「街・夢・みらい-まなびでつながる更生保護シンポジウム」グランドフィナーレが開催。“まなび”が広げる共生の力

全国5都市を巡って開催された「街・夢・みらい -まなびでつながる更生保護シンポジウム-」。自治体や企業、若者たちが一堂に会し、「誰一人取り残さない共生社会」を目指して語り合った本イベントは2025年10月27日(月)にグランドフィナーレを迎えました。
更生保護にはどのような課題があり、共生社会の実現にはどのような活動が必要なのでしょうか。目指す方向が見えてきた当日の様子をレポートします。
<目次>
「街・夢・みらい まなびでつながる更生保護シンポジウム」とは

犯罪や非行をした人の立ち直りを地域で支える「更生保護」は、保護司・更生保護女性会・BBS会などの更生保護ボランティア、そして企業や商工業団体などの支援によって支えられています。
そんな取り組みに携わる関係者が、2025年10月27日(月)、第75回“社会を明るくする運動”と、国際更生保護ボランティアの日記念企画「街・夢・みらい -まなびでつながる更生保護シンポジウム-」にてオンラインで一堂に会しました。
第一部:更生保護ボランティア・社会を明るくする運動との連携による共生社会の実現に向けた自治体の取組
第一部では、東京都豊島区長の高際みゆき氏、甲府市長の樋口雄一氏、善通寺市長の辻󠄀村修氏が登壇。各区市が抱える課題や地域の特性を踏まえ、具体的な事例とともに共生社会実現に向けた取り組みを報告しました。
東京都豊島区:基本構想・基本計画を22年ぶりに改定

豊島区では、区政運営のキーワードを「つながる・つながり」とし、22年ぶりに基本構想・基本計画を改定。「誰もがいつでも主役」「みんながつながる」「出会いと笑顔が咲きほこる憧れのまち」という理念を掲げています。
豊島区の「社会を明るくする運動」は非常に活発で、2025年7月の「区民のつどい」では、保護司会、青少年育成委員会、民生委員、PTAなどが一体となり、合唱やマルシェを通じて地域住民へ啓発活動を行っています。
池袋駅から徒歩3分の「更生保護サポートセンター」は保護司の拠点として活用され、職員保護司も増員。東京保護観察所と区保護司会、豊島区の三者で連携協定を締結し、再犯防止推進計画に基づいた協働を強化しています。
犯罪被害者支援にも力を入れています。たとえば、2025年7月には犯罪被害者支援条例を制定しました。この条例は、幅広い経済的・日常生活支援に加え、「加害者も生まない」という視点から犯罪被害の予防を明記し、保護司会とも連携して被害者・加害者双方の視点を取り入れた支援を目指しています。
山梨県甲府市:矯正施設と地域が連携する再犯防止策

甲府市は「社会を明るくする運動」の啓発活動として甲府市推進委員会を組織し、地域の団体と連携。2025年7月には武田信玄公像や藤村記念館を、「社会を明るくする運動」のシンボルカラーであるイエローにライトアップする広報活動も展開しました。
本シンポジウムの甲府開催の際は、「生きづらさと向き合う更生保護@山梨県立大学」をテーマに、大学生と地域支援団体による意見交換や、僧侶による「いのちの授業」といった講演を開催。地域全体での更生支援の重要性を甲府市長の樋口雄一氏が伝えました。
特に注目すべきは、矯正施設との連携強化です。2025年8月22日、甲府市、甲府刑務所、甲府少年鑑別所の三者で「再犯防止及び地域社会の持続的発展に関する包括連携協定」を締結しました。
この協定に基づき、受刑者が刑務所内で栽培したサツマイモを甲府市立動物園に寄贈する活動が行われました。受刑者が社会貢献を実感し、社会復帰への意欲を高められると考えられています。
香川県善通寺市:地域資源と多機関連携で支える更生保護

人口約3万人の香川県善通寺市では、毎年1ヶ月間、「社会を明るくする運動」を重点的に実施し、地域住民や事業所の更生保護への理解促進に努めています。2025年からは保護司会と更生保護女性会への助成金支給を開始しました。
市内には少年院があり、隣接する丸亀市には少女の家と呼ばれる女子少年院もあるため、更生保護女性会はこれらの施設への支援活動に注力しています。具体的には、手作りの箸入れ、ケーキ、カードなどを施設に届け、入所者に地域が見守っているという温かいメッセージを伝えているそうです。また、少年院で作られた農作物を市役所ロビーで販売するなど、社会貢献を通じて市民との接点や理解を深める努力もしています。
2025年10月に善通寺市で開催したシンポジウムでは、「地域の力、境界線を越えて」をテーマに掲げました。善通寺市の市長である辻󠄀村氏は保護司や更生保護女性会の活動を紹介。パネルディスカッションでは、僧侶、大学生などが参加し、つなぐ活動について活発な議論が展開されました。
「地域全体で更生保護を支える体制を強化し、一人も取り残すことなく共生社会を築くことに挑戦していく」と辻󠄀村氏は強調します。特に、2026年度から本格化する重層的支援体制整備事業と連携し、福祉分野も包含した地域活性化と更生保護活動のあり方を追求していく考えを示しました。
第二部:更生保護ボランティア・社会を明るくする運動との連携による共生社会の実現に向けた事業者の取組
第二部では、丸善雄松堂株式会社の後藤英紀氏と、一般社団法人日本農福連携協会の渡部淳氏が登壇。それぞれの事業者が更生保護の分野でどのような取り組みを行っているのか、具体的な活動内容と今後の展望について発表がありました。
「誰一人取り残さない」農福連携が拓く新たな可能性

