医療費が高くなっているから、病院は儲けている?公立病院が赤字である「悲惨な現状」について

医療費が高くなっているから、病院は儲けている?公立病院が赤字である「悲惨な現状」について|ライター:秋谷進(たちばな台クリニック小児科)

厚生労働省が「令和5年度医療費の動向」を発表しました。

同資料によると、令和5年度の医療費は47.3兆円に達し、前年度と比較して約1.3兆円増加しました。前年比で2.9%増加しており、入院医療費も18.7兆円(総医療費の約39.5%)に達しています。

参照:厚生労働省「令和5年度 医療費の動向」を公表

これをみて、みなさんはどう思うでしょうか?

「病院ってもうかってるんだな」
「私たちの税金を使って、医者がもうけている」
と考えてはいないでしょうか。

しかし、実際は違います。公立病院を中心とした多くの病院は経営破綻しかけているのです。

まず、これを見てください。こちらは厚生労働省が令和4年4月20日に公表した「公立病院経営強化ガイドライン」の説明資料です。

厚生労働省が令和4年4月20日に公表した「公立病院経営強化ガイドライン」の説明資料

こちらは、経営損失を生じた公立病院の割合です。平成20年から令和2年にかけて、42.8〜70.3%もの病院が赤字になっているのがわかります。もちろん赤字がつぶれれば、どんな商売もつぶれますよね。

それは病院でも同じです。持続可能な経営を確保できない病院がこんなにも多いのは驚きです。

経営損失を生じた公立病院の割合

どんな病院が赤字になりやすいのかというと、「100床未満の中小規模病院」ですね。こちらは公立病院の修正医業収支比率ですが、大病院では、収支比率85.8%なのに対して、100床未満では66.2%にしか達していません。

どうして中小規模の有床病院の収支がこんなにも悪いのか。一言でいうと、医療者側にも患者側にも魅力となる要素を出しにくいからです。

医療従事者になって考えてみてください。あなたが若手の医師だったとします。バリバリいろんな経験を積んで見たい年齢だった時に、最新設備がある高度な医療センターと中小病院とどちらの方が魅力的に移りますか?

また今度は患者側になって考えてみてください。あなたが突然心筋梗塞になったとします。一刻も早く病院で治療をしないといけない。その時に、救急隊の人から大きい病院と中小規模の病院を提示されたら、大規模病院を選ばないでしょうか。

そう。中小規模の病院は独自の魅力を出さないと、双方からしても魅力に感じにくいのです。

そうした現状を如実に表しているのが、公立病院の常勤の医師数でしょう。

公立病院の常勤の医師数 (1)
公立病院の常勤の医師数 (2)

全体としては、16.3%が常勤医師となっていますが、病床数に応じて、常勤医師数の割合はまったく異なります。

500床以上ある病院だと、年々右肩あがりで21.8%に達しています。一方、100床未満の病院での常勤医師数の割合は横ばいで、6.7%しかありません。3分の1以下です。

常勤の医師の割合が少ないということは、その他の医師を「バイト」で雇っているということですね。バイトの医師は常勤の医師よりも「その時だけしのげればいい」「自分のもともとの患者ではない」という意識が働くので、もともとの医師の資質に関わらず低下してしまいます。

さらにバイト医師は仲介業者を使って雇われることが多いため、仲介手数料も多く発生しがちです。

つまり、100床未満の病院では常勤で雇える人材が少ない分だけ、医療従事者の質も低下しがちであり、さらに仲介手数料などコストもかさみがちなのです。

医療機関の機能分化と相互連携を推進する医療提供体制の構築

では「中小規模の病院をつぶして大病院とクリニックだけにすればよいのではないか」というと、そうではありません。大病院には大病院の、中小規模病院には中小規模病院の役割があります。

例えば、先の心筋梗塞の例で考えましょう。心筋梗塞を最新の治療で何とか救命できたとします。しかし、心筋梗塞により心肺機能が大きく低下してしまいました。その時にずっと大病院にいると、次の心筋梗塞の患者さんの治療をするためのベッドがすぐに確保できなくなってしまいます。

そのため、「まだ入院は必要なんだけど、リハビリさえしっかりやってもらえれば大病院での治療と遜色ない状態」の時に受け入れてくれる中小規模病院が必要なのです。大病院が効率的に稼働するためにも中小規模病院はかかせません。

このような背景から厚生労働省では上図のような「医療機関の機能分化と相互連携」を構想しています。それぞれの病院の役割を明確にすることで、1つの大きな医療グループにするという目論見ですね。

しかし、それにはさまざまな課題があります。

例えば、地域ごとでの医師の偏在化。医師は自由に診療科目を選べます。「○○科が足らないから、あなたは○○科の医師になりなさい」なんて言えませんよね。さらに、東京に行きたい、地方で働きたいというのも自由です。医師も人間ですから、どこでどのように働くかは自由でしょう。

すると、どうしても○○県には△△科の医師が足りない…ということが出てくるんですね。医師がいないと様々な医療業務が行えません。だからこそ、一部医師だけでなく薬剤師やコメディカルに業務を委託しながら、効率的に運用を進めるようにしないといけなくなるでしょう。
また、高齢化に伴って、ますます「手がかかる人」が増えるのも事実です。高齢になるといろんな 病気が増えてきます。しかし、診療報酬は5つの病気をみても、1つだけの病気を見ても、基本報酬は変わりません。

したがって、かかる手間とコストが見合わず赤字が広がる事態も考えられるでしょう。

このように、やるべき課題は山積みです。どうか、医療費が増えているからといって、すべての病院が「金儲け主義」ではないことを、ご留意いただければと思います。

参照:総務省「公立病院経営強化」

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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