- Home
- コラム・インタビュー, 社会・政治
- 巧妙化する特殊詐欺!その手口や、泣き寝入りしないための対策を刑事・民事の専門家が徹底解説
巧妙化する特殊詐欺!その手口や、泣き寝入りしないための対策を刑事・民事の専門家が徹底解説

巧妙化の一途を辿る「特殊詐欺」は、日本社会に深刻な被害をもたらし続けています。警察庁の統計によると、2025年4月末の特殊詐欺の認知・検挙状況は8,641件に上り、前年同時期よりも3,019件も増加しています。
2024年度の特殊詐欺の被害額は認知件数だけで約719億円に上っていますが、特殊詐欺は被害回復が難しいとされており、多くの被害者が泣き寝入りを余儀なくされているのが現状です。
しかし、ここへきて変化の兆しが見えています。フィリピンを拠点に詐欺行為を繰り返していたと思われる「JPドラゴン」のリーダーが、本年6月初旬に現地で拘束されました。仮想身分捜査による摘発も今月初めて行われ、特殊詐欺事件の容疑者を1名摘発しました。刑事面での取り組みが強化される一方、民事分野でも弁護士による被害回復の新しい手法が注目を集めています。
本記事では、特殊詐欺の現状と今後の対策について、刑事・民事両面の専門家に取材を行いました。ご協力いただいたのは、一般社団法人 刑事事象解析研究所の森 雅人所長と、東京都のあおい法律事務所で、詐欺事件全般の被害者支援に取り組む荒井 哲朗弁護士です。
<目次>
特殊詐欺撲滅へ。JPドラゴン摘発と警視庁の新組織が示す「本気度」

特殊詐欺対策において、現在大きな転換点を迎えています。まずは刑事面での取り組みについて、警察の元警部補である森 雅人氏にお話を伺いました。
――この6月にJPドラゴンのリーダーがフィリピンで摘発されました。大きな話題となっていますが、この事件の意義をどのように捉えていますか。
JPドラゴンのリーダーの摘発は、警察庁が取り組んでいる特殊詐欺対策において画期的な出来事だと言えるでしょう。
これまで特殊詐欺グループは、末端の実行犯のみが検挙され、組織の中核部分にはなかなか手が届かないという課題がありました。しかし今回の事件では、組織のトップの摘発が実現しました。特に注目すべきは、国際的な連携が進んでいる点です。
これまでフィリピンやカンボジアなど、海外を拠点に特殊詐欺をはたらいていた詐欺集団は、なかなか摘発できませんでした。犯罪人引き渡し条約が両国間で締結されておらず、連携関係の構築が進んでいなかったためです。
特殊詐欺の首謀者たちは、こうした法の穴を突き、海外を拠点とすることで日本の捜査の手から逃れることが多かったのですが、今回は国内外の関係機関の連携が進み、徹底的な追跡を重ねていたことが功を奏しました。
この成功事例は、今後の特殊詐欺対策における新たなモデルケースとなるでしょう。海外なら捕まらない、という詐欺集団の常識が覆ったわけです。
――特殊詐欺については、各都道府県の警察による検挙も連日報道されています。国内の捜査については現在どのような動きがみられるのでしょうか。
特殊詐欺の被害は全国各地で発生するという広域性から、従来の都道府県警ごとの捜査では限界がありました。この課題に対応するため、警察庁は組織的な対策を強化しています。
2024年4月から「特殊詐欺連合捜査班(TAIT)」を 警視庁を中心に各都道府県警察をカバーするように構築し、全国の警察が連携した特殊詐欺捜査を開始しています。こうした試みは「日本版FBI」とも呼ばれており、特殊詐欺の摘発に効果を発揮しています。
――今後、特殊詐欺が一掃される可能性はあるでしょうか。
現在の取り組みを見る限り、特殊詐欺の大幅な減少は十分期待できると考えています。JPドラゴンの摘発により、これまで「捕まらない」と高をくくっていた詐欺グループへ大きな衝撃を与えることができました。また、警察全体が力を合わせた専門組織の設立により、組織的かつ継続的な対策が可能になったことも大きな前進です。
ただし、詐欺事件という性質上、手法を覚えた残党は新たな詐欺を引き起こす可能性は極めて高く、特殊詐欺の完全な一掃には時間がかかるでしょう。
「これは怪しいバイトだろう」とわかっていても、気軽に参加してしまう人も少なくありません。詐欺集団には暴力団も半グレも入り交ざっているため、1つの組織を壊滅させれば終わる犯罪ではないのです。
特殊詐欺グループは極めて適応力が高く、新たな手口や技術を次々と開発しています。重要なのは、警察による捜査側も常に組織改革と技術革新を続け、先手を打って対策を講じることです。
逮捕・起訴だけでは限界がある被害回復。弁護士による民事面からのアプローチ

