再犯防止のカギは“教育”にあり。沖縄刑務所で受刑者と向き合う教育担当刑務官の仕事とは

沖縄刑務所の教育担当刑務官

刑務所と聞くと、多くの人は受刑者が刑務作業に従事している姿を思い浮かべるかもしれません。しかし、刑務所の役割は単に自由を制限し、刑を執行することだけではありません。そこはまた、受刑者が自らの過ちと向き合い、改善更生のための教育を受ける重要な場でもあります。

「刑務所で行われる教育指導とは?」
「沖縄ならではの受刑者の傾向と課題は?」
「受刑者の社会復帰を支える教育現場のリアルとは?」

そんな疑問に答えるべく、今回は沖縄刑務所の教育担当刑務官にお話を伺いました。

<目次>

教育担当の役割

刑務所において、受刑者が自らの過ちと向き合い、内面から変化を促すための重要な役割を担っているのが、教育担当の刑務官や教育専門官です。再犯防止と社会適応能力の向上を目指し、個々の受刑者に寄り添ったきめ細やかな指導を日々実践しています。

業務内容と指導形式

教育担当の主な業務は、受刑者に対する改善指導や教科指導の企画・立案及び実施です。指導形式は、受刑者1人ひとりの特性や課題に合わせて柔軟に変化させます。原則として、同じ問題性を抱え持つ受刑者5〜6名でひとつのグループを編成し、「グループワーク」形式で指導を実施していますが、指導内容や、受講者の特性を踏まえ、「個別指導」を実施することもあります。

指導内容も多岐にわたり、受刑者が犯した罪の背景にある問題性に応じたプログラムが指定されます。たとえば、アルコールに起因する犯罪を犯した受刑者には「アルコール依存回復プログラム」や「酒害教育」を実施しています。これらの指導においては、知識の付与も大切ではありますが、先述の「グループワーク」形式で、受講者がお互いに思ったことを述べ合い、「集団の力」を利用して望ましい方向へと自ら変化していくことが大切です。これらのプログラムを通じて、受刑者は自身の行動パターンや思考のくせを認識し、より建設的な行動選択ができるよう促されます。

沖縄刑務所の受刑者の特徴

沖縄刑務所の被収容者は、全国的に見ても窃盗犯が多いという傾向にありますが、特に注目すべきは、アルコールに起因する犯罪が顕著である点です。教育担当刑務官によると、全犯罪の約3割が飲酒に関連しており、そのため「酒害教育」には特に力を入れているといいます。

飲酒に関連する犯罪の具体例としては、酩酊状態での暴行事件や、酒の窃盗、飲酒運転などが挙げられます。この背景には、沖縄特有の飲酒文化が深く関わっていると教育担当刑務官は指摘します。沖縄では席が隣り合ったなどで知らない人でもすぐに声をかけ、酒場を共にする傾向があります。酔ったことにより些細な言動がきっかけで喧嘩に発展しやすいという、酒ならではの危うい側面も孕んでいるのです。

また、地域社会における付き合いで飲酒を断りにくい文化も、再犯につながる一因となっていると分析しています。このため、沖縄刑務所では、単に飲酒を禁止するだけでなく、受刑者が自身の飲酒パターンを深く考察し、自ら飲酒行動を変化させることを重視した指導が行われています。

教育担当の仕事のやりがい

教育担当刑務官が最もやりがいを感じるのは、受刑者自身の「行動変容」を間近で見届けられることです。受刑者の抱える問題性や課題は、日々の生活や刑務作業の場面で現れることが多いため、教育担当はそうしたサインを見逃さずに受刑者と関わります。

「教育の主体はあくまで受刑者自身である」という意識を常に持ち、受刑者が自らの問題や課題、困り事と向き合い、自らの意思で行動を変えていけるような情報提供や働きかけを心がけているといいます。

受刑者がプログラムを通じて自身の問題性を認識し、それまでとは異なる前向きな表情を見せたり、具体的な行動の変化を示したりする瞬間は、教育担当刑務官にとって何物にも代えがたい喜びであり、この仕事の大きな原動力となっているそうです。また、出所した受刑者から感謝の手紙や社会での活躍を報告する連絡が届くこともあり、「信じて関わり続けて良かった」と実感する瞬間だといいます。

教育担当の仕事の大変な点

受刑者の更生を願う教育担当の仕事には、大きなやりがいがある一方で、特有の困難も伴います。最も苦労するのは、受刑者自身が抱える問題性を過小評価し、改善指導プログラムへの参加に後ろ向きなケースが少なくないことです。

たとえば、「酒はいつでもやめられる」「シラフであれば暴力を振るわない」「相手に原因があったから暴力を振るったのだ」といった、自己正当化の傾向が見られることがあります。「自分にはそんなプログラムは必要ない」と拒む受刑者もいるため、プログラムが必須受講であっても、最初の導入段階での「動機付け」に最も神経を使うといいます。

受刑者が自身の問題と真摯に向き合う必要性を自覚できるよう、1つひとつ丁寧に、そして根気強く関わることが教育担当刑務官には求められます。相手の感情や思考の背景を理解しようと努めながら、彼らが自ら「変わりたい」と思えるように働きかけることは、精神的にも大きな負担を伴う業務だといえるでしょう。