渡部氏は、「保護司として活動するなかで、更生保護と農福連携の可能性を深く認識している」と語りました。農福連携は、障害者だけではなく、高齢者・生活困窮者・引きこもり・犯罪を犯した人など多様な人々の就労や社会参加を支援する領域へ広がっています。
法務省でも刑務所や少年院での就農指導、農業ビジネスコースの実施など、出所後の就労支援が進められています。豊島区の「区民のつどい」での農福連携商品の販売や、帯広市会場での「十勝ファーマーズマーケット」での更生保護イベントなど、具体的な活動事例も紹介されました。
渡部氏は、現代社会の孤独・孤立が、家族、地域、会社との「つながり」の希薄化に起因すると指摘。再犯率の高止まりやさまざまな社会課題につながっていると警鐘を鳴らしました。更生保護と農福連携は「誰一人取り残さない、しあわせな地域づくり」を掲げ、多様な人々が共に生き、価値を創出する共生社会の実現を目指していくと締めくくりました。
まなびの機会を提供し、共生社会を目指すための挑戦

後藤氏は、「『知に生き、人間を信じる』という経営理念のもと、『まなびのつながりを育む』というブランド方針を掲げ、まなびの機会を最大化することを目指している」と述べました。丸善雄松堂は2022年の美祢社会復帰促進センター視察から、更生保護への取り組みを始めています。
2024年には「産官学連携 再犯防止推進シンポジウム」を開催。グループ内の全国3500名の書店員が「黄色い羽根」を着用して広報協力を行い、「国際更生保護ボランティアの日フェア」などで啓発活動を展開しました。
2025年の取り組みでは、「一般への告知活動」「全国自治体との連携」「更生保護関係者との連携」「社員への理解浸透」の4つの課題を改善。全国の書店員による活動やシンポジウムへの積極的な参加を推進しました。
同社は「知の活動」を通じて、誰もが正しい知識と意識を持ち、まなびの機会を得られる「誰一人取り残さない共生社会」の実現を目指し、今後も更生保護への理解促進と活動推進に努めるとしました。
第三部:「街・夢・みらい-まなびでつながる更生保護」シンポジウム
第三部では、下記の方々が登壇されました。
・静岡県健康福祉部 人権同和対策室長 粳田一博氏
・福島県双葉地区保護司会 会長 坂本和久氏
・東京都保護司会連合会 会長 松本眞由美氏
・保護局長 吉川崇氏
・早稲田大学広域BBS会 長又寛英氏
・港区BBS会 武藤桜愛氏
共生社会の実現に向けた更生保護のあり方について、多角的な視点から議論が展開されました。
多様性を理解するために必要な想像力とは

粳田一博氏は、静岡県の人権啓発事業事務局として、講演会や講座、セミナー、音楽会、ラジオ番組など多岐にわたる活動に取り組んでいます。
粳田氏は、「多様性を理解するためには、まず異なる人々の立場に立って考える想像力が必要である。多数派の意識を持つ人が、その感覚のままで理解しようとすると壁に当たる」と指摘しました。
少年・少女と同じ目線で取り組むBBS活動

早稲田大学広域BBS会の長又寛英氏と港区BBS会の武藤桜愛氏は、若者によるBBS活動について報告しました。
BBSの活動には、「ともだち活動」「健全育成活動」「広報・啓発活動」「自己研鑽活動」の4つがあります。その中でも生きづらさを抱える子どもと友達になる「ともだち活動」の依頼件数は減少傾向にあると指摘。
そこで、悩みを持つ子どもたちに親以外の頼れる存在として寄り添う「健全育成活動」や、非行のある少年への偏見をなくし地域社会の「見えない壁」を取り除く「広報・啓発活動」、そして仲間同士でまなびを深め視野を広げる「自己研鑽活動」の重要性を強調しました。
「BBSはこれらの活動を同時に行い、相互に影響し合うことで、安全安心な社会の実現に貢献できる」と長又氏は述べます。「世の中を変えるにはまず自分から」という言葉の通り、学生自身が意識を変え、偏見を持たずに更生保護の活動に取り組むことが第一歩であると結びました。
武藤氏は、2024年2月に設立した港区BBS会について紹介。更生保護やBBS活動に関心を持つ大学生を中心に17名が在籍し、港区を中心に活動しているとのことです。高卒認定試験に向けた学習支援を行う「ともだち活動」では、同世代としての視点からモチベーション維持を共に模索。単なる学習支援に留まらず、前向きな挑戦も応援しています。
不登校支援を中心とした「健全育成活動」では、「子どもたちと同じ目線に立ちつつも、親でも先生でもない「ななめの関係」だからこそできる支援を大切にしている」と語りました。
武藤氏自身、登校に不安を抱える生徒に寄り添って登校支援を行っており、この「ななめの関係」が、生徒にとって話しやすく、また学校の先生には難しい支援を可能にしていると実感しています。設立1年目のBBS会として、全ての活動を学びとし、誰も取り残さない安全安心な社会を目指して活動を続ける決意を述べました。
更生保護の認知向上を目指して

