日本の経済はどう動く?石破政権と地方創生2.0のゆくえ

日本の経済はどう動く?石破政権と地方創生2.0のゆくえ

「行政が面白くなる!まちと未来を考えるシリーズ」Vo.1

いま、日本の暮らしは大きな転換点を迎えています。少子高齢化で人口は減り続け、働く世代も少なくなるなか、地方の町や村では「学校がなくなる」「病院が遠くなる」「買い物ができない」といった不安が広がっています。一方で、自然や食文化、地域の人のつながりといった地方ならではの魅力は、これからの社会を支える大きな可能性でもあります。

本記事は、「行政が面白くなる!まちと未来を考えるシリーズ」の第一弾として、そうした課題と希望が交差する地方の現場を見つめながら、「地方創生」の現在地と未来像を読み解いていくものです。

「地方創生」とは、このような課題と可能性を同時に抱える地域をどう元気にし、安心して暮らせる未来をどうつくるかという国の大きな挑戦です。それは単なる地方の話ではなく、子どもからお年寄りまで、すべての世代の暮らしに直結するテーマなのです。

「東京一極是正」が叫ばれて久しい現在、石破政権下において「地方創生」が政策の一丁目一番地に掲げられ、いま一番ホットなワードとなっています。なぜ、いま「地方創生」がここまで熱く求められているのか? 政府・地方はどのように動いているのか? そしてそこにどんなビジネスチャンスがあるのか、実際の地方の事例も交えて読み解いてみましょう。

<目次>

揺れ動く地域経済の30年

平成以降、日本の地域経済は大きな変化にさらされてきました。1990年代のバブル崩壊後、都市部との格差は拡大し、東京一極集中は加速。地方の人口減少や産業空洞化は深刻化しました。

こうした中で行われたのが「平成の大合併」です。1999年から2010年にかけて市町村数は3,200以上から1,700程度にまで減少し、行政の効率化や財政健全化が期待されました。しかし合併によって中心市街地と周辺部との格差が生まれ、地域アイデンティティの喪失感も生じたのです。

さらに、2007年に夕張市が財政破綻を起こしたことは、全国の自治体に衝撃を与えました。人口減少や過大な投資が地方財政を追い詰める現実を突きつけた出来事であり、「地方は自立できるのか」という問いが強く意識されるようになりました。その後も地域経済は縮小傾向を続け、現在に至るまで持続可能性が問われ続けています。

ここで重要なのは「効率化」と「誇りの喪失」が同時に進んだ点です。単なる行政統合では地域の自立は担保されません。この構造的問題が、以後の「地方創生」の議論を決定づけたのです。

こうした状況を背景に、安倍政権下で「地方創生」が国家戦略として掲げられました。2014年には「まち・ひと・しごと創生本部」が設置され、全国の自治体に人口ビジョンや地方版総合戦略の策定が求められました。

移住・定住の促進、若者の地方就業支援、大学や高等教育機関の地域定着、インバウンド観光拡大など、多角的な施策が実施。一定の成果は見られ、地方移住者数は増加傾向を示し、ふるさと納税制度が地域財源を補う仕組みとして広がりました。

一方で、根本的な人口減少の流れを変えることはできず、事業の多くが国の補助金に依存する形で終わった事例も少なくありません。地域活性化の担い手となる人材や組織力の不足も明らかになり、「地方創生は一過性のキャンペーンではないのか」という批判も聞かれるようになりました。

〈補足解説〉
「地方創生」という言葉は一世を風靡しましたが、実態は補助金頼みであり、構造改革には至らず。ここに“持続可能性の罠”が潜んでいるのです。

石破政権の地方創生2.0

2025年に誕生した石破政権は、こうした課題を踏まえて「地方創生2.0」を打ち出しています。従来の「人口対策中心」から一歩進め、地域を国家戦略の一翼として位置づけるのが特徴で、「地方=国土の守り」という新たな視点を打ち出した点は特筆に値します。

石破首相は防衛・安全保障分野の経験を持ち、「地方は安全保障の基盤である」と強調。食料自給や再生可能エネルギー、防災インフラなど、国の生存戦略に直結する領域で地方の役割を強める方針です。地方創生が単なる“人口対策”から“国家戦略”へと格上げされた意義は大きく、今後の政策展開の鍵を握るといえるでしょう。

具体策としては、デジタル田園都市構想の進化版ともいえる「分散型国土モデル」の推進、中小企業や地場産業の高付加価値化、地域資源を活用した観光・農業・スポーツなどの振興が掲げられています。

また、公共サービスやインフラを維持するためにPPP(官民パートナーシップ)やPFI(民間資金活用事業)の導入を積極的に進める方針を打ち出しており、企業が地域に参入する余地を広げているのも特徴です。

各自治体も、この流れを受けて独自の戦略を模索しています。たとえば福井県は人口戦略に力を入れ、子育て支援と雇用創出を一体的に進めています。徳島県は全国に先駆けてデジタル化を推進し、サテライトオフィスの誘致やオンライン行政を展開。北海道では観光と一次産業を掛け合わせた新しい産業モデルの構築を目指しています。

しかし、多くの自治体は予算・人材・ノウハウの制約に直面しています。依然として国の交付金や補助金への依存度は高く、独自の財源で持続的な取り組みを進めることは難しいのが現場です。

