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障害のあるアスリートが参加する世界最高峰のスポーツ大会であるパラリンピック。
障害を持つ多くの人に希望を与えている大会です。
毎年大きな盛り上がりを見せているこのスポーツの祭典について、障害を持つ人にどのような影響を与えているのかを調べた研究が存在します。今回は中国で行われた研究を紹介します。
論文のタイトル
中国浙江师范大学身体健康学部 Jing Qi氏らが2021年7月,International journal of environmental research and public healthに報告した論文です。
この研究の背景と目的
この研究は中国で2021年に行われた研究です。
パラリンピックの世界的な知名度の上昇に伴い、障害者スポーツが社会的に重要なテーマとして認識されるようになってきました。そんな中で世界的に障害がある子どもたちの体育・スポーツ活動への参加機会の確保が課題になっています。
そのような状況で、障害のある子どものスポーツ参加に関する研究、特にパラリンピックの影響に焦点を当てた研究が不足していることが課題となっていました。既存の研究は成人の障害者アスリートに焦点を当てたものだったのです。
これらの背景を踏まえて障害のある子どもたちのスポーツ参加に対するパラリンピックの影響をより深く理解する目的でこの研究は行われました。
研究の方法
この研究では、中国の身体障害のある子どもたちがスポーツや身体活動(PA)に対してどのような考えを持っているのか、またパラリンピックがその考えにどのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的とし、質的研究の方法を用いて行われました。(質的研究とは、人の考えや気持ち、経験の「意味」を深く理解するために、インタビューや観察などを通して言葉のデータを集めて分析する方法です。数字ではなく、人の声や背景に注目します。)
研究には、浙江省金華市にある通常学校に通う小学生と中学生、合計5名が参加しました。参加者は、学校を通じて募集され、保護者と本人の同意を得て選ばれました。
子どもたちは、「パラリンピックと身体活動」をテーマにした3回のワークショップに参加しました。第1回のワークショップでは、パラリンピックの歴史や種目、有名な外国人選手について学びました。第2回では、2008年の北京パラリンピックに関する内容や中国選手の活躍を映像などを通じて学びました。第3回では、障害のある人にとっての身体活動の利点や参加の機会について学習しました。各回のワークショップは1.5〜2.5時間で行われ、専門家によって進められました。
ワークショップの前後には、インタビューが実施され、子どもたちの考えや感じたことを詳しく聞き取りました。
研究の結果
それぞれのワークショップでは参加した子どもたちから以下のような反応が見られました。
第1回ワークショップ
パラリンピックの歴史や有名な選手の活躍を知った子どもたちは「すごい」「信じられない」などの言葉を用いてパラリンピックに対する感情を表現していました。参加するまでパラリンピックに対して興味を持っていなかった子どもも多く、新しいことを知ったことに喜びを表現する子どもが多かった一方で学校ではこうした情報に触れることが少なく、もっと知りたいという声もありました。
第2回ワークショップ
自国の選手の活躍をきいて、スポーツや身体活動に挑戦したいという前向きな声が上がりました。しかし、一方で「友達に笑われるのではないか」「危ない・こわい」など心理的なハードルの高さもう浮き彫りになりました。実際に体育の授業に参加できていない子どもも参加者には含まれていて、スポーツに参加することの困難さも浮き彫りになったのです。
第3回ワークショップ
障害のある人がスポーツに参加することの利点をしり、家族からの応援が大切であるという意見が上がり、心理的な不安を克服する方法を知りたいという思いが語られました。一方で家族と一緒にスポーツを楽しみたい理解してほしいという願望を訴える参加者もいて、自己肯定感の低さや過去の辛い経験が挑戦を躊躇う原因となっていることが伺えました。
研究から考えられたこと
本研究から、パラリンピックに関するワークショップが障害のある子どもたちに大きな影響を与えることが明らかになりました。子どもたちはパラリンピック選手の姿に感動し、「自分もやってみたい」と前向きな気持ちを抱くようになりました。知識や理解が深まることで、スポーツや身体活動への意欲も高まりました。一方で、友人のからかいや安全への不安、家庭や学校の理解不足などが参加への障壁となっていることも分かりました。
これらの結果から、パラリンピックで障害者が活躍する姿を見せることは障害者の意識変容を促すだけでなく、社会全体の理解を深める重要な教育的機会であるといえます。
そしてその目的を達成するためには周囲の支援と継続的な学びの場の提供が必要であると考えられます。