初犯で手を染めれば即実刑となるケースも…元検事が語る闇バイトの冷徹な現実

パソコンを持つ男性

近年、SNSを通じて募集される「闇バイト」をきっかけに、若者が特殊詐欺に加担し、逮捕される事件が後を絶ちません。2024年には千葉県柏市で中学3年の男子生徒(15)が詐欺未遂の疑いで逮捕されており、若年層の特殊詐欺への加担も強く懸念されています。

一度足を踏み入れると、住所や本名が匿名・流動型犯罪グループ(以下、トクリュウ)に把握され、抜け出すのが難しいと言われている「闇バイト」。その先には、いったい何が待ち受けているのでしょうか。

本記事では元検事として数々の重大事件を手掛けてきた亀井正貴弁護士に、捜査の最前線の実態と若者への警鐘について話をお聞きしました。

<目次>

闇バイトで逮捕されると「初犯だから執行猶予」は通用しない

スマホとパソコンを操作する男性の手

――軽い気持ちで闇バイトに応募し、特殊詐欺や強盗に加担する若者が増えています。彼らが逮捕された場合、どのような法的責任を問われるのでしょうか。

まず、今の特殊詐欺において 「初犯だから執行猶予が付く」という甘い考えは通用しません。「一発実刑」という表現だとわかりやすいと思いますが、この種の犯罪は非常に悪質性が高く、社会的な影響も大きいため、いきなり実刑判決が下るケースが少なくないのです。

今から20年ほど前であれば、詐欺グループの末端(受け子・出し子)であれば執行猶予が付くことは珍しくありませんでした。しかし、現在は初犯であっても、懲役1年半から2年といった実刑が科されることは十分にあり得ます。さらに、強盗致傷などに発展すれば、その刑期は6年を超えるなど、重い実刑判決に至るケースも少なくありません。

また、刑期を終えた後も「デジタルタトゥー」として顔写真や氏名、前科の内容がインターネット上に晒され続ける時代です。その結果、再就職は極めて困難になり、出所後の人生に深刻な影響を及ぼします。

――犯罪の関わり方も昔とは変わってきているのでしょうか。

大きく変わってきています。かつては地元の不良仲間や、飲み屋街に潜む反社のネットワークから犯罪に手を染めることが一般的でした。しかし今は、SNSを通じて全く接点のなかった人間が集まり、犯罪集団を形成するようになりました。1人を逮捕しても、1つの犯罪集団を一網打尽にすることがとても難しい。

さらに、貧困は一因になり得ますが、それだけが特殊詐欺に加担する理由とは限りません。ある事例では「裕福な家庭の子息」が実行犯になるケースも報告されています。些細なことをきっかけに闇バイトに手を染めるケースも少なくないといえるでしょう。昔より犯罪が身近な存在になっている現状が浮かび上がります。

特殊詐欺の海外拠点化が捜査の行く手を阻む

ドミノを妨げる手

――カンボジアやフィリピンなど、海外を拠点とするグループの摘発も続いています。海外に潜伏するトクリュウの捜査は、やはり難航しているのでしょうか。

海外拠点の捜査は、基本的に外交ルートを通じた協力体制に左右されます。日本が経済支援を行っているといった、政治的に親和性の高い国であれば捜査の協力が得られやすいですが、トクリュウ側は次々と拠点を移している可能性も否定できません。

捜査の手が及びにくい地域へ拠点が移れば、その間にも詐欺被害は拡大していきます。逮捕と移転が繰り返されることで、捜査は「いたちごっこ」の様相を呈し、摘発は一層難しくなっているのが実情です。

一方で、捜査手法自体は進化しています。昔の捜査は、被疑者の「供述」を積み上げて詐欺グループの上位者にたどり着く手法がメインでした。今は「物証」、つまりSNSやLINE、メールの通信ログが立証の柱です。