福島県双葉地区保護司会長の坂本和久氏は、東日本大震災と原発事故で多くのコミュニティが失われた双葉地区の現状を報告しました。
人口が大幅に減少し、高齢化が進むなかで、保護司の確保が困難になっていると述べました。震災後12年間は県の保護観察所が事務局を担いましたが、2024年度から地区での運営が再開。現在、郡内の保護司は規定数35名のうち19名。その中の14名は郡内在住者です。
しかし、その約40%に相当する16名が5年以内に退任予定であり、存続の危機に陥っています。坂本氏は、「民生委員や生活支援センター職員など、関係団体に保護司の推薦を依頼する活動を進めている」と語りました。
東京都保護司会連合会会長の松本眞由美氏は、4月17日の「国際更生保護ボランティアの日」を契機に、東京都保護司会連合会が東京観察所と連携し、記念行事を実施したことを報告しました。東京都庁での式典では警視庁音楽隊の演奏に合わせて、約500名の更生保護ボランティアが新宿中央公園から広報パレードを行ったそうです。
松本氏は、「更生保護が地域のそれぞれの団体や人ができることをつなぎ合わせて、より良い社会をつくるものであり、国、企業、個人、そしてボランティアすべてをつなぐネットワークのさらなる広がりを目指す」としました。
法務省保護局長の吉川崇氏は、「更生保護のあたりまえ化」を今後の目標として掲げました。これまで多くの企業や地方公共団体、保護司、更生保護女性会、BBSの協力に頼りすぎていたと振り返り、彼らが活動しやすい環境を整備する重要性を強調しました。
また、国民の『更生保護』の認知度が低い現状も問題視しています。警察、検察、裁判所、刑務所と同様に、更生保護も刑事司法の全体像として国民に認知されるべきであり、97%の認知度を目指すと表明。
そのために、「更生保護を端的で分かりやすい言葉や画像で整理するとともに、支援・協力メニューも整備し、ホームページを通じて国民に伝えていく」と述べ、更生保護の「あたりまえ化」を目指して協力体制を強化していくことを呼びかけました。
更生保護に必要な地域・行政・企業の力

ディスカッションでは、第三部発表者のほか、第二部で登壇した後藤氏と渡部氏も加わり、「明るい社会の実現」に向けた更生保護のあり方が議論されました。
第三部のコーディネーターを務めた保護みらい研究所の今福章二代表は、現代の子どもたちが「まなびや生きる力を育む機会」を失っていることに言及。丸善雄松堂が「すべての人にまなびを」というモットーを掲げる企業として、今後そのような企業をどう増やしていくか後藤氏に問いかけました。
後藤氏は、更生保護が地域社会の喫緊の課題であり、企業も連携したいと考えているが「どう進めていいか分からない」という声が多いと指摘。そこで、「丸善雄松堂のように実績を持つ企業が、その強みや具体的な取り組み事例を示すこと、また大学やBBSなどの専門的な支援体制を提示することが重要だ」と述べました。
「企業は単なるCSR活動だけでなく、この取り組みが事業の発展につながることを明確に整理する必要があるとし、特に大学との連携は、視野を広げ、新たな仲間を得て事業向上に繋がり、地域社会の『まなびの力』で貢献できる」と強調しました。
「まなび」の積み重ねが明るい社会の実現へつながる

今回のシンポジウムを通じて浮かび上がったのは、「更生保護は特別な活動ではなく、誰もが関われる地域の営みである」という共通認識でした。行政・企業・教育機関・市民がそれぞれの立場から支援の輪を広げ、互いを理解し合うことで、社会の孤立や偏見を解きほぐすことができます。
「まなび」で得た知識と共感が、人と人をつなぎ、再び社会へと踏み出す力となる。その積み重ねこそが「明るい社会」を形づくる礎です。一人ひとりの小さな関心と行動が、未来を変える大きな一歩になることを、本シンポジウムは改めて教えてくれました。

<TEXT/小嶋麻莉恵>








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