刑務所ではどんな医療が行われている?宮城刑務所の矯正医官に聞く矯正医療の現状
「受刑者が体調を崩したとき、適切な医療が受けられるのでしょうか?」と疑問に思ったことはありませんか?
服役中の受刑者も、一般の人々と同様に体調を崩したり病気にかかったりすることがあります。そんな彼らを診察するのが、刑務所で勤務する医師である「矯正医官」です。
「受刑者に対してどのような医療措置が行われているのか?」
「一般社会の医療と何が違うのか?」
「刑務所で働く医師の実情について知りたい」
そんな疑問に答えるべく、宮城刑務所で現役の矯正医官として勤務している医師に、刑務所の医療の実態について詳しくお話を伺いました。
<目次>
受刑者に対する医療措置
受刑者が体調を崩した場合、民間の病院ではなく、矯正施設の医師である「矯正医官」が診察を行います。必要に応じて受刑者を民間の病院に移送することもありますが、基本的には各矯正施設が連携して、医療体制を整えています。
矯正医療の概要
成人の場合、矯正医療は大きく3段階に分かれます。一般的な刑務所、医療措置を重点的に行う「医療重点施設」、そして最も医療体制が充実している「医療刑務所」があります。一般の刑務所には矯正医官が1〜2名配置され、一般社会の診療所に相当する外来診療を担当とする診察を担当しています。一方、医療重点施設や医療刑務所にはより多くの矯正医官が配置されており、これにより患者を集中的に治療する体制を整えています。
医療措置を重点的に行う「医療重点施設」について
医療刑務所は専門性が非常に高いですが、医療重点施設もその名の通り医療設備が充実しています。医療重点施設のひとつである宮城刑務所には8名の矯正医官が配置され、所内の受刑者だけでなく、東北地域の他の施設から入院が必要とされた受刑者の診療も担当しています。また、「医療共助」により、他の施設から診療や精密検査が必要とされた受刑者に対するCT、エコー、内視鏡などの検査も担当しています。
宮城刑務所が属する仙台矯正管区の矯正医事課は、管区内の入院患者の情報を日々集約しています。宮城刑務所では、送られてくる情報を基に、引き受け可能な患者がいる場合、各刑務所の医務課に問い合わせを行い、迅速に受け入れ手続きを進めます。医療重点施設に求められている役割のひとつは、医療機能が低い刑務所の負担を軽減することです。
宮城刑務所では、主に慢性期の患者を多く収容しています。緊急性を要する手術が必要というよりも、点滴やリハビリが常時必要な患者が主です。また、痔や脱腸などの手術は宮城刑務所でも対応可能ですが、胃がんや大腸がんなどの大手術は東日本成人矯正医療センターで行います。さらに、慢性期の患者だけでなく、がんの末期など看取りが近い患者も多く受け入れています。
一般の医療機関との違い
矯正医療では、あちこちが痛いので1日5枚湿布が欲しいというような希望に対し、希望通りの処方が行われるとは限らず、湿布ではなく軟膏を処方し、1本のチューブを1か月使用するよう指導することもあります。
一方、命に関わる可能性がある症状、たとえば脳出血や脳梗塞のリスクが増加する高血圧に対しては、一般社会と同等の医療措置を行います。ただし、医療費を抑えるために、可能な限りジェネリック薬を使用する工夫もしています。
刑務所の矯正医官の仕事
矯正医官には一般募集に加え、大学からの派遣という形で就任する場合もあります。今回お話を伺った宮城刑務所の矯正医官も、30年ほど前に大学から派遣され、それ以来刑務所での勤務を続けています。
矯正医官の1日の仕事の流れ
勤務時間はフレックスタイム制で、今回お話を伺った矯正医官は基本的に朝7時半から夕方5時まで勤務しています。夜間の常駐は必要ないものの、急な呼び出しがあれば対応します。また、派遣元の大学とも完全には離れておらず、週に1度は大学で外来診療を担当しているそうです。
担当は消化器内科であり、朝はまず内視鏡や腸エコーの検査を行い、その後病棟の回診と、所内の工場で働いている受刑者の外来診察にあたります。これが午前中の仕事で、午後は隣接する仙台拘置支所での診察、続いて事務作業というのが1日の主な流れです。
矯正医療ならではの壁とそれを乗り越えた経緯
所内での診療にはどうしても限界があり、民間の病院に受け入れを要請した際に「受刑者だから」と拒否されたときは、とてもつらい思いをしたといいます。刑務所という特殊な環境ゆえ、一般社会から良いイメージを持たれにくいことがうかがえます。宮城刑務所は医療重点施設であるため、このようなケースは比較的少ないものの、全国的にはよく見られる状況だそうです。
このような状況を改善するため、矯正局は各刑務所に対し、矯正医療への理解を深め偏見をなくすための協議会を、近隣の病院で開催するよう指示しました。それ以来、徐々に民間との連携が取れるようになってきたといいます。
矯正医療の現場で感じる課題
一般社会と同様に、刑務所でも高齢化が進んでいます。医療重点施設の配置が行われているものの、「今後はどの刑務所でも介護予防の取り組みが重要になり、特に介護やリハビリが必要な受刑者については、医療重点施設などに集めて効率的に対応する必要があるのではないか」と、矯正医療の現場で感じている課題を語ってくださいました。
さらに、医療費は原則、国費であるため、抗がん剤などの高額な薬剤費も大きな課題です。高齢受刑者の増加は、医療支援が不可欠な人が増えることを意味し、どこまで治療を行うべきかについて、より深く考える必要があると感じられました。