東京報道新聞

近年、全国において、多額の被害をうける「特殊詐欺」が発生しています。昨年の2024年は被害総額が700億円を超えており、手口も巧妙化されています。今回は特殊詐欺に至るまでの歴史を紐解いていきたいと思います。

<目次>

• 闇金から始まった特殊詐欺の系譜
• 携帯電話の普及によって生まれた「オレオレ詐欺」
• 時代とともに形を変える詐欺、そして「特殊詐欺」へ

闇金から始まった特殊詐欺の系譜

現在横行している「特殊詐欺」に至る流れは、1992年に暴対法（暴力団対策法）が施行され、かつて安定していた暴力団の資金源である「めかじめ料」など、この暴対法（暴力団対策法）により減少した事が原因です。

そもそも「特殊詐欺」の元は1990年前後から2000年前後にかけて、日本国中に「闇金」が横行したことが始まりです。「闇金」の始まりは静岡県の指定暴力団●●会が作り上げた犯罪グループです。

「闇金」は、バブル崩壊後に全盛期となり、当時の闇金は高金利であるトイチ（10日で1割の金利）で貸し付けをし、その後、暴力的に取り立てを行っておりました。これが社会問題となり、警察が全国的に摘発するようになりました。

「闇金」を最初に形にした指定暴力団●●会が、多重債務者リストを作り上げました。指定暴力団●●会内にあった、通称「センター」と呼ばれる部署が顧客情報を管理し、この多重債務者リストに基づいて、暴力団員らが電話やメールで融資を誘いました。

この手口は金融機関から融資が受けられない多重債務者に対して、暴力団員らが低金利で融資出来るなどと誘い込み、高金利で融資していたものです。その多重債務者リストが、現在の「特殊詐欺」の闇名簿につながります。この時期、返済が出来ない者の自殺が多発して社会問題となりました。

この頃私は、徳島県警の捜査一課の刑事であり、「闇金」の捜査も多く、今でも強く記憶にある事件があります。「闇金」から融資を受けた者（債務者）が支払い不能になり、必要以上の取り立てを暴力団員から受け、「お前の生命保険で支払え！」と、山奥に連れていかれ、車の運転席に座らされ、崖下に向け急発進させられ、転落するという偽造の交通事故を装う死亡事故が起きました。

その時、亡くなる前に車内の天井には「犯人は✖✖です」（※✖✖は取り立てを行っていた暴力団員の名前）と亡くなる前に債務者の血で書かれていました。このように、「闇金」が広まるにあたり、自殺や事故を装った事件にまで発展する悪質なケースが相次ぎました。

携帯電話の普及によって生まれた「オレオレ詐欺」

その後、携帯電話の普及によって、携帯電話を使った詐欺に移行し、それにより「闇金」から「オレオレ詐欺」へと犯罪形態が変わりました。2003年に鳥取県警が「オレオレ詐欺」と命名しました。

「オレオレ詐欺」とは、被害者に電話を掛けて「俺だよ！俺！」などと家族や子供を装って現金を騙し取る詐欺のことです。典型的な手口だと「交通事故を起こしたから100万円をすぐに指定する口座に振り込んで！」「会社のお金を使い込んでしまったから今すぐ200万円を振り込んで！」などと子供や孫を装って嘘をつき、現金を騙し取る犯行でした。2000年頃から高齢者を対象に全国的に発生しました。

「オレオレ詐欺」が全国的に横行したのは、都内に存在する指定暴力団■■会が主導で始まりました。「闇金」と「オレオレ詐欺」は大きな違いがあり、「闇金」の場合、返済を強いるには、債務者を継続的に追い込む必要があり、発覚や摘発のリスクが高い状況でした。

それに対して「オレオレ詐欺」は被害者本人が自らの意思で現金を振り込む、あるいは手渡すため、加害者側は強制する手間が省けるため、犯罪者にとって参入しやすく、真似をする暴力団の温床となりました。

そこで、他の暴力団が、その指定暴力団■■会から一部のオレオレ詐欺グループを買い取るという利権が発生するようになりました。取引額は数百万円単位で行われたとされ、まるで企業のM＆Aのように売買されておりました。ようするに「オレオレ詐欺」で資金源を確保した指定暴力団■■会を真似する暴力団が増えてきたのです。

