【医師の論文解説】「加熱式タバコへの切り替え」による健康改善効果とは?

【医師の論文解説】 加熱式タバコへの 切り替え 健康改善効果とは?

最近、従来の紙のタバコに変わって吸われている「電子タバコ」。

タバコをやめたいけれど、なかなか踏み切れない…。そんなときに、「せめて害の少ないといわれる加熱式タバコなら大丈夫かな?」と考えてしまい、切り替える人が多いようです。

実際、一般常識としても「紙巻きタバコよりはマシ」というイメージを持っている人は多いのかもしれません。しかし、その「切り替え」は、本当に正しいのでしょうか。

今回、加熱式タバコは本当に健康によいのか、最新の論文から白黒はっきりさせましょう。

【結論】加熱式タバコへの切り替えは、禁煙に全く及ばない

本研究は、
紙巻きタバコから加熱式タバコ(HTP:Heated tobacco products)に切り替えても、呼吸器感染症に対する体の抵抗力は多少改善されたが、完全に禁煙した場合の効果には遠く及ばないことを、動物実験によって明らかにしました。

つまり、「少しマシ」な選択肢に見えても、感染症へのリスクという点では、紙巻きタバコを吸い続けるのと大きな差はなかったのです。

加熱式タバコへの切り替えによる恩恵を科学する

近年、世界中で利用者が増えている加熱式タバコ(HTP)は、タバコ会社によって「紙巻きタバコよりも害を低減する可能性がある製品」として宣伝されています。 しかし、その宣伝の多くは業界が支援した研究によるものであり、呼吸器感染症のような具体的な病気のリスクが本当に減るのか、独立した立場からの科学的な検証が求められていました。

そこでこの研究チームは、以下の2点を明らかにすることを目的としました。

  1. 紙巻きタバコを長期間吸っていた喫煙者が、加熱式タバコに切り替えることで、細菌による呼吸器感染症への抵抗力は改善するのか? 
  2. その効果は、完全にタバコをやめる「禁煙」と比べてどう違うのか?

研究では、マウスを3つのグループに分けて実験が行われました。 

  • 紙巻きタバコ継続グループ: 16週間、紙巻きタバコの煙にさらされ続ける
  • 禁煙グループ: 8週間は紙巻きタバコの煙に、その後8週間はきれいな空気に切り替える。 
  • 加熱式タバコ切り替えグループ: 8週間は紙巻きタバコの煙に、その後8週間は加熱式タバコ(HTPここではIQOS)の蒸気に切り替える。 

そして、16週間後、すべてのマウスに細菌を感染させ、肺がどのくらいダメージを受けるか、細菌を排除する能力に違いがあるかなどを比較しました。

圧倒的に「禁煙」すべき

結果は、非常に明確なものでした。加熱式タバコでは多少改善があった(?)くらいで、圧倒的に禁煙したグループの方が改善していたのです。

①細菌を排除する能力

加熱式タバコに切り替えたグループは、紙巻きタバコを続けたグループよりも、感染から12時間後の細菌除去能力がわずかに改善しました。 

しかし、禁煙したグループは、他の2つのグループを圧倒し、はるかに速く、多くの細菌を排除できました。 

②肺の炎症とダメージ

肺の炎症細胞(T細胞)の数や、肺の血管からの体液漏れ(アルブミン漏出)といった指標では、切り替えグループは継続グループより多少の改善が見られました。 

一方で、肺組織のダメージを示す他の重要なマーカー(MPOやNEという酵素)では、切り替えグループと継続グループにほとんど差は見られませんでした。 
*MPO:ミエロペルオキシダーゼ:好中球という白血球の一種に含まれる酵素
*NE:好中球エラスターゼ:好中球から放出される酵素で、炎症反応に関与し、肺組織のダメージの直接的なマーカーとなる

そして、ここでも禁煙グループは、すべての炎症やダメージの指標において、劇的な改善を示しました。

簡単にまとめると、「加熱式タバコへの切り替え」による健康改善効果はごく限定的で、「完全な禁煙」がもたらすメリットとは比べ物にならない、ということが示されたわけです。

*この研究の注意点
本研究には注意点がいくつかあります。

まずは、本研究はマウスを用いた動物実験であるこということ。もしかすると、人間だと加熱式タバコの有用な点がみつかるかもしれません。もうひとつは今回は特定の加熱式タバコ(IQUS)なので、別のブランドでの有用性がみつかるかもしれません。

しかし、少なくとも「加熱式タバコは体にいい」とは言えなさそうです。

加熱式タバコで言い訳しない

加熱式タバコに切り替えることで、いくつかの指標で「紙巻きタバコよりはマシ」という結果が得られはしたものの、非常に限定的です。 

そして何より「完全な禁煙」が、体の防御機能を回復させる上で最も効果的かつ確実な方法であることが、改めて科学的に示されています。

もしあなたが今、ご自身の健康を真剣に考えているのなら、安易な「切り替え」という選択肢に頼るのではなく、あらゆるタバコ製品から離れる「禁煙」にまずはチャレンジしてください。

多くの医療機関で禁煙しやすくする「禁煙外来」を行っています。一度、医療機関にも相談するとよいでしょう。

参考文献:Tariq A Bhat,Suresh G Kalathil,Noel J Leigh,et al.Can switching from cigarettes to heated tobacco products reduce consequences of pulmonary infection?.Respir Res.2024 Oct 19;25(1):381

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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