みなさんは知っていますか?
アメリカ食品医薬品局(FDA)が、2008年に2歳未満の乳幼児に対するOTC(*)の鎮咳薬や総合感冒薬の使用を、避けるべきだとの勧告を出しています。
それを受けて日本でも、OTCのかぜ薬(内用)、鎮咳去痰薬(内用)および鼻炎用内服薬に対して、「2歳未満の乳幼児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ服用させること」と「使用上の注意」が改訂されています。
*Over The Counterの略。OTC医薬品とは、カウンター越しにアドバイスを受けた上で購入できるお薬です。
小児の鎮咳薬・咳止めの有効性と安全性
咳止めの薬は2種類あり、脳の咳中枢というところに作用して、咳を抑えようとする「中枢性鎮咳薬」と、去痰・気管支拡張作用を通じて、咳を抑えようとする「末梢性鎮咳薬」があります。
さらに、中枢性鎮咳薬は大きく2種類に分けることができ、麻薬性と非麻薬性に分けられます。
- 麻薬性:コデインなど
- 非麻薬性:デキストロメトルファン(メジコン®️)やチペピジン(アスベリン®️)など
参照
1.Turner RB, Hayden GF : The Common Cold. Kliegman RM, et al eds, Nelson Textbook of Pediatrics, 19th Edition. Saunders;2011:pp 1434-1436
2.増田佐和子.小児慢性咳嗽の診療におけるピットフォール.日耳鼻 122: 1411ー1416,2019
3.臼井智子.小児のかぜ.日耳鼻感染症エアロゾル会誌 2020;8:165–171
4.Hirotake Takai,Izumi Kato,Kanako Mitsunaga Takai,et al.A pediatric case of anaphylactic shock induced by tipepidine hibenzate (Asverin).Asia Pac Allergy.2018 Oct 18;8(4):e37. doi: 10.5415/apallergy.2018.8.e37. eCollection 2018 Oct
5.西村龍夫,絹巻宏,保坂泰介,他.急性咳嗽を主訴とする小児の上気道炎患者へのチペピジンヒベンズ酸塩の効果.外来小児科 2019;22:124-132
蜂蜜の鎮咳作用
蜂蜜が咳を鎮めることは多くの論文で報告されています。
しかしながら、その活性成分や作用機序については、明らかにされていませんでした。
ですが、2023年の報告では、蜂蜜に含まれる鎮咳成分には、「メルピロール」と「フラジン」があり、それらの活性が鎮咳作用を示すとする研究結果が出ました。
この研究で蜂蜜を投与した群では、水を投与した群に比べ、咳の回数が有意に低減したという結果が出ています。
すなわち、蜂蜜の鎮咳作用は、のどを潤すことによるものではないことが確認されたということです。
また、両化合物の作用機序を調べたところ、シグナル伝達物質である一酸化窒素(NO)を介して、咳を鎮めることが示されています。
咳は夜間に出やすくなるので、寝る前にスプーン1杯程度の蜂蜜を飲むといいといえるでしょう。
これは就寝前に、「スプーン1杯(2.5mL)のハチミツを取るグループ」「咳止めを飲むグループ」「何もせず様子をみるグループ」のいずれかに、ランダムに割り付けた研究で、蜂蜜を与えられた患児で、有意に咳が減少することを示したことによります。
つまり、この研究により蜂蜜は、小児期の上気道感染症に関連する咳や、睡眠障害の好ましい治療法である可能性を示したのです。
参照
6.Tatsuo Nishimura, Hiromi Muta, Taisuke Hosaka,et al. Multicentre, randomised study found that honey had no pharmacological effect on nocturnal coughs and sleep quality at 1-5 years of age.Acta Paediatr. 2022 Nov;111(11):2157-2164
7.Hiroko Tani,Masayuki Yamaga,Tomoki Sekiya,et.al.Identification of a New Pyrrolyl Pyridoindole Alkaloid, Melpyrrole, and Flazin from Honey and Their Cough-Suppressing Effect in Guinea Pigs.J Agric Food Chem. 2023 Sep 20;71(37):13805-13813
不確定な部分があるものの蜂蜜には鎮咳作用が期待ができる
ある研究チームは、ハチミツが風邪症状に及ぼす影響を検証した14の研究を分析し、ハチミツの効果を調査しました。
調査に用いられた14の研究は、合計で1,761人の被験者を対象としており、研究チームがこれらの研究結果を分析したところ、喉の痛み、鼻づまり、咳といった上気道炎症状を改善する上で、「ハチミツが市販薬や抗生物質といった通常の治療法よりも有効である」との結果を確認しました。
ただし、メタ解析では、急性上気道炎、そして咳に対する蜂蜜の研究の質が低く、蜂蜜が役立つかどうかは、まだ分からないとしか言えないと結論づけています。
また、世界保健機関(WHO)は、蜂蜜が咳やその他の上気道感染症の治療に有効であることや、1歳以上の⼦どもに与えるのに⼀般的で安全であることを発表しています。
近年のレビュー論文では、咳の頻度や咳の重症度といった上気道感染症の改善には、蜂蜜が通常のケアよりも優れていると結論づけているものもあります。
なお、1歳未満の乳児は腸内環境が未熟なため、蜂蜜にボツリヌス菌が混入していた場合、菌が腸内で増えて、「乳児ボツリヌス症」を起こすことがあります。
乳児ボツリヌス症の予防のため、1歳未満の乳児に蜂蜜を与えるのは避けてください。
全ての蜂蜜が同じように作られているわけではなく、複雑で不均一な物質であるため、ある蜂蜜が他の蜂蜜よりも風邪の治療に効果的な可能性もあります。
このように、1歳を超えた子どもの長引く咳に、寝る前のスプーン1杯の蜂蜜を一考してみるのは、有効な一手かも知れません。
参照
8.Hibatullah Abuelgasim,Charlotte Albury,Joseph Lee,et al.Effectiveness of honey for symptomatic relief in upper respiratory tract infections: a systematic review and meta-analysis.BMJ Evid Based Med 2021 Apr;26(2):57-64
9.Ian M Paul, Jessica Beiler, Amyee McMonagle,et al. Effect of honey, dextromethorphan, and no treatment on nocturnal cough and sleep quality for coughing children and their parents. Archives of pediatrics & adolescent medicine. 2007 Dec;161(12);1140-6
10.Olabisi Oduwole, Ekong E Udoh, Angela Oyo-Ita,et al.Honey for acute cough in children.The Cochrane database of systematic reviews. 2018 04 10;4;CD007094