刑事面での取り組みが強化される一方で、すでに被害を受けた方々の救済については、被害金の回収が難しく、泣き寝入りするケースは決して少なくありません。そこで、弁護士による民事的なアプローチが重要な役割を果たしています。
巨大詐欺事件を引き起こした豊田商事事件をきっかけに設立された「先物取引被害全国研究会」で現在の代表幹事を務め、詐欺事件全般に取り組む荒井 哲朗弁護士に、被害者の特徴や被害回復に必要な手法をお話を伺いました。
――日頃から多くの詐欺事件の被害者に接しておられます。現在の特殊詐欺における被害者に年齢層などの特徴はあるでしょうか。
はっきり言って、特徴はありませんね。若年層から高齢者層まで多くの被害者がいます。性別も問いません。報道だけ見ていると、特殊詐欺は高齢者がターゲットになっていると思われがちですが、決してそうではありません。また、投資詐欺のような事例では高所得者や経営者層、士業だって被害に遭っています。
「自分は大丈夫」なんて決して思ってはいけません。誰でもいつでも被害者になると、思っていてください。
――特殊詐欺にはいろんな手法があるとされます。現在寄せられる特殊詐欺の相談内容はどのようなものが多いですか。
投資詐欺が多いですね。特殊詐欺にはいろんな手法があるものの、最終的には投資詐欺へ誘導されるものが多くなっています。
昨今、詐欺の温床となっているツールは「LINE」です。全国で多くの方々が利用されているツールですから、詐欺にも使われています。LINEに誘導される投資などの勧誘は、間違いなく詐欺だと思ってもらってよいでしょう。
自身の大切なお金や個人情報を、匿名でやり取りできてしまうツールに委ねないことが、何よりも重要です。
――被害回復において、弁護士はどのような役割を果たしているのでしょうか。
詐欺が刑事事件として摘発されてたとしても、被害者へお金が戻ってくることにはつながりません。刑事手続は犯罪の処罰が目的であり、被害回復は我々弁護士が奮闘する分野です。
弁護士は、民事分野の手法を使って積極的な被害回復に取り組んでいます。最も効果的なのは、詐欺グループが使用している口座の差押えです。
被害が発覚した段階で迅速に仮差押えの申立てを行い、詐欺グループの資金を凍結することで被害金の回収率を高めています。当事務所の場合は、依頼を受けると最短翌日には訴訟提起をしています。とにかく時間との勝負です。この方法は運が大きく左右しますが、1人につき1億円を超える被害の全ての被害金回収にも成功したこともあります。
――口座差押えはどのように行っているのでしょうか。
詐欺グループは通常、振り込まれた資金を速やかに他の口座に移すか、現金化してしまいます。しかし、迅速な対応と関連する口座群の調査により口座凍結ができれば、高い確率で資金を確保できます。
詐欺事件では、振り込んでしまった口座のみ凍結しても回収は難しい状況です。そこで、当事務所の場合は詐欺事件に使われている多数の口座を特定し、凍結口座の数を増やそうとしています。
ある1つの事件では、犯罪に紐づけされている口座が「8900」にも上っていることがわかりました。おそらく、この数字以上の口座がまだまだありますね。資金を何度も迂回させて引き出していると考えられます。
詐欺グループはあらゆる方法を使って口座を入手しているとわかったため、弁護士ができるだけ広く調べて、凍結して使わせないようにすることが重要です。
――弁護士による取り組みは、特殊詐欺グループにどのような影響を与えていると考えますか。
民事的な被害回復の取り組みが活発化することで、詐欺グループの「資金」や「犯罪ツール」を大幅に削ることが可能です。多数の口座を入手し、詐欺行為を続けるためには、犯罪に加担する人材も資金も必要です。警察が逮捕しても、手法を覚えている残党がまた繰り返し犯罪に手を染めますが、儲からなければ止めますからね。
民事の手法により被害金を回収されたり犯罪ツールが奪われたりするリスクが高まれば、詐欺行為そのものの収益性が低下します。いたちごっこに見えるかもしれませんが、全国の弁護士が多数の口座を凍結させ続ければ、特殊詐欺は下火になると考えています。
詐欺グループの運営コストが上昇し、組織運営が困難になるまで我々が追い込めばいいのです。さら迅速な口座凍結が広く行われるようになれば、詐欺グループ内部でも「この仕事は割に合わない」という認識が広がっていきます。
刑事罰のリスクに加えて、民事的な資金回収のリスクも高まれば、詐欺に手を染める人材の確保も困難になるでしょう。
――洗練された手法で高額の被害金の回収に成功していますが、全国規模で見るとまだわずかな事例です。今後はどのような対策が必要でしょうか。
これまで、詐欺事件が拡大するとその手法に着目した法の改正や整備で拡大を防いできました。しかし、そのような方法は抜本的な対策とはならないでしょう。
被害者を1人でも増やさないためには、まずは全国の弁護士がきちんとした手続を採り続けることが大切です。とにかく「詐欺は儲からない」と認識させるためにも、被害者のために全国で多くの弁護士が正しく戦う必要があります。
また、詐欺グループ側の口座の入手状況を見ると明らかに「おかしい」ものが相当数あります。実在しないであろう人名で開設されていることが多い。
金融機関には水際の防波堤となっていただきたい。今まで以上に口座開設の審査と利用状況の監視を強化していただきたいですね。
泣き寝入りしないために、被害者が知っておくべき対策