私が現役刑事の時、銀行から「詐欺の被害者らしき高齢女性が、ATMでお金を振り込もうとしています」と110番通報がありました。直ちに銀行に行き、その被害者に詐欺であることを説明しました。しかし、「邪魔しないでください。孫が大変なんです！」と刑事である私の話も一切聞くことなく、振り込みを続けようとされました。

このように「オレオレ詐欺」は、一瞬で人間心理の脆弱性を突く詐欺であり、第一に時間的プレッシャー（緊急性）をかけ、第二に「このままだと孫が警察に捕まる！」などの恐怖や不安を与え、第三に弁護士や警察官、会社の上司などと権威のある存在からの指示ということから（心理学でいう権威への服従効果）、被害者は周りが見えなくなり振り込みをしてしまう、善意を悪用する極めて陰険で悪質な犯罪でした。

新聞やテレビで大きく報道され「オレオレ詐欺」が一般に浸透し、警察としては「オレオレ詐欺」以外もまとめて取り締まりたい！との考えから2004年に警察庁が公式に「振り込め詐欺」（オレオレ詐欺も含む）という総称を使い始めました。「振り込め詐欺」は2003年頃から全国的に流行しました。警視庁の調べによると、2004年の被害総額は約283億円、一番被害が多かった2014年は約565億円です。

時代とともに形を変える詐欺、そして「特殊詐欺」へ

「振り込め詐欺」は大きく4種類に分類されておりました。1つ目は「オレオレ詐欺」、2つ目が「架空請求詐欺」です。インターネット系で最も多かったのが「アダルトサイトの利用料金が未払いです。今日中に支払わないと法的手段をとります」のような文章を送りつけ、被害者は実際にはそのサイトを使用していないのにもかかわらず、恥ずかしさや不安に漬け込んで入金させる詐欺です。

「架空請求詐欺」は、その他にも電話やSMS（ショートメール）で「今日中に払えば裁判になりません」などと脅す詐欺、ハガキで「裁判所からの通達」などと印字されたハガキを送り振り込ませる詐欺、「商品の代金が未払いです」「代引きの品物があります」などの内容で「もしかしたら家族が頼んだのかも…」と思い込ませ、支払いをさせる宅配・通信販売系の詐欺がありました。

3つ目が「融資保証金詐欺」です。実際には融資は行わないのに、簡単に融資が出来ると思い込ませ、融資希望者に「融資するにはまずは保証金が必要です」などと言って保証金を振り込ませそのまま持ち逃げする手口の詐欺です。

4つ目が「還付金詐欺」です。医療費や税金、保険料等について「還付金があるので手続きしてください」などと騙して、被害者にATMを操作させ、被害者の口座から犯人の口座に送金させる詐欺です。特に「還付金詐欺」は、被害届を出さない人も少なくありません。

人の欲というものは、時に沈黙を生みます。「オレオレ詐欺」の被害者は「息子を助けようとした！」などと、多少の正義感が含まれるため、ほとんどの方が警察に被害届を出されます。

それに比べて「還付金詐欺」の被害者は、「あぁ…欲に目がくらんじゃったのね！」と思われるんじゃないか？と、詐欺に遭ったことを恥ずかしいと思い、家族にすら話せず、泣き寝入りしてしまうケースも多いです。

時が経つにつれ「振り込め詐欺」も現金の受け取り方が多様化し、「振り込め」だけでは説明できなくなっていき、詐欺全体がより複雑で組織的になっていきました。振り込みに限らず、電話やメールを悪用し、人を騙し、現金などを騙し取る組織的な詐欺です。2014年に警察庁が「振り込め詐欺」の名称を廃止し「特殊詐欺」と総称が公式に用いることを決めました。

今回は「特殊詐欺の歴史」の前編として、特殊詐欺に至るまでの歴史について書かせてもらいました。次回は「特殊詐欺の歴史」の後編として、特殊詐欺の手口、闇バイト強盗、匿名流動型犯罪グループ、強盗から身を守る対策などを深堀していきます。