たとえテレグラムのような「消えるメッセージ」を使っていても、解析技術や周辺の物証から追い詰めることはできます。警察や検察側にとっては、ストーリー性のある供述調書よりも、客観的な通信記録の方がより強力な証拠となっており、捜査の突破口になるケースが増えています。

――闇バイトに加担してしまうと、 脅されてしまい詐欺行為から抜け出せなくなるとも言われています。こうした若者の「安全な離脱方法」はあるでしょうか。

闇バイトから抜け出すために必要なことは「早期に家族と警察に相談すること」に尽きます。 犯罪グループの目的はあくまで経済的利益、つまり「お金」です。

犯罪組織が、警察が介入した事件に対してコストとリスクをかけてまで復讐(暴行や殺害)するメリットはありません。これは、半グレによる脅迫だけではなく反社会勢力が相手でも同じことが言えます。

犯罪に加担する前の段階で相談や申告を行えば、刑事責任が問われない、あるいは大幅に軽減される可能性があります。もし一度実行してしまったとしても、早い段階で警察へ相談し、組織の情報を提示すれば執行猶予の可能性や、警察による保護措置を受けられる道が開かれます。

一人で抱え込まず、出頭に恐怖心を抱える場合は弁護士を介して警察とつながることが唯一の離脱ルートです。

闇バイトへの加担を減らすには「厳罰化」と「広告規制」が必要

立ち入り禁止

――闇バイト問題を根本的に解決するために、何が必要だと思われますか。

「厳罰化」と「啓蒙(けいもう)」のセットは不可欠ではないでしょうか。まず、法的な厳罰化は避けられません。それが犯罪の根絶に直結するかどうかは別として、国家として毅然とした姿勢を示す必要があります。

「自分たちはまだ若いし、初犯だから執行猶予がつくだろう」という甘い認識では通用しません。検察や裁判所も、この種の犯罪には極めて厳しい態度で臨んでおり、加担すれば即座に刑務所行きとなる「一発実刑」が今のスタンダードです。この冷徹な現実を、実例をもって高校や大学などで徹底的に教育していく必要があります。

実際に各都道府県警察では、独自に啓蒙活動を実施しているようです。出前講座や街角でのPRなどは、今後も警察が主体となって続けていく必要があるでしょう。「闇バイトは割に合わない、一度の過ちで人生が詰む」という認識を、社会全体で徹底させることです。

もう一つは、インフラ側での規制が重要となると考えています。SNSやインターネット上に出回る「闇バイト募集」をうたう広告や投稿は増加し続けており、若年層が裏社会と接点を持つ大きな入口になっています。

こうした広告については表現の自由との兼ね合いはあるものの、ネットメディアや広告の在り方を警察や有識者によって積極的に議論すべきです。

特に最近では、生成AIを用いた音声の偽造や、精巧なフィッシングメールの自動作成など、手口の巧妙化が凄まじいスピードで進化しています。もはや人間によるパトロールだけでは太刀打ちできない領域に達しつつあると言えるでしょう。

だからこそ、プラットフォーム側もAIによる検知システムを導入して不適切な投稿を自動排除するなど、より踏み込んだ技術的な防衛策を講じるべきです。官民が連携し、技術には技術で対抗する。若者の心理的な隙に付け込む「犯罪の入り口」を物理的、かつ迅速に封鎖していく強硬な姿勢が必要だと考えています。

亀井正貴 弁護士

亀井・和氣法律事務所  大阪弁護士会所属。元検事。企業法務(コンプライアンス、紛争解決)を中心に、プレサンス事件の弁護人を務めるなど刑事事件でも高い実績を持つ。テレビ等での鋭い解説でも知られる。

岩田いく実ライター・インタビュアー

投稿者プロフィール

法テラス、法律事務所勤務後、法人事業としてライター業を展開。年間60人を超える弁護士・税理士を取材。2冊出版中:第一法規「弁護士のメンタルヘルスケアの心得」、自主出版「ルポ豊田商事」

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