「令和7年度関東ブロック再犯防止シンポジウム」が開催。元非行少年や高齢受刑者を孤立から救う地域の役割とは

令和7年度関東ブロック再犯防止シンポジウム集合写真

2026年2月14日、「令和7年度関東ブロック再犯防止シンポジウム」が、早稲田大学の国際会議場で開催されました。本シンポジウムでは「民間協力者による社会課題解決としての再犯防止の取り組み」をテーマに、矯正・福祉・教育・企業・報道など多様な立場の関係者が集い、再犯防止をめぐる現状や課題について意見が交わされました。

本記事では、元当事者の支援活動、福祉現場の取り組み、学生による更生保護活動、そして矯正施設の現場の視点など、多角的な議論が行われた当日の様子をレポートします。

<目次>

第一部:民間協力者によるリレー講演

第一部では、再犯防止に関わる民間の協力者や学生が登壇し、それぞれの立場から現場での取り組みや課題が共有されました。元非行少年による支援活動、福祉現場での触法障害者支援、女性受刑者の高齢化を巡る社会問題、教育を通じた再挑戦の支援、そして学生による更生保護活動など、多角的な視点からの報告が行われ、再犯防止の現状と課題が立体的に示されています。

元非行少年が尽力する再非行防止活動

NPO法人再非行防止サポートセンター愛知・高坂朝人氏

なかでも、元非行少年が取り組む再非行防止活動は、特に印象に残る内容でした。NPO法人再非行防止サポートセンター愛知の高坂朝人氏は、自身も非行や犯罪に及んだ過去を持つ当事者として、更生には本人の決意だけでなく「一人では変われない」という視点が不可欠であると語っています。

実際に高坂氏は、妻の妊娠を機に立ち直りを決意したものの、生活の立て直しには多くの困難が伴ったことが明かされました。そうした経験を踏まえ、現在は少年院への面会や自立準備ホームの運営、家族支援などに取り組んでいます。支援期間が終わっても関係を切らず、地域の中で孤立させないことこそ、再非行防止の土台になると訴えました。

触法障害者が社会で働くために

社会福祉法人邑元会「しびらき」相浦卓也氏

社会福祉法人邑元会「しびらき」の相浦卓也氏は、知的障害のある触法者を受け入れた実践を通じて、再犯防止には就労や生活支援だけにとどまらず、「ここにいていい」と思える居場所と人間関係が不可欠だと語ります。

施設での受け入れ経験を踏まえ、本人が地域の中で役割を持ち、顔の見える関係を築いていくことの重要性を実感していると説明しました。さらに、かつて地域住民の反対に直面しながらも、地域課題に貢献しながら信頼を少しずつ積み重ねてきた経緯にも言及。そうした歩みを振り返りながら、障害の有無を超えて自然に混ざり合う社会こそが、更生と共生を支える土台になると訴えました。

女性受刑者の高齢化と社会的孤立への問題提起

読売新聞東京本社 猪熊律子氏

読売新聞東京本社の猪熊律子氏は、女性刑務所の取材を通じて、高齢の受刑者が増加し、刑務所が更生の場であるだけでなく、介護や見守りの機能まで担う現実を報告しました。万引きなどの背景には、経済的困窮だけでなく、家族関係の断絶や孤独、生きづらさが深く関わっているといいます。

社会に戻っても迎えてくれる人や居場所がなく、再び塀の中に戻ってしまう「負の回転扉」の構図は、刑務所の問題であると同時に、社会保障や地域支援の不十分さを映し出すものです。猪熊氏は、犯罪の背景にある孤立に目を向ける必要性を強く訴えました。

「何度でもやり直せる社会」の実現を目指した教育事業

株式会社キズキ 安田祐輔氏

株式会社キズキの安田祐輔氏は、「何度でもやり直せる社会をつくる」という理念のもと、不登校や発達障害、生活困窮など困難を抱える人への学習支援に取り組んできたと語りました。現在は自治体や法務省とも連携し、少年院での学習支援や高卒認定試験の指導も行っています。

安田氏によれば、学力を身につけることは進学や就労の可能性を広げるだけでなく、将来の生きづらさを減らす土台にもなるといいます。一方で、支援の出発点として重視しているのは、すぐに成果を求めることではなく、まず安心して通える居場所をつくること。失敗しても否定されない環境で心を回復し、小さな成功体験を積み重ねることが、再挑戦への第一歩になると訴えました。

