。「覚醒剤」に人生を壊された人間を、もうこれ以上見たくない。だから私は、「シャブ」を絶対に許さないと腹をくくりました。
刑事時代、ただ取り締まるだけでは足りない。現場で何が起きているのか、どんな兆しがあるのかを徹底的に観察し、「覚醒剤」に手を出した人間の変化を見抜く力を磨きました。いつしか周囲から「シャブ取り名人」と呼ばれるようになったのもその延長上にあります。
余談ではありますが、なぜ「シャブ」と呼ぶのか?
・「骨までしゃぶられる」説
依存性が極めて強く、人生や心身がボロボロになるまで吸いつくされるというイメージから
・「さぶい(寒い)」説
注射をしたときに体が寒くなる(さぶい)感覚があるから
・「シャブシャブ音」説
水で溶かして振ると「シャブシャブ」と音がする
などと言われています。が、どれが本当の説なのかはわかりませんが、ひとつだけ確かな事は、「覚醒剤」が人の人生を静かに、そして確実にしゃぶり尽くしていくということです。
次回は、今回書ききれなかった【後半】として、私がどのように「覚醒剤」と向き合い、見分け方を極めていったのかを詳しく書きたいと思います。
さらに、日本だけでなく世界に目を向けた薬物の現状や、次々と姿を変える違法薬物の危険性についても触れていこうと思います。違法薬物の問題は、決して過去の話でも、他人事でもありません。その現状を、引き続きお伝えしていこうと思います。













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