――最後に、被害に遭ってしまった場合、被害者はどのような行動を取るべきか教えてください。
森所長:まず重要なのは、被害に気づいた瞬間から「時間との勝負」だということです。恥ずかしがったり、自分を責めたりしている時間はありません。直ちに110番通報や警察署を訪ねてください。
この時、警察は被害状況を確認します。「六可の法則(5W1H)」に基づき「いつ・どこで・誰が・何を ・なぜ・どのように」詐欺の被害に遭ったのか整理して伝えると、迅速な捜査につながります。
それと同時に、振り込んだ金融機関にも連絡して口座凍結を依頼してください。警察への届出と同時に、弁護士への相談も検討していただきたいと思います。告訴状の提出があれば、より捜査は進めやすくなります。
荒井弁護士:被害者の方にお伝えしたいのは、「泣き寝入りする必要はない」ということです。確かに完全な被害回復は困難なケースが多いですが、適切な対応により相当程度の回復は十分可能です。
全国には詐欺事件に立ち向かい続けている弁護士が多数います。警察は詐欺グループの逮捕に貢献し、私たち弁護士は被害の回復に尽力しています。大切なご自身のお金を取り戻すためにも、諦めず弁護士にも相談してください。ネットで広告しているような弁護士ではなく、直接会いに行けるお近くの弁護士へ相談することが一番です。









-150x112.png)








-300x169.jpg)