
2期目のトランプ政権の発足から4ヶ月が経過し、トランプ関税は国際社会に動揺と混乱をもたらしています。この関税政策は、単なる経済的手段を超え、国際交渉における戦略的武器として機能しています。
<目次>
トランプ関税の二面性

トランプ大統領は、関税を「脅しとしての関税」と「発動するための関税」に分類し、これを巧みに使い分けることで、諸外国から譲歩を引き出し、米国の政治的安定と経済的繁栄を追求しています。この二面性は、トランプ政権の「アメリカ第一主義」を象徴し、2025年以降の国際経済に大きな影響を及ぼす可能性があります。
トランプ大統領は、関税を単なる経済的措置ではなく、戦略的ツールとして位置づけています。「脅しとしての関税」は、相手国に高い関税率を提示することで、貿易協定の再交渉や非関税障壁の緩和、通貨操作の是正などを迫る交渉カードです。
一方、「発動するための関税」は、貿易赤字の縮小や国内産業の保護を目的に実際に課されます。これらの役割は、トランプ政権1期目(2017~2021年)で既に顕著でしたが、2期目ではより大胆かつ広範に展開されています。特に、2025年はグローバル経済の不確実性が高まるなか、関税政策が各国経済や企業戦略に与える影響が一層注目されています。
脅しと発動で相手を揺さぶるトランプ関税

「脅しとしての関税」は、相手国に圧力をかけ、米国にとって有利な条件を引き出す戦略です。第1次トランプ政権では、米国が日本の自動車・自動車部品に25%の追加関税を示唆した際、日本が米国産牛・豚肉の関税引き下げを受け入れたことで、関税発動が見送られた例があります。
2025年4月、トランプ政権は日本を含む約60の国・地域を対象に「相互関税」政策を発表し、日本に対して24%の関税を提案しました。この発表は、戦後の自由貿易秩序を揺さぶる動きとして、各国に衝撃を与えました。
トランプ氏は発表直後に90日間の関税停止を宣言し、市場の混乱を抑えつつ交渉を進める時間的余裕を確保しました。この柔軟な運用は、トランプ氏の交渉術の特徴であり、相手国に譲歩を迫る一方で、経済的ショックを最小限に抑える戦略的計算が働いています。
「発動するための関税」は、具体的な経済的効果を追求するものです。トランプ氏は、米国の貿易赤字を「不当な貿易慣行の結果」とみなし、縮小を目指して関税を課しています。2025年3月、輸入車に25%の追加関税を課す大統領令が発効。日本にとって、自動車は対米輸出の約3割を占める主要品目であり、この関税は深刻な影響を及ぼします。
たとえば、100万円の自動車を輸出する場合、従来の2.5%関税(2万5000円)が27.5%(27万5000円)に跳ね上がります。このコスト増は、企業に価格転嫁、利益圧縮、または販売量減少の選択を迫ります。トヨタやホンダのように米国で現地生産を行う企業は影響を軽減できますが、輸出依存度の高い中小企業や部品メーカーは大きな打撃を受けます。
同様に、中国に対しては2025年2月から20%の追加関税が課され、4月には34%の相互関税と50%の上乗せ関税を合わせた計104%の関税が発動されました。この措置は、フェンタニル問題や貿易赤字への対抗策として明確に設計されており、米国内での生産回帰を促す狙いがあります。
しかし、輸入品の価格上昇は消費者物価を押し上げ、インフレ圧力を高めるリスクを伴います。中国は報復として米国国債の売却や対抗関税を検討しており、米中間の貿易戦争が再び激化する懸念が高まっています。さらに、この関税はグローバルなサプライチェーンにも影響を及ぼし、半導体や電子部品の供給網に混乱が生じる可能性があります。
世界経済と地政学的影響

トランプ氏の関税戦略は、グローバル貿易の構造を大きく変える可能性があります。「脅しとしての関税」は不確実性を生み出し、各国に貿易協定の再交渉を強いる一方、「発動するための関税」はサプライチェーンの混乱や物価上昇を引き起こします。
日本企業は、コスト増や市場縮小に対応するため、生産拠点の多元化や現地生産の拡大を加速させる動きが見られます。たとえば、トヨタは米国での生産能力を2025年末までに10%増強する計画を発表し、関税リスクの軽減を図っています。しかし、中小企業にとってはこうした投資が難しく、輸出競争力の低下が懸念されます。
地政学的には、関税政策は同盟関係にも影響を及ぼします。日本は米国の重要な同盟国ですが、関税圧力により、国内経済の利益と米国との戦略的連携の間で難しい選択を迫られます。バイデン政権下で米国は先端半導体分野での対中輸出規制を強化し、日本にも同調を求めた結果、日本は半導体製造装置の輸出規制を導入しましたが、これが中国による日本産水産物の輸入停止を引き起こすなど、日中間の貿易摩擦が拡大しました。
トランプ関税がさらにエスカレートすれば、日本企業が中国市場への依存を強める可能性もありますが、これは米国との戦略的関係を複雑にするリスクを伴います。加えて、欧州連合(EU)や東南アジア諸国も、トランプ関税への対応として独自の貿易ブロック形成を模索する可能性があり、グローバルな貿易秩序の分断が加速する恐れがあります。
日本企業と自動車産業への影響と対策

日本にとって、トランプ関税への対応は喫緊の課題です。自動車産業への影響を最小限に抑えるため、政府は米国との二国間交渉で関税免除や軽減を求める一方、TPPやRCEPなどの多国間貿易枠組みを活用して、米国以外の市場を強化する戦略が求められます。
企業レベルでは、サプライチェーンの見直しやデジタル化、脱炭素技術への投資を通じて、関税リスクに強いビジネスモデルへの転換が急務です。たとえば、電気自動車(EV)や次世代電池の開発で先行する日本企業は、米国の環境規制やインフラ投資の動向を見据え、戦略的提携を模索する動きが活発化しています。
トランプ氏の「脅しとしての関税」と「発動するための関税」の二面性は、交渉のレバレッジと経済的保護主義を組み合わせた戦略的アプローチを反映しています。日本にとっては、自動車や電子機器などの主要産業への影響を最小限に抑えつつ、高い関税を回避するための交渉が不可欠です。
グローバルな貿易や同盟関係への影響を考慮すると、2025年以降の国際経済は不確実性が増すなかで、各国は経済的ナショナリズムの高まりに対応する戦略を模索する必要があります。トランプ関税が有利な貿易条件を確保しつつ、グローバル経済の安定や日本のような重要パートナーとの関係を損なわないかどうかが、今後の焦点となるでしょう。日本の政府と企業は、柔軟かつ先見性のある対応を通じて、この新たな貿易環境を乗り切る戦略が求められます。