”協力雇用主”という言葉、制度があることをご存知でしょうか?
協力雇用主とは、犯罪や非行をした者の自立や社会復帰に向けて事情を理解した上で就職先として受け入れる、または受け入れようとする民間事業主です。
刑務所からの出所者を雇用している企業の存在を知らない人も多いのではないでしょうか。知らない方にとっては知るきっかけになれば、協力雇用主に興味がある方にとっては参考になればと思います。
協力雇用主とも関係深い刑務所における就労支援とはどのような内容なのか、就労支援に関する実態、これから実現したいことなどを、青森刑務所の就労支援を担当している清野さんに伺いました。
<目次>
刑務所における就労支援とは?
Q、清野さんが担当していることを教えてください
就労支援を希望する者に対して、就職に向けた支援をしております。最低3ヶ月の期間をかけて、一般的な就職支援と同様のサポートをしています。前半では職務の棚卸しや自己分析、自分を振り返ることなどを行います。後半は、履歴書の作成方法や採用面接の練習など、就職支援に関連する内容に取り組みます。
まだ身元引き受けが決まっていないような場合、本人の希望があれば長期間にわたり支援を行います。入所直後から就労支援を希望する方は、最長で2〜3年間、丁寧な対応を受けることができます。
引き受け先が決定し、まだ刑務所にいる間に就職を決めたいという希望があれば、求人情報の閲覧や応募を支援します。採用・内定が決まれば、出所後は即座に就業する準備が整います。
Q、刑務所の就労支援に入ったきっかけは何ですか?
元々、就職支援関係の仕事をしたくて、労働局で助成金の担当やシルバーの人材センター、一般的な就労支援機関や若年者の支援、若者サポートステーションというニートや引きこもりの支援などをやっていました。
そこから違う分野も知りたいと思って探していたところ、ちょうど刑務所の求人が出ていました。以前、市役所の生活保護の部署で非常勤・臨時職員として勤務していた際、刑務所から出所した人々が生活保護を受給する様子を目の当たりにし、支援の可能性を考えていたこともきっかけのひとつです。現在、就職支援分野でのキャリアは6年目に入りました。
Q、刑務所で働くうえで、これまでにやってきたことと違う点はありますか?
多くの受刑者は、複雑な家庭環境や生活の背景を持っています。そのため、出所後に仕事に就いても、社会の厳しい現実に適応できず、採用されても早期に離職するケースが少なくありません。一般の社会人と比較して、社会生活への適応がより困難であると感じられます。また、歳を重ねるに連れ、刑務所の中の方がより居心地よく感じている人もいるようです。
青森刑務所には、犯罪を繰り返す「累犯」の受刑者が多いので、どうして犯罪を繰り返すのか、その理由を彼ら自身がじっくり考えることが重要であると思います。
一方で、受刑者だからといって私は接し方を変えません。彼らに対して普通に接し、笑う時は一緒に笑うし、差別しません。特に私は刑務官と立場が違うので、同じ目線で普通に話しています。
刑務所の就労支援での課題
Q、多くの時間をかけて就労支援をした出所者が、すぐ仕事を辞めてしまったときはどのように感じますか?
刑務所にいる間に、就職採用面接を通して採用になったら必ず就職することを約束できるのであれば応募するようにします。面接の時点では受刑者は「やります。頑張ります」と前向きな姿勢を見せますが、出所が近づくにつれて感情が変化することがあります。仕事に対する意欲が薄れてしまうのかもしれませんが、就職予定の企業へ行かずにどこかへいってしまうことがあります。
実際に働き始めても、長続きしないことは非常に残念です。一つひとつの出来事に対し「なぜだろう?」と考えると、心が痛むこともあります。しかし、就労支援を行うことで受刑者がこれからの人生で少しでも気づきを得られるならば、それで良いと最近は考えるようにしています。その方が支援しやすいですし、自身のモチベーションを保つのにも役立っています。
一方で、就労支援を通じて受刑者が気持ちを出してくれて、良い方に変化していく様子を目の当たりにするのは楽しいです。また、出所者が就職した企業から「この人、頑張っているよ」と評価されるのがとても嬉しく、やりがいを感じます。
Q、出所者に対する就職先はどのように選定しますか?
これまでに仕事をした経験がある人は、過去にやってきた職種と類似した仕事を希望する傾向にあります。そのため、マッチする可能性の高い求人を選んで応募を促します。私たちが紹介できるのは協力雇用主のみであり、これらの企業は出所者であることを理解したうえで採用を行います。
Q、就労先となる企業の新規開拓はどのように行われますか?
“コレワーク”という全国に8箇所の拠点を持つ組織で、就労先となる企業の新規開拓を行っています。一部の企業は特定の罪名を持つ受刑者の受け入れを行っていませんので、制限を設けています。
たとえば、青森刑務所には覚せい剤関連の受刑者が多いですが、”覚せい剤はお断り”とする企業には応募ができません。このような企業の情報を事前に把握しておくと、不必要な連絡を省くことができます。
就労支援における今後のビジョン
Q、今後のビジョンや目標を教えてください
協力雇用主は建設業が多いところ、建設業に向かない人も中にはおり、そのような人たちの就職先として、製造業などの就職先が増えていけばと思います。刑務所における就職支援は求人募集が頼りですので、雇用してくれる企業がさらに増えたら嬉しいです。