デビュー直後から精力的に刑務所を始めとした矯正施設に足を運び続けている女性デュオ・Paix²(ぺぺ)。慰問ではなく「プリズンコンサート」と称されるライブパフォーマンスを、20年以上・500回超積み重ね、今や「受刑者のアイドル」と呼ばれるほどの存在感を放っている。保護司や矯正支援官といった社会的役割も担うほか、刑務所における長年の活動がバラエティ番組でも取り上げられるなど、大衆からの注目も集めている。メンバーのめぐみさんとまなみさんに、培ってきた経験と活動への想いなどについて伺った。
(目次)
プリズンコンサートのリアル
Paix²が初めて刑務所のステージに立ったのは、インディーズデビューした2000年。以来、およそ24年にわたって全国各地の刑務所を巡り続けている。カラフルな衣装を纏い、その場をパッと照らすような明るさや軽やかさが感じられるパフォーマンスが印象的だが、初期の頃は試行錯誤しながらライブを作り上げていた。
当時のステージ写真を手に取りながら、めぐみさんは語る。
「矯正施設という特殊な場所柄、比較的しっとりとした雰囲気のステージングを行っていたんです。目の前にいる受刑者の方々に束の間音楽を楽しんでもらえたら」
しかし次第に、塀の中だけでなく社会全体を見据え、自分たちが刑務所でパフォーマンスをする意義を再考し、その意味が伝わるような活動にならなければいけないと気持ちが変わっていった。
ステージにおけるMCの内容も、受刑者一人ひとりの心に響くような、社会復帰のきっかけになるメッセージを意識するようにシフトした。また、一般的に刑務所で行うコンサート活動は「慰問」と呼ばれるが、めぐみさんとまなみさんはこの言葉を基本的に使わない。受刑者を“慰める”のではなく、共に考える場になるようにというこだわりから、長年の活動を「プリズンコンサート」と一貫して称している。
さまざまな経験を重ねたからこその気付きもある。Paix²は、フラットな目線でステージに立つことを常に意識している。
「受刑者の方々が社会の中で間違ったことを犯してしまったのは事実ですが、コンサートの時間においては私たち演者との間に上下関係は作りたくないんです。上から言われた言葉は、心に残るというよりも逆に反発心や拒絶反応を生ませてしまいます」
刑期や罪名によってパフォーマンスの内容を大きく変えることはしないが、施設ごとの方針に気を配っていると、まなみさんは語る。
「矯正施設は大体1〜2年ごとに幹部が変わり、その幹部の方のタイプによって施設の色がかなり左右されるんです。コンサートにおいて、受刑者の方々の発声や身振り手振りは禁じられているのですが、施設によっては歌に合わせて拳を上げることが許可されることもあります。また、少年が収容されている施設は比較的アットホームな雰囲気の所が多いですね。人数が少なければ、ライブ中にステージから降りて1人ひとりと握手することもあります」
本取材の数日前、徳島刑務所でプリズンコンサートを行ったPaix²。めぐみさんは、自身のパフォーマンスとその時の心情を振り返る。
「徳島刑務所のような無期懲役等の刑期が長い受刑者が多く収容されている施設は、一生を塀の中で過ごす可能性が高いです。私たちはライブの最後に『逢えたらいいな』という曲を社会復帰への希望を込めて歌わせていただくのですが、もう社会には出られない方々にそういったメッセージを届けるのは酷なところがあります」
見た目には同じコンサートに見えるかもしれないが、発する言葉ひとつで受け取り方が大きく変わるため、慎重に調整することをPaix²は心がけている。
施設の雰囲気は、男性のみが収容されている刑務所と女子刑務所で大きく異なるのだそう。2024年2月に佐賀県にある女子刑務所・麓刑務所を訪れた際は、受刑者が手作りのボンボンを手に持ち、ステージに立つPaix²を出迎えた。ボンボン作りも受刑者の作業の一環であるが、施設職員によると、おもてなしの心を育む意図も込められているようだ。
全国の矯正施設を巡り、描いた軌跡
累計530回(2024年5月現在)プリズンコンサートを重ねてきたPaix²。どのステージもかけがえのない時間ではあるが、特に記憶に残っているコンサートには他にはない特徴があるという。
「黒羽刑務所は印象的でしたね。現在は閉鎖されていますが、昔は毎年のように伺っていました。伺うたびに、一致団結した雰囲気に圧倒されたんです」と、めぐみさん。黒羽刑務所では、聴く際の基本的なルールは守りつつも、例えば『元気だせよ』という曲において手振りやかけ声が施設側から許可されている部分では、受刑者が全力で参加してくれるのだそう。
「あそこまで活気が感じられるプリズンコンサートはなかなかないので、今でもよく覚えています」と、懐かしそうに当時を振り返った。
他にも、麓刑務所のように手作りのボンボンを持ったり、ステージに掲げる看板を作ったり、刑務作業のなかで育てた花を会場に飾ったりと、施設ごとにさまざまな形でPaix²を出迎えてくれる。
初期の頃は施設に対してコンサートにおける事前確認をしていたが、今では「好きなようにやってください」と言われることも多い。長年プリズンコンサートを続けてきたからこそ得られた信頼感が窺える。
力強いステージを作り上げる一方で、プリズンコンサートはあくまで無報酬であり、移動費等の経費はすべて自己負担である。そんな厳しい状況の中でもPaix²が矯正施設に足を運ぶことをやめないのは確固たる原動力があるからだと、まなみさんは強調する。
