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- 安全のための運転支援がなぜ危険運転を招くのか。米国研究が警鐘を鳴らすシステムの落とし穴

進歩を続ける自動車の運転支援システムは安全性を高めるのか、それとも運転者の慢心を育むのか――。アメリカでの新しい研究によると、安全運転支援技術が運転者を危険にさらす可能性が指摘されている。緊急を要する警報システムが、皮肉にもスピード超過や急ブレーキといった荒い運転を助長させていたのだ。
<目次>
運転支援システムの利用時の事故は過失か危険運転か

安全のための技術が人間の慢心を招くのか――。
2024年9月に、高知県香南市の片道一車線の路上で起きた車の正面衝突で、1歳児が亡くなるという痛ましい事故が起きている。対向車線を越えて飛び出した車を運転していた被告は、最新の運転支援システムに頼り切って運転していたといわれている。
起訴状によると被告は運転支援システムを使って運転中、革靴からサンダルに履き替えようとシートベルトを外し、左側に体を大きく倒して助手席の足もとにあるサンダルに左手を伸ばした際、誤ってハンドルを切ってしまい、対向車線に飛び出して事故を起こしたとされる。
被告が事故時に使っていた運転支援システムは、前を走る車との車間距離を一定に維持する機能を使っている際に、車線をはみ出さないようハンドル操作を支援する仕組みだったという。
モビリティ専門家を会員とする米国の非営利団体「SAE(Society of Automotive Engineers)」が定める自動運転レベルには5段階(レベル0を含めて6段階)あるが、LTAは「レベル2」に該当するという。
「レベル2」は「部分運転自動化」の機能で、高速道路などの条件が整った場所でシステムがハンドル操作と加減速の両方を同時に支援する。具体的には高速道路でのハンズオフなどだが、運転はあくまで人間が行うことが前提の技術である。
自動運転「レベル2」にはハンズオフ機能をはじめ、前を走る車との車間距離を自動で維持するACC(アダプティブクルーズコントロール)や、車線をはみ出さないようにハンドル操作を支援するLKA(レーンキープアシスト)などがあるが、一般的に「ADAS(先進運転支援システム)」として位置づけられている。
もちろんシステムはあくまで運転の支援であり、事故の責任はドライバーにあり、常に運転状況を監視し、緊急時に備える必要がある。運転支援システムを装備した車両を購入する際には、機能の理解と確認のために書類へのサインが求められている。
この事故で被告は過失運転致死傷の罪で起訴されているが、事故における運転支援システムの利用は、ドライバーの「過失」を軽減するものなのか、それともドライバーの注意不足を招き「危険運転」を促し得るものなのかについての議論が続いているようだ。
緊急を要する警告で運転が荒くなる

そしてアメリカでの新たな研究では、車の安全技術は危険な運転を助長する可能性があることが指摘されている。
米テキサス大学オースティン校、香港城市大学、メリーランド大学の研究チームが2025年4月に「Production and Operations Management」で発表した研究では、事故防止を目的とした運転支援システムの車内の警報に対して、人間の運転手がどのように反応するかが検証されている。
この研究は、名前が明らかにされていない大手自動車メーカーの依頼で行われ、2018年から2019年にかけて製造された車両を対象に調査を行い、研究チームは約20万台の自動車に搭載された2種類の警告システムに着目した。それは緊急性のない警告と緊急性のある警告の2つのカテゴリーである。
緊急を要しないシステムには、死角に車両が存在することをドライバーに警告する死角検知センサーなどがある。一方、緊急を要するシステムの代表が衝突防止センサーであり、ドライバーに車両に衝突しそうになることを警告する。
研究チームは、緊急性のない警告システムが使用されている場合、ドライバーの速度制御が向上し、急ブレーキの頻度が減ることを突き止めた。一方、緊急性のある警告システムが使用されている場合、ドライバーの速度超過と急ブレーキの増加につながっていたのだ。
「緊急警告の場合は逆の現象が起きます。直感に反すると思いませんか?」と、研究チームのアシシュ・アグラワル氏は説明する。
「これらの警告により、速度超過や急ブレーキの習慣も悪化し、行動の変化は時間とともに劣悪になります」
緊急を要しない死角検知機能により、先進運転支援システムを搭載していない車と比較して、1日の急ブレーキの発生件数が6.76%、速度超過の発生件数が9.34%減少した。一方、緊急を要する前方衝突警報システムは、急ブレーキを5.65%増加させ、速度超過を5.34%増加させた。
また、死角検知機能の存在により、急ブレーキ(速度超過)の発生件数が減少することで、衝突率が2.17%(3.14%)低下することが定量的に示された。
「平均的には、これらの機能は衝突の防止に役立ちますが、死角検知のような緊急性のない警告では(時間の経過とともに)効果が高まるのに対し、緊急性のある警告では効果が低下します。ドライバーの行動は悪化するのです」
アグラワル氏によると、我々が情報を処理する方法も一因となっている。突然の緊急警告は「反応的な思考」を引き起こす一方、緊急でない警告は「じっくり考える機会」を与える。たとえば車が通り過ぎるたびに発せられる、緊急を要しない警告の継続的な刺激は、行動を改善する学習につながる。一方で予期せぬ緊急警告からは人は学びにくいのである。
運転支援システムが動作しないことも多い

アメリカ自動車協会(AAA)の広報担当者ダグ・シュープ氏は「先進運転支援システム(ADAS)により、今後30年間で約3700万件の衝突事故、1400万人の負傷、そして約25万人の死亡を防ぐことができる可能性がある」と、2020年のプレスリリースで述べている。
ADASには前方衝突警告検出、アダプティブクルーズコントロール、車線逸脱警告、死角監視が含まれる。
これらのシステムにはメリットがある一方で、問題がないわけではない。AAAが2020年に実施した調査によると、4000マイル(約6400km)走行した際に、8マイル(約13km)ごとにシステムに不具合が発生したことがわかっている。またほとんど予告なく解除されることも起こり得る。
同じくAAAの2022年の調査によると、時速30マイル(約48km/h)では、自動緊急ブレーキは20回中17回作動するが、速度が上がると成功率は低下し、時速40マイル(約64km/h)ではシステムは20回中6回作動するにとどまることが報告されている。運転支援システムが作動しないケースは、考えられているよりも多いのだ。
運転支援システムの主な問題点は、機能の限界(天候、環境による作動不良)、ドライバーの過信と誤解、責任の所在の曖昧さ、セキュリティリスク(ハッキング)、法整備の遅れなど多岐にわたり、これらがむしろ事故につながるリスクを高める要因ともなっている。
運転支援システムはあくまでも「運転を支援する」ものであり、ドライバーに代わって「運転を代替する」ものではないという理解が重要である。システムが完璧ではないことを理解し、天候や周囲の状況に合わせてドライバー自身が常に安全運転を心がける必要がある。
ADASのさらに先にある自動運転技術の開発が着々と進められているが、安全のための技術が皮肉にもドライバーの注意不足に繋がらないよう、路上では緊張感と責任感を忘れないようにしたいものだ。
※出典
General Behavioral Impact of Smart System Warnings: A Case of Advanced Driving Assistance Systems
※参考記事
Car safety tech could encourage risky driving, UT researcher says




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