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- 裁判官は何を見て量刑を決めるのか。「情状弁護」のポイントと弁護士の役割

前回の記事では、再犯防止という視点から、刑事弁護人が果たしている役割や社会との連携について解説しました。今回はその続編として、被告人が罪を認めている場合に焦点を当て、「情状弁護」とは何か、そして実務の現場でどのような点が重視されているのかを具体的に掘り下げていきます。
裁判所は何を見て、弁護士は何を積み上げているのか。その実像を、実際の弁護経験を交えながら解説します。
<目次>
情状弁護で重要になるポイント

被告人が犯行事実を認めている場合、弁護人の役割はいかに適切な情状を裁判所(もしくは検察官)に示して量刑に反映してもらうかという点になります。これを一般に「情状弁護」といい、被告人に有利な事情や更生の可能性を、具体的に主張・立証していきます。情状弁護で重要となる主なポイントを挙げます。
- 被害者への謝罪と示談の成立
被害者がいる事件では、早期に謝罪し被害弁償をする示談が成立すれば、不起訴処分や執行猶予・減刑など寛大な処分を得られる可能性が高まります。被害者が加害者を許している(宥恕が得られている)かどうかという点も、処分においては非常に大きな事情となります。
- 事件に対する振り返り/再犯防止の措置
被告人自身が犯した罪を深く反省していることも重要な情状です。反省文の提出や、公判での反省の言葉、さらには二度と罪を犯さないための具体的な行動(たとえばアルコール依存が原因なら、精神科における依存症治療のために入通院する、断酒会に参加する等)を示すことで、裁判官に対して「社会内で立ち直らせよう」と感じてもらいます。
- 家族や支援者のサポート体制
被疑者・被告人を更生させ支える家族の存在や、地域の更生保護団体・職場からの受け入れ体制も情状として重視されます。裁判官は、被告人が社会に戻った後に孤立せず生活を立て直せる見込みがあるかを懸念しています。家族が生活の支援を申し出ているという状況や就労先が確保できているという状況であれば、再犯のおそれが低いと判断しやすくなります。
- 前科・前歴の状況
前科の有無は、まさにその人が「またやってしまうのではないか」という判断に対して強く影響します。前科がある場合でも、再犯していない期間が長期間である(10年以上である)/前科と再犯事件は全く別種類である/前科自体が比較的軽微なもの(過失犯など)であった、といった事情も考慮されます。
また前科に関連する問題(薬物依存等)が再発していないか、治療を受けているかといった点も判断材料になります。
- 起訴前の情状活動
検察官は起訴・不起訴を決める際に、犯行の悪質性だけでなく被疑者の反省や被害者との示談成立状況、今後の更生見込みなども考慮します。そのため、起訴前から弁護士が積極的に働きかけ、被害者との和解や被疑者の反省・更生環境整備(たとえば家族と連携し更生計画を立てる等)を行うことで、起訴猶予による不起訴や略式罰金など軽い処分にとどめてもらえる可能性も生まれます。
以上のような点を総合し、弁護人は被疑者・被告人に有利な事情(酌むべき情状)をできる限り集めて主張します。情状弁護によって裁判官が被告人の更生可能性を感じ取れば、量刑が軽減されたり執行猶予が付与されたりすることにつながります。
具体的な情状弁護の実践例

ここでは筆者の実際の弁護経験に基づき、具体的な情状弁護の取組み例を簡単に挙げます。なお、守秘義務の関係上、事件の核心にわたらない限りで事実を一部改変している場合があります。
・繰り返してしまった小児性愛
30代男性のAさんは、SNSを利用して10代の女子生徒と出会い性交渉をしたとして執行猶予付きの判決を受けました。この裁判の中で、私はAさんに性依存の治療を行うクリニックへの通院をすすめ、医師も継続的な治療を受け入れると約束してくれました。
しかしながら、裁判が終わってからほどなくして、Aさんは再び同様の事件を起こして逮捕されてしまいます。話を聞いたところ、「裁判が終わると治療に行かなくなってしまった。気が緩んでしまった、申し訳ない」と言うのです。わたしは「私に謝られても困る、事件の関係者をはじめ、あなたの家族や病院の先生やスタッフの人たちの気持ちを裏切ってしまったことを謝るべきじゃないか」と伝えました。
Aさんは執行猶予中に再犯をしてしまったので、刑務所で服役することがほぼ確定していました。それでも、私はAさんと一緒にAさんの家族、Aさんが通っていた病院とも再度連携を図り、「今度こそ再犯しないための継続治療」の体制を作り直しました。
その過程で、AさんとAさんの家族が何度も話し合ったことは言うまでもありません。また、Aさん自身の態度が変わらなければ、家族も再度の支援を引き受けようとは思わなかったでしょう。
Aさんの改心が伝わったからなのかは分かりませんが、裁判では大幅な減刑が認められています。
・治療の「合う・合わない」
若い女性が同居していた家族を刃物で刺してしまうという事案を担当しました。幸いにして、その家族の命に別状はありませんでしたが、殺人未遂事件(後に傷害事件へ変更された)として、ある程度重大な事案として扱われることになりました。
この女性の家族関係はやや複雑であり、ご本人にも精神疾患があったことから、ただ単に軽い処分を獲得するということでは意味がなく、「二度と同じような状況にならない」ための支援が必要不可欠でした。
そこで弁護士、家族のみならず、地域の福祉担当者とも協力し、さらにはかかりつけの医療機関とも協働を広げました。そうしたことで、病院から「これまでやってきたのとは違う治療、薬を試してみましょう」という提案を受けることができ、そのことを本人にもスムーズに受け入れてもらうことができました。
仮に弁護士から「今の治療が合っていないんじゃないですか?」といったところで、本人も家族もなかなか受け入れられないでしょう(むしろ、医療に関して弁護士は素人レベルです)。とくに精神的な疾患がある人や障害がある人の弁護においては、弁護士単独ではなくチームで動くことの重要性を実感した事件です。
この事件については、医療や福祉の支援があることが考慮され、刑務所などの施設収容を回避することができました。
情状弁護の本質とは

以上に述べたように、情状弁護は単に刑を軽くするための主張ではありません。被害者への謝罪や示談、本人の反省、再犯防止に向けた具体的な取り組み、家族や支援者の支えなどを積み重ね、「この人は社会の中で立ち直れる」という現実的な姿を裁判所に示す営みです。
弁護士は被告人だけと向き合うだけでなく、家族、医療、福祉、地域と連携しながら、更生の土台を整えていきます。情状弁護の本質は、過去の行為を正当化することではなく、二度と同じ過ちを繰り返させないための道筋を示すことにあります。その積み重ねこそが、被告人の未来と社会の安全を同時に守ることにつながるのです。
次回の記事では、こうした再犯防止施策の現状を踏まえつつ、社会復帰支援がなぜ十分に機能しきれていないのか、その制度上の課題と、今後求められる支援の在り方について、より具体的に掘り下げていきます。







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