子どもの薬は70%が「保険適応外」使用!!これでいいのか?小児の薬

「子どもの薬は70%が「保険適応外」使用!!これでいいのか?小児の薬」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

子どもの体調が悪くなったとき、なんとかしてあげたいと思わない人はいないでしょう。
痛みや熱に苦しんでいる子どもを目の前にしたとき、子どもにこそ「安全な薬」が必要となってきます。

しかし、子どもの多くの薬が本来の病気で使われないはずになっている「適応外使用」であること、知っていましたか?

実は、小児で一般的に使用されている薬剤でも、小児において有効性と安全性が臨床試験で確認されていない薬が多くあるのです。
その確率・・・なんと約73.2%とも言われています!

「え?本来の病気の適応になっていないのにも関わらず、その薬を使っていいの?」

どうして「保険適応外」にも関わらず、多くの薬が本来の病気とは違う疾患で処方されているのでしょう?

今回は子どもの「保険適応外の薬」について、日本の小児医療の現状について小児科医が解説します。

「適応外使用」とは?

みなさんは「この薬がこの病気に対して正しいのか」といちいち考えることはありませんよね。

実は、病院で処方されている薬には、承認を受けて有効とされる病気(効能・効果)や使用方法、投与量(用法・用量)が定められています。

例えば、よく解熱鎮痛薬で知られている「カロナールⓇ(アセトアミノフェン)」では

  • 効能:各種疾患及び症状における鎮痛。次の疾患の解熱・鎮痛/急性上気道炎(急性気管支炎を伴う急性上気道炎を含む)。小児科領域における解熱・鎮痛。
  • 用法・用量:1回300〜1000mg、経口投与。投与間隔4〜6時間以上、1日総量4000mgまで。急性上気道炎1回300〜500mg、頓用。原則として1日2回まで、1日最大1500mg。小児科領域幼児・小児1回10〜15mg/kg、経口投与。投与間隔4〜6時間以上、1日総量60mg/kgまで。ただし成人量を超えない。以上、年齢・症状により適宜増減。

と記載されています。

非常に細かく設定されていることがわかりますよね。

これと異なる使用を「適応外使用」といいます。

例えば、風邪すなわち急性上気道炎の発熱で規定量のアセトアミノフェンで熱が下がらないからといって、規定量を超える1回500mg以上を飲ませたりしたら「適応外使用」ということになります。

アセトアミノフェンは日本よりも海外ではかなり高容量まで許されていますが、薬の種類によってはもっと厳格に決められているものもあります。

しかし残念ながら、子どもに使用される薬の多くが、この適応外使用となっているのです。

日本の小児科の「適応外使用」の現状は?

実は、冒頭で述べた通り、小児科で使用される非常に多くの薬剤が「適応外使用」になっています。

すなわち筆者を始めとする小児科医の経験則によって、薬剤を使用していることになるのです。

ある調査によると、2001年4月から2015年3月の期間中に日本で承認された1125の薬剤のうち、277(24.6%)の薬剤にしか小児適応が記載されていなかったと報告されています。

さらにこれを細かく表1,表2にしてみました。この評価では、「小児に安全な薬」はほんの一部かもしれません。

添付文書に小児投与の
用法用量に関する
記載あり(23.4%)
小児の用法・用量の記載あり(15.8%)
「慎重投与」など(7.6%)
添付文書に小児投与の
用法用量に関する
記載なし(76.3%)
「小児への投与に関する安全性は確立されていない」(38.5%)
「禁忌」など(4.8%)
小児に関する記載なく、「適宜増減」のみ記載(22.3%)
小児に関する記載一切なし(11.0%)
表1.小児用医薬品の適応外使用の状況

小児適応なし小児適応あり
2001.4-2010.382.5%17.5%
2010.4-2011.375.4%24.6%
2011.4-2012.370.8%29.2%
2012.4-2013.367.2%32.8%
2013.4-2014.372.5%27.5%
2014.4-2015.364.7%35.3%
表2.小児承認取得件数の推移

では、医薬品を適応外使用するとどういった不都合が生じるのでしょうか?
例えば、以下のようなリスクが考えられます。

  • 有効性・安全性などの評価が不十分:期待される効果が得られなかったり、予測しない副作用が発生したりする可能性があります。
  • 保険診療の対象とならない可能性:自費診療となり、費用負担が増えるかもしれません。
  • 医薬品副作用被害救済制度の対象とならない可能性:薬が原因で入院治療等が必要となった際に、医療費、年金等を給付する公的な制度の対象とならないかもしれません。

では、なぜそんなリスクを抱えながらも、「適応外使用」が多いのでしょうか?