高齢化が進む地域では担い手不足が深刻で、計画はあっても実行できないケースが目立ちます。自治体が「受け身」から「主体的なプレイヤー」へと転換できるかどうかが、今後の地方創生の成否を大きく左右するでしょう。

〈補足解説〉
現代は、自治体の「主体性」が問われる時代。国の補助金依存から抜け出し、民間との協働を本気で設計できるかどうかが鍵となります。

官民連携と企業の関わり方

こうした状況において、企業が果たす役割はますます重要になっています。官民連携と聞くと、大手ゼネコンやインフラ企業が参入する大規模事業を思い浮かべがち。しかし実際には、中小企業でも十分に関われる余地は広いのです。むしろ地域の実情を理解し、柔軟な発想で動ける中小企業こそが、自治体のパートナーとして価値を発揮できる場面は多くあります。

たとえば観光分野では、地域の宿泊施設や交通事業者、IT企業が連携して「着地型観光」の仕組みをつくるケースが増えています。小規模な旅行会社や地域密着型のバス会社が自治体と組み、地元の食・文化体験を組み込んだプログラムを提供することで、新しい観光需要を掘り起こしているのです。

これらは大企業でなくとも十分に担える分野です。文化イベントやスポーツ振興でも、中小企業の出番はたくさんあります。地域の印刷会社が広報物を担ったり、イベント会社が地元祭りやマラソン大会の運営を支えたりすることは珍しくありません。

最近では地元のITベンチャーがオンライン配信やチケット販売システムを手掛け、文化イベントの収益改善につなげる事例も見られます。また、地域のスポーツクラブと中小企業がスポンサーシップを組み、社員のボランティア参加を通じて地域との結びつきを強める動きも広がっています。

昨今注目される特徴的な動きを2つご紹介します。

ひとつは、地域課題の解決とスタートアップ支援を組み合わせた取り組みが広がりつつあることです。たとえば、「Urban Innovation JAPAN」や「UPGRADE with TOKYO」などがその代表例です。

これらの取り組みでは、自治体が具体的な地域課題を提示し、それに対してスタートアップ企業が解決策を提案。採用された場合には、その製品やサービスが実際に自治体に導入される仕組みとなっています。

「UPGRADE with TOKYO」の第46回では、「デジタル技術等を活用した次世代の福祉人材の確保」というテーマで地域課題が示され、5社が登壇しました。その中で、社員数16名の株式会社Blueberryが「デジタルでつなぐ福祉と未来への架け橋〜段階的なアプローチによるキャリア教育プログラムのご提案」を発表し、優勝。現在、実証実験のフェーズに進んでいます。

もうひとつは、自治体の人材不足を企業人が補うスキームが強化されつつあることです。総務省の「地域活性化起業人」制度では、三大都市圏などに所属する企業の社員を自治体が受け入れ、地域独自の魅力や価値向上に貢献する業務に従事する場合、その費用を国が負担します。この制度には大企業からの派遣も多く見られますが、従業員わずか4名の零細企業から地方への派遣が実現した例もあります。

いずれの場合も、小規模な企業でも参画の可能性があり、持続可能な仕組みへと発展していく可能性を秘めています。重要なのは、自治体と企業が対等なパートナーとして関係を築き、短期的な補助金依存に終わらない持続的なモデルを構築することです。

〈補足解説〉
ここには「中小企業こそ地方創生の担い手」という視点が浮かび上がります。大きな構想も、現場で汗をかくプレイヤーがいて初めて実を結ぶのです。

地方創生2.0が描く、地域経済の未来像

石破政権が打ち出した「地方創生2.0」は、単なる人口対策にとどまらず、国家の安全保障やエネルギー転換、食料自給といった根本的な課題と直結しています。これは単なる政策ではなく、日本社会そのものの持続可能性に関わる取り組みであり、「国土デザインの刷新」ともいえる構想です。

地域経済の自立を実現するためには、自治体が国任せにせず主体的に戦略を描くこと、そして企業が「地域貢献」にとどまらず「持続可能な事業」として関わることが欠かせません。

地域経済の未来は、もはや国の支援だけに依存するものではありません。自治体・企業・住民が三位一体で関わる「地方創生2.0」が、本当に日本の新たな国土ビジョンを描けるかどうか──その成否が、これからの日本全体の持続可能性を左右するでしょう。


「行政が面白くなる!まちと未来を考えるシリーズ」では、全12回にわたり、自治体の取り組みや政策の動き、それに関わる企業や市民の視点を交えながら、地域と暮らしの未来をわかりやすく解説していきます。

普段あまり行政に関心がない方にも「自分ごと」として感じていただけるよう、身近な事例やストーリーを交えてお届けします。ニュースの向こう側で実際に何が起きているのか、現場の声とともに“いま”を追体験できる――そんな連載を目指しています。

次回は「事業者主体の補助金改革—なぜ今“自走力”が求められるのか」に焦点を当て、地方創生の現場をさらに深掘りしていきます。

取材:岩根 央

Oneness Link代表砂川章雄Oneness Link代表

投稿者プロフィール

1997年東京大学卒業後、パナソニック、PayPayにて中央省庁・東京都等の行政対応を歴任。現在はOneness Link代表として自治体や官公庁との連携支援を専門に全国の起業支援・コンサルティングを行う。豊富な実務経験に基づいた「現場に活きる提案力」に定評がある。

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