なぜ警察は“その人”を狙って逮捕するのか。オンラインカジノにおける「見せしめ」の構図

なぜ警察は“その人”を狙って逮捕するのか。オンラインカジノにおける「見せしめ」の構図

芸能人や著名経営者が、オンラインカジノで摘発されるニュースが後を絶ちません。「なぜ彼らだけが捕まるのか」と不思議に思う方もいるでしょう。しかしそれは偶然ではなく、警察は“誰を捕まえるか”を、ちゃんと選んで動いています。

私はかつて千葉県警の風俗保安課に所属し、違法賭博の捜査を担当してきました。本稿では、警察がなぜオンラインカジノに注目しているのか、誰がターゲットにされやすいのか、そして逮捕が人生に与える影響について、元警部補としての視点から解説していきます。「バレないはず」と思っているすべての人に読んでほしいと思います。

<目次>

オンラインカジノが違法とされる理由

オンラインカジノのイメージ

「海外のサイトだから、日本の法律は関係ないと思っていた」

実際に逮捕された人たちの多くがそう話しますが、それは大きな勘違いです。オンラインカジノ(通称オンカジ)は、日本国内では違法です。刑法185条および186条が規定する賭博罪、または常習賭博罪に明確に該当します。

仮に運営が海外でも、利用者が日本国内でアクセスし、賭けを行った時点で違法行為となります。スマートフォンやPCから日本の自宅でログインし、クレジットカードなどで入金、ゲームでベットした瞬間に、すでに賭博罪の構成要件を満たしているのです。

では、なぜこれまで見過ごされてきたように思えたのでしょうか。その理由のひとつに、警察の捜査スタイルが挙げられます。

警察には、ふたつの捜査スタイルがあります。

  1. 被害届などを受けて動く「受け身の捜査」
  2. 社会的影響や違法性の高さを重視して動く「攻めの捜査」

特にオンカジのような賭博事件には被害者がいないため、警察は社会的影響を重視して、“攻め”の捜査スタイルを取ります。賭博事件は、誰かの告発や被害届をきっかけに始まるものではありません。だからこそ警察は、「誰を検挙すれば世間に最もインパクトを与えるか」を基準に動きます。

2022年に話題となった山口県阿武町の4630万円誤送金事件から、オンラインカジノの違法性が広く認識され、警察や行政の動きが加速しました。コロナ禍でオンカジ利用者が急増したことも背景にあります。

自宅で過ごす時間が増え、ストレスや暇つぶし、あるいは「副収入を得たい」という気持ちから、 多くの人が“気軽に”オンカジに手を出しました。しかし、その“気軽さ”の代償は、想像以上に重いものです。もしあなたがオンカジに手を出しているなら、もう他人事ではありません。

「話題性」を狙う“見せしめ型”の検挙

警察にオンラインカジノの見せしめで逮捕された人

捜査員をたくさん動員する大事件ではなくても、違法性が明白であれば少人数の体制でも、“注目される検挙”が可能です。その結果、ターゲットとなりやすいのは以下のような人物です。

① 著名人(芸能人・スポーツ選手・YouTuber など)
名前を出すだけで大きな報道になる存在は、広範囲への警告として効果的です。
ある意味、“広告効果”のようなものを狙っていると言ってもいいでしょう。

② 社会的立場のある人(社長・役職者・医師・弁護士 など)
組織や社会に与える影響が大きく、

  • 組織内の統制
  • 他の関係者への疑念
  • 取引先への影響

など、社会全体への波及効果が非常に大きくなります。

③ 高額プレイヤー(大きく賭けている or 大きく負けている)

金額が大きいほど悪質性や常習性が立証しやすく、送金履歴・賭け金のトレースなどから、 他の利用者や“業者”への波及捜査につながる可能性もあります。検挙することで“芋づる式”に広がっていく可能性を持っているのが、 この高額プレイヤー層です。

これらの要素を複数兼ねている人は、リスクがさらに高まります。「元スポーツ選手でインフルエンサー」「医師で月数十万円の賭けを常習的にしている」といったケースは、警察のターゲットになりやすいのです。

「著名人が逮捕された」というニュースが流れることで、「あの人が捕まったなら、自分の周囲も…」と不安が広がります。これは、警察にとっては極めて効率的な抑止力になります。

警察が見るのは、過去の“利用歴”だけではありません。その人がどれだけの影響力を持っているか、 捜査によって社会にどれだけの波紋を広げられるか――そこまで冷静に、計算されているのです。

「匿名なら大丈夫」は通用しない

オンラインカジノを始めた人

「本名ではないからバレない」と考える人は少なくありません。しかし、オンラインカジノは金銭を介するため、匿名性には限界があります。

  • 決済ルート
  • アカウント名義
  • 送金履歴
  • クレジットカード番号
  • IPアドレス
  • デバイス情報

これらの情報がひとつでも特定されれば、利用者の実態は簡単に割り出されます。特に「クレジットカードや電子決済サービスを通しての送金」は、 警察にとって非常に分かりやすい証拠です。

仮にすでに利用をやめていたとしても、賭博罪の時効は3年間。過去の履歴が捜査対象となる可能性は十分にあります。警察は一度捜査に入れば、 複数年分の履歴を徹底的に洗ってきます。「数年前のやりとりなんて覚えてない」では済まない世界です。