日本で小児の「適応外使用」が多い理由その①:小児の治験の困難さ

では、なぜ小児の適応外使用が多くなってしまうのでしょう。
その裏には「小児の適応への難しさ」が背景としてあげられます。

みなさんは「小児は大人のミニチュアではない」という言葉を聞いた事がありますか?

実は成人において承認された薬を、そのまま小児に使うことは容易ではありません。

例えば、抗生剤の投与量、投与間隔は成人と小児で大きく異なり、単純に成人用の投与量を体重換算で小児に当てはめるだけではいけないのです。

また、成人と小児では薬の体内動態ひとつをとってもさまざまな違いがあります。
体内での薬の動態の因子として吸収、分布、代謝、排泄があります。
これらはすべて成長、発達の影響を受けるため、小児では成人よりも複雑となってしまいます。

1つ例として、体重に占める水分量の割合を見てみましょう。

生後すぐの新生児では約80%ですが、加齢に従い徐々に低下し、12歳の時点ではほぼ成人並みの約60%程度となります。
すなわち、体重換算で薬の量を決めると、体内での水分量が大きく違うので、薬の効き方も大きく変わってしまうのです。

小児の成長・発達について正しく理解し、適切な評価をする必要があるのですね。

なので、単純に大人の薬も子どもにそのまま「適応内」にさせることができず、追加の試験が必要となります。

日本で小児の「適応外使用」が多い理由その②:ドラッグラグと臨床試験の困難さ

臨床試験が追加で必要になることはわかりました。
さらに、拍車をかけるのが「ドラッグラグ」と「臨床試験の困難さ」です。

ドラッグラグとは、新薬が海外で承認されてから、日本で使用できるようになるまでの時間差のこと。

そもそも小児の薬そのものが、

  • 子どもたちの治験参加が難しい、患者数が少ない、倫理的な制約など、多くの課題があるため、小児向けの臨床試験が十分に行われない。
  • 小児向け薬の市場は成人向け薬に比べて小さいため、製薬企業は投資リターンが低いと判断して小児用薬剤の開発に消極的になりやすい。

という現状です。

その中で、特に患者数の少ない小児がんでは、使用できる薬が少ないために治療の遅れが問題となっています。
そして、

  • 市場規模が小さいにも関わらず開発コストがかかる
  • 安全性監視活動などの法的制度での負担が大きい
  • 小児の治験に精通した施設、医師、CRC(臨床研究コーディネーター)の不足など小児治験を実施する環境が不十分

などを理由として、日本の導入が遅れてしまっているのです。
なぜ、「日本の」と何度も記載しているのかと言えば、海外では成人の重要な薬を開発する際に、必ず子どもにも使用できるように治験を法律によって義務づけているのです。
*小児用の薬の開発を義務付ける法律「RACE(Research to Accelerate Cure and Equity) for Children Act(小児のための治療法および公平化促進のための研究法)」

これらの環境を打破しない限り、「有効性はわかっているのにも関わらず、いまだに日本では『保険適応外』となっている」という状態が続き、今後も「適応外使用」が多くなってしまうことでしょう。

早急な「適応内」への整備を!

上記のことから分かる通り、「日本の整備が追いついていないことによる適応外使用」が多いのが今の現状です。
この事実は厚生労働省もよくわかっており、「適応外使用の基本的な考え方」について、「広く医療の中でより適切に使用されるためには、基本的に薬事承認・保険適用を目指すべき」としています。

一刻も早く、適応外使用しないで安心して薬が自由に出せる法の整備が進むことを願っています。

参考文献:
1.日本小児臨床薬理学会雑誌 第35巻第1号(2022年)3-9
2.がんナビ
3.小児治験ネットワーク
4.厚生労働省「適応外使用の保険適応について」
5.公益社団法人日本小児科学会. 小児用医薬品開発推進に向けて
6.新薬の小児適応に関する日米比較.医薬産業政策研究所
7.中村秀文. 我が国における小児の未承認薬・適応外薬・剤形変更問題解決に向けての取り組み.薬剤学 2015;75:9-14
8.伊藤進.日本の小児薬物治療環境を守るPMDA
9.公益社団法人日本小児科学会.「医薬品の適応外使用に係る保険診療上の取扱い」について(日本医学会)

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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