
大阪の公立小学校で教師をしている松下隼司です。(1978年生まれ/教員22年目/令和4年度文部科学大臣優秀教職員表彰を受賞/令和6年度版教科書編集)現在の日本の大きな教育課題の1つに「不登校」があります。不登校の原因やきっかけについては、さまざまな調査が行われています。その結果を生み出す社会的背景や根本的原因を、現役小学校教師の立場から考察します。
〈目次〉
過去最多を記録した不登校の現状とその原因
不登校の児童生徒が年々増加し、令和4年度は29万人(文部科学省調査)を超え、過去最多となりました。では、その主な原因は何でしょうか。
「いじめ」も過去最多を記録していますが、不登校の最大の要因とは言い切れません。実際、ある調査では「教師」が不登校の原因の1位に挙げられています。「教師の対応が怖い」「常にピリピリしてる」などが主な理由。一方で、文部科学省の調査では「無気力・不安」が主な原因とされ、教師・子ども・保護者の間で認識の差があることも明らかになっています。
「先生の対応が、悪いからだ」
「子どもがスマホやゲームを夜遅くしすぎて、昼夜逆転になっているからだ」
「保護者が、無理に子どもを学校に行かせなくなったからだ」
と、それぞれの立場からそれぞれの言い分があります。
しかし、原因を「教師」「子ども」「保護者」の三者の問題に限定してしまうと、特定の立場を「悪者」とする危険性があります。ここでは「教師」が不登校の原因になり得る背景を深掘りし、改善策を考えます。
教師が不登校の要因となる背景
では、教師が「怖い」「ピリピリしてる」と感じられるのはなぜでしょうか。原因を考え、改善することこそが、不登校を改善するために大切です。その背景には、日本における教育現場の過酷な労働環境が関係しています。
(1)教育への公的支出の低さ
日本の教育費の公的支出はOECD加盟国の中でも最低レベルです。このため、教育現場には十分な支援が行き届かず、教師の負担が増えています。
(2)クラスの大人数化と支援不足
日本の小学校では1クラスあたり30人以上が一般的ですが、オランダでは20人台前半、アメリカでは多くの小学校が2人体制をとっています。そのため、日本の教師は1人で多くの子どもを管理し、細やかな対応が難しくなっています。
(3)過酷な勤務状況
新年度準備の期間も日本では2週間程度しかなく、この期間に年度末処理をし、新年度担当する学年・学級・校務分掌の業務をします。新年度の予算を立てて、遠足などの下見をしたり、会議や研修があります。このような多忙な業務の中で新学期を迎えるのです。
一方、アメリカは日本のように4月スタートでなく、9月から新学年が始まります。アメリカの小学校の夏休みは、日本よりも長く、2〜3カ月の準備期間を確保できます。
日本の教師は授業準備の時間も取れず、休憩時間がなく、長時間労働に追われています。私の経験では、自分が担当する学級の準備をできるのは、定時を過ぎてからになることがほとんどでした。だから休憩時間も十分に取れませんし、残業時間、持ち帰りの仕事も多くなります。このような環境では、教師が常にストレスを抱え、子どもへの対応に影響を及ぼす可能性が高くなります。
教育現場の改善に向けて
2024年に、不登校問題に関わる課題を整理し構造化するためのワークショップが開催され、私も参加させていただきました。
文部科学省からも代表者が参加されて、「教員に原因があるなら、教員に『子どもへの対応の仕方』に関する研修が必要」との見解を示しています。しかし、私を含めた現場の教師からは「これ以上研修を増やすと業務負担が増し、余裕がなくなる」との声も上がっています。研修よりも業務の削減こそが、子どもと向き合う時間を確保するために重要です。
本音でいうと、さまざまな研修を受けてみたい気持ちはあります。それでも現状は放課後の時間も業務で埋め尽くされ、休憩時間も確保できていません。6時間目の授業や、期末個人懇談会や家庭訪問、放課後の出張は、教師の休憩時間と重なってしまっています。授業の準備が十分にできる環境整備や、教員の働き方改革が急務なのです。
不登校の原因は1人ひとり違っていて、SNSでの人間関係のトラブル、いじめが不登校の原因になることがあります。また、オンラインゲームを夜遅くまでして、朝起きるのがしんどくて遅刻や欠席をする子どもが増えていると実感します。
SNSやオンラインゲームのユーザーはどんどん低年齢化していて、例えば、LINEの推奨年齢は12歳以上、フォートナイトの対象年齢は小学生向けではありません。YouTubeやInstagramで自分のアカウントを作れるのは中学生以上です。しかし、こうした事実が子どもや保護者に十分に認識されていません。
教育現場の問題点だけでなく、家庭や社会の環境も含め、総合的に不登校の原因を分析し、根本的な改善を進めることが求められます。
不登校問題の本質と向き合うために
「教師が不登校の原因」とされる背景には、教育現場の過酷な環境が大きく影響しています。ただ教師を責めるだけでは解決になりません。教育予算の拡充、労働環境の改善、家庭・社会の意識改革が不可欠です。
不登校の問題に向き合うには、表面的な原因ではなく、その背後にある構造的な問題を見極め、改善に向けた具体的な行動を取ることが重要です。危険因子を早急に改善していくことこそが、不登校改善への具体的な一歩になるはずです。