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高速道路の落下物事故、正しく対処できますか?「安全措置義務」と被害者が知っておくべき権利を弁護士が解説

首都高で突如目の前に現れた2トンの金型。回避不能な落下物への衝突によって、愛車が全損し、被害者は今も深刻なPTSDとむち打ちの後遺症に苦しんでいます。エアバッグが展開するほどの衝撃を経験した被害者は、「なぜ落下直後から、後続車が事故に遭わないようになぜ対応していなかったのか」と憤っています。
落下物を生じさせた側はどんな法的義務を負うのか。被害者はどう対応すれば納得のいく賠償を得られるのか。本記事では交通事故案件を多く受任する弁護士に、落下物の交通事故に関して詳しくお聞きしました。
<目次>
落下物を生じさせたら、まず何をすべきか?

――今回の事故では、2トンの金型が首都高速道路上に放置されていました。まず、落下させた側は本来どのような対応をとるべきなのでしょうか。
落下させた側がとるべき対応の根拠となるのは、道路交通法第71条第4号の2です。「車両等に積載している物が道路に転落し、または飛散したときは、速やかにその転落・飛散した物を除去するなど、道路における危険を防止するため必要な措置を講ずること」と定められています。
落下物に対しては、このような措置が求められます。そこで、まず考えるのは「自ら除去できるか」です。今回のケースは2トンの金型であり、自力での除去はまず不可能でしょう。加えて、今回の事故現場は首都高速道路です。法律上は「自動車専用道路」であり、歩行は原則として禁止されています(道路法第48条の11第1項)。
そのため、自力での除去はできないと考えられます。2トンの金型であればなおさらです。そこで、専門業者や関係機関への通報が「必要な措置」にあたると考えられます。自動車専用道路であることを考えると、まず道路緊急ダイヤル「#9910」への連絡が最も適切でしょう。警察への通報も選択肢に入ります。
通報後も 「必要な措置」の一環として、落下物の場所の特定や回収方法の情報提供など、できる範囲での協力義務があると考えられます。Uターンできず現場に戻ること自体が危険な自動車専用道路では、「#9910」の指示に従いながら電話越しに協力することになるでしょう。
――通報するためだけに、車両を停止させることはできるのでしょうか。
自動車専用道路では原則として停車は禁止されています(道路交通法第75条の8)。ただ、「危険を防止するための一時停止」に該当する場合は、その場に停車することも可能とされています(道路交通法第75条の8)。
しかし、二次事故の危険があるため、急迫した事態で真にやむを得ない場合とかなり限定されています。ハンズフリー機能があれば走りながら通報が可能なので、すぐに通報するべきです。ハンズフリーでの通報ができない場合は、十分な幅員のある路肩に完全に車体を収めたうえで停車して通報することが現実的な対応と考えられます(同法第75条の8第1項第2号)。
携帯電話を持っていない場合などのケースでは、道路脇に設置されている非常電話を使って通報することも考えられます。
車体が本線にはみ出すような停車は、二次事故の危険を生みやすく、インターチェンジやパーキングエリアまで停止できない可能性もあります。積載物を落下させた場合は、速やかに必要な措置を講じる必要があります。ただし、そのためにはまず車両を安全な場所に停止させることが求められます。
「発炎筒を焚かなかったこと」は過失割合に影響する?

――被害者の方は「発炎筒を焚いてほしかった」と言っているそうです。法的にはどう考えますか?
お気持ちはよくわかります。発炎筒を焚けば、後続車に異常事態を早急に知らせることができますから。ただ、法的な義務という観点からみると、落下物そのものに対して発炎筒や三角表示板の設置義務はありません。
三角表示板の設置が義務づけられるのは、「故障その他の理由により自動車が停止している場合」(道路交通法第75条の11第1項)です。条文の対象はあくまでも「停止している自動車」であり、道路上の落下物には適用されません。発炎筒もその流れを前提としますので、落下物を知らせるために発炎筒を焚く義務はないということです。
道路法第48条の11第1項は「何人もみだりに自動車専用道路に立ち入り、または自動車によるもの以外の方法で通行してはならない」と定めています。
自動車専用道路を歩いて戻り、落下物の近くに発炎筒を設置する行為は法的な義務を前提としていませんので、原則としてこの「みだりに立ち入る」行為に該当すると解されています。
――落下物事故時の発炎筒の有無は「過失割合」には影響するのでしょうか。
さきほどお話ししたように、発炎筒や三角表示板の設置は義務ではありません。過失割合について多くの弁護士や裁判官が参考にしている東京地裁民事交通訴訟研究会による「別冊判例タイムズ38」を見ても、「落下物事故において発炎筒・三角表示板の設置の有無が過失割合に影響する」というような記載はありません。
なので、発炎筒や三角表示板を設置の有無が過失割合に影響することはないと考えられます。むしろ過失割合で落下物を生じさせた側が10〜20%不利になり得るのは、通報を怠った場合や積載方法がずさんだった場合です。被害者が積載物を落とした加害者の責任を問う場合は「いつどのように通報したのか」「どのように積載していたのか」を追及することが重要ですね。
道路交通法第75条の10では、自動車専用道路等を運転する前に荷物の積載状態を点検し、転落・飛散を防止する措置を講じる義務を規定しています。2トンもの金型が走行中に落下したという事実から、積載管理に不備があった可能性は否定できません。過失割合の交渉では、この点を積極的に主張すべきでしょう。
会社や「荷主」にも責任は及ぶのか