学生が現場体験で得た学びと共生の未来

早稲田大学広域BBS会

学生発表では、田園調布学園大学BBS会、文京区BBS会、立教大学掛川ゼミ、早稲田大学小西ゼミ、早稲田大学広域BBS会が、それぞれの実践や学びを共有しました。

それぞれの発表で共通していたのは、「再犯防止や更生支援は制度や専門職だけで完結するものではなく、若者が当事者と同じ社会で関わり続けることにも大きな意味がある」という視点です。

学生たちは、学習支援や施設見学、対話、インタビュー調査などを通じて、罪を犯した人を一面的に捉えるのではなく、その背景にある孤立や生きづらさ、社会復帰の難しさに目を向けるようになったといいます。

現場に触れたからこそ見えてきたのは、支援とは特別なことではなく、相手を知り、社会とのつながりを絶やさないよう関わり続けることの大切さでした。学生たちの報告は、共生社会の担い手として、若い世代に期待が寄せられていることを印象づけるものだったのではないでしょうか。

第二部:パネルディスカッション

パネルディスカッションの様子

第二部のパネルディスカッションには、第一部で講演した高坂氏、安田氏、相浦氏、猪熊氏に加え、市原青年矯正センター・センター長の稗田崇氏が参加しました。早稲田大学の小西暁和教授がコーディネーターを務め、議論では、「受刑者支援をどのように社会の理解につなげるか」「被害者感情とどう向き合うか」さらに「若い世代がこの問題をどう自分事として捉えていけるか」が大きなテーマとなりました。

受刑者支援と被害者感情のジレンマ

再犯防止に向けた支援の必要性が確認される一方で、被害者感情との間にある難しさも率直な意見が交わされました。稗田氏は、受刑者に対して社会復帰を見据えた丁寧な支援を行うほど、「そこまで手厚くする必要があるのか?」という見方が生まれかねないという、現場ならではの葛藤に言及しています。

さらに相浦氏も、障害特性があるからといって被害者の理解が得られるわけではないと指摘しました。だからこそ、支援は被害の存在を軽く扱うものではなく、加害を繰り返させないための社会的な取り組みとして捉える必要があるという認識が共有されています。

元犯罪者への心理的ハードル

元受刑者や非行少年だった人を地域で受け入れることには、依然として大きな心理的ハードルが存在します。そうした課題があるなかで、議論では「総論賛成、各論反対」になりやすい社会の空気が課題として挙げられました。

「再犯防止そのものには賛成でも、いざ身近に当事者が来るとなると距離を置いてしまう…」そうした傾向が、結果として本人の居場所を奪い、孤立や孤独を深める要因になっていると指摘されています。

パネリストたちは、抽象的な理解だけでなく、実際に出会い、顔の見える関係を作ることの重要性を強調しました。知識やイメージだけではなく、具体的な接点を通じて偏見を和らげていくことが、受け入れの土台になると示されています。

次世代を担う若者への期待

学生参加者が多かったこともあり、若い世代への期待が相次いで語られました。実際に高坂氏は、犯罪をした人も変われると信じ、関わり続ける人が増えていくことの重要性を訴えています。

さらに相浦氏も、価値観がより包摂的な方向へ変わりつつある今だからこそ、若い世代の感性に期待したいと語りました。

また安田氏は、若者は新しい技術や発想を支援の現場に取り入れることができる存在であると強調しています。猪熊氏も、社会全体を俯瞰する視点と具体的な現場を見る視点の両方を持つことの大切さを呼びかけました。

こうした議論からは、次世代が再犯防止を特別な問題としてではなく、社会全体の課題として受け止めていくことの重要性が浮かびあがります。そのような認識の広がりが、より寛容で持続可能な支援へとつながっていくことが示されました。

多角的連携で社会課題の解決を図る

このシンポジウムを通じて改めて浮かびあがったのは、再犯防止は司法や矯正の現場だけで完結する課題ではないということです。

犯罪や非行の背景には、孤立、貧困、障害、学び直しの困難、家族関係の断絶など、複数の社会課題が重なっています。だからこそ、行政機関に加え、福祉団体、教育機関、企業、地域住民、メディア、そして学生といった多様な主体が、それぞれの立場から関わり続けることが欠かせません。

新たな被害者を生まないためにも、社会復帰を支える切れ目のない支援と、相手を一人の生活者として受け止めるまなざしが求められています。多角的な連携の積み重ねこそが、安全で包摂的な社会への一歩になるはずです。

<TEXT/小嶋麻莉恵>

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