「出所して社会復帰された方が、私たちのライブに足を運んでくださるんです。『頑張っている自分の姿を見てもらいたくて今日ここに来ました』と、声をかけていただくことがあります。塀の中にいたときのことを再度思い出してしまうでしょうし、それでも苦い記憶を乗り越えて会いに来てくださって。きっと『もう絶対に罪を犯さない』という覚悟を持ってお越しいただいているんだと思うと、改めて、この活動をやっていてよかったと感じます」
プリズンコンサートはその名の通り矯正施設内で行われるものだが、塀の外で再会できたときの喜びはひとしおだという。Paix²が出所者と初めて社会で再会できたのは、2002年12月7日、第3回鳥取県警察音楽隊のふれあいコンサートでのこと。このイベントに足を運んでくれたその方は、Paix²の第1回プリズンコンサート(2000年12月2日:鳥取刑務所)を観ていた元受刑者だった。
それまでは、反応がわからないまま手探り状態で活動をしていたPaix²。初めてダイレクトに言葉をもらったその出会いがもたらした影響はかなり大きかったと、めぐみさんは力強く語った。
「1回目だったので、当時は今のような余裕もなく、歌うことで精一杯でした。それでもあの場にいた受刑者の方が、改めてお手紙と花束を持って会いに来てくださったんです。こういう方がひとりでもいるのであれば、自分たちがプリズンコンサートをやる意味がある、と改めて身が引き締まりました」
“受刑者の“心のスイッチ”を押す”ープリズンコンサートの意義を、Paix²はそう表現している。
出所者の更生に対して想うこと
初犯の数が減少する一方で、再犯者率が高く推移している現代日本。多くの受刑者とふれあってきたPaix²だからこそ、社会に対して強い想いを抱いている。
「元受刑者だから、と一方的に拒絶してほしくはないんです。かつて罪を犯してたことは変わらない事実ですが、『やり直そう』『頑張ろう』と思って社会に出てくる出所者の方も確かにいます」と、めぐみさんは語る。
ほんの少しでもいいから歩み寄ったり、普通に話をしたりするだけでも、その人の人生はもう2度と刑務所に戻らない方向に進んでいくのではないだろうかとPaix²は信じている。「ささやかだとしても、きっかけがあれば人生は大きく変わっていくものなんです」そう話すめぐみさんの瞳は、まっすぐな希望に満ちていた。
Paix²の活動は、音楽を通じたきっかけ作りである。長年プリズンコンサートに取り組んできたこともあって、Paix²の一般ファンは元受刑者や少年院経験者に対する理解が深いのだそう。
出所した方とも抵抗感なくコミュニケーションが取れることが多く、「何かしてあげようとまでは思わなくてもいいから、他愛のない会話を普通に交わせる方が1人でも増えたら」とPaix²は願っている。
“ぺぺコミュニティ”をこれからも
来年は記念すべきデビュー25周年の年。2人の故郷でもある鳥取で、アニバーサリーコンサートが開かれる予定だ。大きな節目を迎えるPaix²だが、未来への歩みはまだまだ止まらない。
「25周年記念のコンサートについては、ぜひ全国各地から多くの方々に観に来ていただけたら嬉しいですね。また、矯正に関する活動も引き続き使命感を持って継続していくつもりです」と、まなみさんは語る。
現在の活動を始める前は、前科者に対してどこか一線を引いてしまっていたそうだが、「大事なのはその人の経歴ではなく、『今頑張っているかどうか』だということに気付くようになりました」と、心境の変化をまなみさんは語ってくれた。
刑務所に入ったことがある人は、不器用なタイプが多いという。不器用だからこそ上手くいかず、人と衝突し、間違いを犯してしまうのだ。Paix²のファンクラブには元受刑者も一般の方もいるが、双方にとって居心地のいい場を作り続けることを、引き続きの目標として掲げた。
ファンとファン、さらにはファンとPaix²の距離感の近さも大きな特徴のひとつ。めぐみさんが言うには、「”ぺぺコミュニティ”あるいは”ぺぺ街”が形成されているような感じなんです」と、他のアーティストにはない特有の空気感があるのだそう。
「お互い音楽が好きでこの世界に入りましたが、気付いたら音楽を超えた、人と人との輪が私たちの周りにはできていました。ファン同士で気軽に連絡を取り合うなど、コミュニケーションがとても盛んです」と、めぐみさんは続ける。
Paix²の活動柄、人の悩みに自然と寄り添えるファンが多い。「温かみのあるネットワークが形成されているなと感じています。社会的に見れば小さい輪かもしれませんが、意味のあるコミュニティになっているのではないでしょうか」と、応援してくれるファンを想いながらめぐみさんは語った。
罪は罪。しかし、定められた償いが終わった後もその人の人生は続く。同じ過ちを繰り返さないかどうかは、本人の意思だけでなく、社会の受け入れ方によっても左右される。
塀の中と外を行き来している2人だからこそ、中立的な視点を持つことができる。Paix²はこの先も、受刑者の社会復帰に尽力し、道を踏み外さずにまっすぐ生きていくエールを贈り続けることだろう。
(プロフィール)
Paix²(メンバー:Manami・Megumi)
1998年12月:日本縦断カラオケ選抜歌謡祭 鳥取県大会で出会う
2000年4月21日:『風のように春のように』でインディーズデビュー
2000年12月2日:『第1 回Prison コンサート』(鳥取刑務所)
2001年4月21日:1st シングル『風のように春のように』でメジャーデビュー
Paix²オフィシャルサイト
https://paix2.com/
めぐみさん X
https://x.com/Paix2_Megumi
まなみさん X
https://x.com/Paix2Manami