――2トンの金型となれば、個人の荷物ではなく会社や荷主物だったと考えられます。このようなケースでは、落下物事故の会社側の責任はどうなりますか?
ほぼ確実に会社は賠償責任を負うと考えてよいでしょう。自動車損害賠償保障法(自賠法)第3条の「運行供用者責任」や民法第715条の「使用者責任」が根拠となります。また、車両使用停止処分などの行政処分や刑事罰が科される可能性もあります。
――さらに「荷主」にも責任が及ぶ可能性はありますか?
状況次第ではあり得ます。道路交通法第58条の5は、使用者等以外の者(荷主を含む)が過積載となることを知りながら運転者に積載物を引き渡すことを禁じています。
たとえば、危険を顧みず荷主が「もっと多く積め」「今日中に急いで届けろ」などと圧力をかけていた場合、共同不法行為として連帯して賠償責任を問える可能性があります。
会社の責任を追及するより立証が難しいですが、会社の賠償能力に問題がある場合などは落下させた責任を追求したい場合、荷主への責任追及もあり得ます。また、荷主勧告制度による社名公表のリスクなどもあります。
被害者になったら——納得のいく賠償のために

――もしも落下物にぶつかってしまい、自分が被害者になった場合、どう行動すべきでしょうか?
最近は多くの方々が自身の自動車にドライブレコーダーを搭載しています。ドライブレコーダーの映像は、自分の走行速度や前方注視の状況、落下物の位置など、過失割合を左右する重要な証拠となります。一定期間置くと消去されたり、データが上書き保存されてしまうケースも多いため、事故後なるべく早く保存してください。
また、実況見分調書などの刑事記録も重要な証拠です。実況見分調書は警察が捜査のために作る記録ですが、民事裁判でも証拠として使われます。その前提として、警察の取り調べでは、自身の記憶と違うことは認めないようにすることが大切です。
少しでも体に不調を感じたらすぐに医療機関を受診してください。痛みなどの症状があるのに我慢してしまい、通院が遅れる方もいますが、通院開始まで時間が経つほど賠償の請求先となる保険会社から「本当に事故が原因か?」と因果関係を疑われやすくなります。
また、保険会社が提示する示談金は「保険会社基準」と呼ばれ、弁護士が介入したり訴訟時の基準となる裁判基準(弁護士基準)よりも金額が低いことが一般的です。弁護士が介入することで「このまま争えば裁判になる」と判断し、交渉が有利に進むことがあります。
交通事故の無料相談に応じている法律事務所も多くありますので、事故の賠償に関しては弁護士に相談してみることがおすすめです。
――今回の被害者はむち打ちとPTSDを訴えていますが、保険会社からの治療費が6カ月で打ち切られたとのことでした。
むち打ちとPTSDは分けて考える必要があります。たとえば、骨折であればレントゲンで一目瞭然ですが、むち打ちによる筋肉・腱の微細な損傷はMRIでも捉えられないことが多いです。
そのため、ケガの裏付けが難しく、短期間で保険会社が治療費を打ち切ってくることは珍しいことではありません。むち打ちで比較的長期の治療費が認められやすいのは、以下の状況証拠がある場合です。
①衝突が激しかった(事故の規模が大きい)
②スパーリングテストなど神経学的検査で異常所見がある
③MRIでヘルニアが認められ、しびれの範囲と神経支配領域が一致している
むち打ちとPTSDには共通する点もあります。それは「画像検査で証明しにくい」という点です。PTSDについての裁判例では、米国精神医学会の診断基準であるDSM-5(旧DSM-4)や、WHOのICD-10が参考にされています。
大まかに言うと、次の4つの要素が精神科医の臨床的判断で認められ、さらに日常生活や社会生活に支障が生じていることが必要とされています。
①死や重傷を伴う、または、伴いかねないような外傷的体験
②フラッシュバックなどの再体験、
③事故に関連する場所・話題の回避、
④過覚醒(常に緊張した状態)
交通事故の損害賠償を争う裁判では、裁判官がPTSDを認めないこともあります。その理由として多いのは、事故の内容が「死や重傷を伴う、または、伴いかねないような体験」にあたらないというものです。
また、事故直後からして症状が続いていることも重要であり、途中で症状が消えていたように見える場合には、交通事故との因果関係を裁判官が認めないこともあります。
精神科・心療内科への受診をためらう方も少なくありません。しかし、症状があるなら早めに受診し、継続して治療を続けることが証拠保全の観点からも重要です。「運転が怖い」「事故のことが頭から離れない」と単に訴えるだけでは認定が難しく、専門医の診断と記録が不可欠となります。
交通事故の解決は被害者一人で解決しようとすると、専門知識も必要となり納得がいく賠償につながりにくい傾向があります。早い段階で弁護士に相談することも、ひとつの有効な方法といえるでしょう。
深田 茂人(大分弁護士会所属)

深田法律事務所。大分県大分市生まれ。岩田中学校、同高校を経て、神戸大学経済学部を卒業。2005年(平成17年)に弁護士登録。大分市内の法律事務所勤務を経て、2007年に独立し「深田法律事務所」(大分市城崎町)を開設。交通事故など身近な法律問題の解決に尽力。


















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