犯罪者と対話を重ねて心に寄り添う。処遇カウンセラーの知られざる現場

札幌刑務所の処遇カウンセラー(イメージ画像)

刑務所の中で、受刑者と対話を重ねながら更生の道を支える。その役割を担うのが処遇カウンセラーという存在です。社会復帰を目指す人々の「変わりたい」という意志と静かに向き合い、再犯防止に向けた心のトレーニングを支援する専門職。

今回は、「処遇カウンセラー」として、札幌刑務所で18年以上にわたり性犯罪の再犯防止プログラムに携わってきた現役の処遇カウンセラーに、専門職の実態とそのやりがいについて、じっくりとお話を伺いました。

「否定をしない」対話をして自ら気づける環境づくり

札幌刑務所の処遇カウンセラー(イメージ画像)

今回、取材に応じていただいたカウンセラーは、もともとは精神科の病院で働いていましたが、ソーシャルスキルズトレーニング(SST)の経験があることから白羽の矢が立ち、処遇カウンセラーとしてのキャリアをスタートさせました。

現在は、専門官の補佐として性犯罪者を対象としたグループワークや、個別面談を担当。発達障害や統合失調症の傾向がある方との関わり方をサポートする立場です。

心理専門官との大きな違いは、アプローチの仕方にあります。心理専門官が心理検査やアセスメントを通じて受刑者の特性を分析するのに対し、処遇カウンセラーはプログラム内でのコミュニケーションを通じて、受刑者自身が「考え方の偏り」に気づけるように働きかける点に特徴があります。

しかし、参加者の多くは他者への不信感を強く抱えており、当初は「こんなことをして意味があるのか」といった否定的な反応が目立ちました。そこで導入されたのが「システム・センタード・アプローチ」と呼ばれる心理学的手法です。これは個人ではなく集団全体に焦点を当て、役割や相互作用を観察しながら、安全な関係性を築くことを目指すものです。

具体的には、「ここでの発言はどこにも漏らさない」という安心感を保証したうえで、本音を語れる環境を整えます。その中で、相手の話を否定せずに受け止める姿勢を一貫して保ちます。

一人の参加者が自身の過去の失敗体験を共有することで、「自分だけじゃなかった」と他の参加者が共感し、それぞれが自分の過去の行動に対する気づきを深めていきます。このような過程を通じて、再犯しないほうがいいという認識へとつながっていきます。

「わかってもらえる、わかりあえるという感覚が、自己理解を深め、自分自身をコントロールする力につながっていくのではないかと考えています」

性的欲求ではなく「支配欲」が動機だった

性犯罪というと、一般的には「性欲」が動機とされがちですが、実際には「人間不信からくる孤独感」や、「他者を自分の思い通りに支配したいという欲求」が背景にあるケースも多く見受けられます。

被害者への性的関心が動機ではなく、「特定の物への執着」や、「相手を困らせることで優越感を得たい」といった支配欲から行動に至る例もあります。性欲が強いというよりも、対人関係におけるコミュニケーションの不全や、自己中心的な欲求が根底にあることが少なくありません。グループワークでは、こうした背景に焦点を当てた対話を中心に進めています。

「理解してもらえたという事実からリラックスできると、平和な感覚を維持したいという感情が働きます。そうした状態へと自然と導くように会話をしていくのが私たちの役目なのです」

カウンセリングの現場では、「被害者に向き合う」という心情的な理解に対して、強い拒否反応が見られることがあります。

グループワークが進むなかで、「再犯はしてはいけない」と語っていた参加者が、被害者についてどう思うかという話題になると、自分が責められていると感じて激しく感情を爆発させたことがあったそうです。性犯罪において被害者の気持ちを理解するということは、非常に高いハードルであることを痛感させられた出来事でした。

「自分はそこまで悪いことをしていない」といった認識の歪みが根深く、それに伴う感情の起伏を抑えながら対話を進めることの難しさがあります。

「現場では日々、試行錯誤の連続ですね。地域住民にしてみたら、自分の周りにそんな人がいたらどう思うか。たとえばお子さんがいる方なら、娘がそんな目にあったらどう思うか。そんな風に加害者以外の立場でどう感じるのかという視点を持てるような話をしていきます。成果はすぐには見えませんが、言葉が響いていると感じられたときは嬉しいです」

処遇カウンセラーの厳しさとやりがい

性犯罪の加害者に対するカウンセラーは、受刑者の再犯防止を目的として加害者側の立場に寄り添う役割を担います。そのため、被害者支援を行うカウンセラーからは「なぜ加害者の肩を持つのか」と疑問を投げかけられ、対立が生じることもあります。

また、受刑者の中には、相手の反応を見てからかうような言動をとる人もおり、脅し文句を投げかけられることもあります。精神的なダメージを受けてしまうことも少なくないといいます。

「精神的な負担をコントロールするため、『仕事は仕事』と、家に帰ったら切り替えるというルールを徹底しています。仕事のことを引きずらずに、リラックスする時間を意識的に取り入れて、好きなものを食べたりして気持ちを整理します。私自身も辛いときには、カウンセリングを受けることで心を整える時間を確保しています」

「女性を困らせることで興奮する」と語る受刑者に対しては、毅然とした態度を保ちつつ冷静に受け流すなど、感情的に反応しないよう工夫を凝らしています。あくまでも被害者を軽視するものではなく、再犯を防ぎ、将来の被害者を生まないために不可欠な仕事です。

カウンセラーとしてのやりがいは、「心の変化を実感できたとき」だといいます。性犯罪は「究極的な相手への依存」だとされており、その苦しみを抱える人たちが少しずつ変わっていく姿に、大きな達成感を感じるそうです。

拘禁刑への一本化により、精神科医療の現場では、「オープンダイアローグ」や「リフレクティング」といった治療アプローチが取り入れられるといいます。これらは薬物に頼らず、徹底的な“対話”を重ねることで精神的な回復を促す手法であり、再入院率や通院日数の減少といった成果も報告されています。

「急激に変わることは難しくても、再発防止に向けた取り組みを続けることで人は少しずつ変わっていきます。粘り強く諦めずに関わって行くのが大事ですし、これからも続けていきたいです」

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翌檜 佑哉ライター

投稿者プロフィール

現地取材や専門家へのインタビューを重ね、一次情報に基づいた正確でわかりやすい記事を執筆。独自の視点から社会や地域の課題を取り上げる。

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