オンカジは、運営元が悪質なケースも多く、 マネーロンダリングや組織犯罪との関連も疑われています。だからこそ、警察も本腰を入れて追っているのです。匿名アカウントでも、ひとたび銀行や決済サービスの情報が開示されれば、 すぐに「誰が、いつ、どの端末でアクセスしたか」まで一気に割り出せます。

逮捕が現実にもたらすもの

警察にオンラインカジノの見せしめで逮捕されることを知った人

芸能人や経営者など、社会的立場のある人がオンラインカジノで検挙された際、警察から報道機関への“情報リーク”が行われることもあります。実際、逮捕前の段階で報道機関により“張り込み”や“隠し撮り”が行われているケースが散見されるのは、この情報提供の存在を裏付けるものとも言えるでしょう。

オンラインカジノに関する事件は、社会的注目が高く、報道対象として非常に扱いやすいジャンルです。なかでも、肩書きのある人物が関わっている場合、実名報道の可能性はかなり高くなります。特に近年はオンカジ関連のニュースが急増し、各メディアも敏感に反応しています。「また逮捕者が出た」というだけで、メディアにとっては格好のネタになるのです。

  • 実名と顔写真がテレビやネットで拡散される
  • SNS上で過去の投稿や家族の情報まで掘り起こされる
  • 謝罪会見や声明発表を余儀なくされる

一度報道されて世間の注目を集めると、その広がり方は”炎上”どころか、ほとんど“崩壊”と呼べるほど急速です。

また、会社役員や管理職などの立場にある人の場合、逮捕はすぐさま重大な影響を及ぼします。

  • 経営陣からの辞任
  • 社外取締役としての解任
  • 顧問契約の解除

たとえ有罪判決が確定していなくても、「逮捕された」という事実そのものが信頼や取引関係に直結します。特に上場企業に勤める人は、コンプライアンスの観点から厳しい処分が下される可能性が高まります。

また、取引先からの信用を失ったり、社員や関係者のモチベーション低下など、そのダメージは組織全体に及びます。株価への悪影響を及ぼす可能性もあり、たった一人のオンカジ利用が、企業経営の根幹を揺るがすリスクを孕んでいるのです。

社会的制裁は、本人だけにとどまりません。

  • 家族が近隣で噂の的になる
  • 子どもが学校でいじめに遭う
  • 友人や知人から距離を置かれる

こうした“間接的な被害”が、精神的には最も重くのしかかるケースもあります。「まさか自分がこうなるとは」と後悔する人の多くが、この現実を想像していなかったのです。オンラインカジノは軽い気持ちで始められるかもしれません。しかし、いざ逮捕されれば、その代償はあまりにも大きく、深刻です。

今こそ知っておきたい「自己防衛策」

オンラインカジノについて弁護士に相談する人

今もなおオンラインカジノを続けている方は、できるだけ早く手を引くべきです。警察の捜査は過去の履歴まで遡って証拠を固めていきます。まずは、自分の行動をすぐに止めることが、防衛の第一歩になります。

「もうやっていないが、以前は利用していた」という方にとっては、次の2点が重要です。

  • 決済方法や送金の履歴がどれだけ残っているか
  • 登録情報などから、どこまで個人が特定可能か

可能であれば、当時の決済方法や送金履歴、登録情報などを整理し、 状況を正確に把握しておきましょう。不安がある場合は、できるだけ早めに弁護士など法律の専門家に相談することをおすすめします。

ちなみに、「逮捕」と「検挙(書類送検)」では、まったく異なる意味を持ちます。逮捕とは、拘束されて身柄を取られること。 検挙は、在宅のまま捜査が進むケースです。もし同じ容疑で立件されるとしても、逮捕されると社会的なダメージが圧倒的に大きくなります。

  • ニュース報道の対象になる可能性が高くなる
  • 家族や会社にも即時にバレる
  • 留置場での拘束・取り調べを受ける
  • 初動対応の遅れが弁護活動に悪影響を及ぼす

一方、任意出頭や在宅捜査の形になれば、 社会的な影響は最小限に抑えられる可能性もあります。だからこそ「どうすれば逮捕されずに済むか」という視点が重要なのです。

逮捕を避けるために取るべき行動は下記の5点です。

①弁護士に事前相談する(早期対応がカギ)
②自主的に出頭する(弁護士の同行が望ましい)
③証拠隠滅や逃亡の意思がないことを示す
④任意出頭の要請には誠実に応じる
⑤送金記録やアカウント情報をあらかじめ整理しておく

警察は「逃げる可能性がある」「証拠を隠す恐れがある」と判断すれば、即座に逮捕へと踏み切ります。反対に、落ち着いて準備し、冷静に対応できると見られれば、在宅での手続きに切り替えられることもあります。

何の準備もない状態では、対応を誤る可能性も高まります。「何かあったときに頼れる場所」を事前に用意しておくことが、最大の自己防衛になるのです。

一般社団法人刑事事象解析研究所

投稿者プロフィール

警察の元警部補。サイバー犯罪などの事件を多数担当。
2024年、刑事事象解析研究所(ケイジケン)を設立。「進化する犯罪…その先へ。」をコンセプトに全国で発生する最新犯罪を解析研究し、講演やメディア出演を通じて最新の防犯メソッドを発信している。

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