刑務官の仕事について

沖縄刑務所の教育担当刑務官

受刑者の更生を支える教育担当刑務官。この特殊な職務に就くきっかけや、そのキャリアパス、そして一般社会に伝えたいこととは一体何なのでしょうか。

拝命のきっかけ

今回お話を伺った刑務官がこの職業を選んだきっかけは、意外なものでした。学生時代から剣道に打ち込んでおり、その経験を活かせる「武道拝命」という特別な採用制度を利用して拝命したといいます。「刑務官になりたい」という明確な志があったわけではなく、「剣道を続けられる職場」ということが、当時は最大の動機でした。

しかし、実際に刑務官として働き始め、受刑者と日々向き合うなかで、この仕事が持つ奥深さや社会貢献性、そして受刑者の変化を目の当たりにする喜びを知り、徐々にそのやりがいを見出していったと語ります。「入り口はどのような動機でも良い。大切なのは、拝命後にこの仕事の意義を見つけ、熱意を持って取り組むことだ」という言葉には、経験に裏打ちされた強いメッセージが込められていました。

2024年4月に現職に着任する以前は、受刑者の生活全般を指導する「処遇担当」として勤務しており、その豊富な経験が現在の教育担当としての業務にも大いに活かされていると実感しているそうです。

教育担当の業務は、2025年6月から導入された拘禁刑下における被収容者処遇において、特に重要な役割を担うものと認識しており、日々研鑽を積んでいます。

一般社会に対して思うこと

刑務官は、一般社会に対して「この職業をもっと多くの人に知ってほしい」という強い思いを抱いています。現在、学生を対象とした施設参観の機会なども増えており、こうした場を通じて、矯正職員の仕事の魅力を積極的に発信していくことの重要性を感じているといいます。

多くの人々にとって、刑務所や刑務官の仕事は閉鎖的で、なかなか実態が見えにくいものです。しかし、受刑者の更生という重要な社会貢献を担うこの仕事は、社会の安全と安心を支えるうえで欠かせないものでもあります。

教育担当の取り組みと今後の課題

東京報道新聞のインタビューを受ける沖縄刑務所の教育担当刑務官

沖縄刑務所の教育担当刑務官は、受刑者1人ひとりの真の更生と社会復帰を目指し、常に改善と革新の歩みを続けています。その中でも、特に重要視しているのが、指導効果の最大化に向けた内部連携の強化と、多様化する受刑者のニーズに応じたプログラムのさらなる発展です。

教育担当は、日常的に受刑者と接する「処遇担当」との連携を一層深めることに注力しています。教育担当が受け持つ改善指導プログラムは、限定的な期間(例:10単元)の関わりに留まります。しかし、処遇担当の刑務官は受刑者と毎日顔を合わせ、その生活全般を指導しているため、受刑者にとって処遇担当の言葉はより響きやすい傾向があります。

この特性を活かし、教育担当と処遇担当が共同で改善指導を行う体制を構築することで、受刑者への多角的なアプローチを可能にし、指導効果の向上を目指しています。これは受刑者が「なぜ私に必要なのか」とプログラムに後ろ向きな姿勢を見せる初期段階において、処遇担当からの説得が強力な動機付けとなることも期待されています。

また、拘禁刑の導入に伴い、受刑者の多様な特性に応じた、よりパーソナライズされた改善指導プログラムの提供も今後の重要な課題です。特に、高齢者や発達障害を持つ受刑者、福祉的支援が必要な被収容者への対応は、従来の画一的な指導では困難が伴います。個々の受刑者が抱える精神的・身体的課題に寄り添った効果的なアプローチを追求していきます。

沖縄刑務所の教育担当刑務官は、これらの取り組みを通じて、受刑者が社会復帰後に安定した生活を送り、再び罪を犯すことのないよう、最大限の支援を提供していくことを目指し続けています。

受刑者等専用求人誌「Chance!!」(チャンス)の広告バナー

<TEXT/小嶋麻莉恵>

関連記事

コメントは利用できません。

最近のおすすめ記事

  1. TBSホールディングス、米レジェンダリー社へ240億円出資で日本発コンテンツの世界展開を加速
    TBSホールディングスは1月16日、ハリウッドの大手映画製作会社「レジェンダリー・エンターテインメン…
  2. 東シナ海ガス田開発問題、中国の新たな掘削活動に日本政府が抗議
    東シナ海の日中中間線付近で中国が新たなガス田開発に向けた動きを見せていることが明らかになり、日本政府…
  3. 令和7年度松山矯正展
    2025年11月29日(土)30日(日)の2日間、愛媛県にある松山刑務所にて「令和7年度松山矯正展」…

おすすめ記事

  1. 2023年11月23日木に栃木県の喜連川社会復帰促進センターで開催された「令和5年度きつれがわ矯正展」

    2024-1-15

    刑務所の中まで見れるイベント「きつれがわ矯正展」とは?

    2023年11月23日(木)に開催された「令和5年度きつれがわ矯正展」。年に一度、喜連川社会復帰促進…
  2. 「【論文紹介】 無痛分娩と オキシトシンの 使用による 児の自閉症リスク上昇 との関連」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

    2024-10-27

    【論文紹介】無痛分娩(分娩時の硬膜外麻酔による鎮痛)とオキシトシン(陣痛促進剤)の使用による児の自閉症リスク上昇との関連

    今回は、分娩時の硬膜外麻酔による無痛分娩で生まれた子どもが自閉症スペクトラム障害(ASD:Autis…
  3. モー娘。北川莉央、活動休止継続を発表 12月復帰目指し準備進行中

    2025-9-12

    モー娘。北川莉央、活動休止継続を発表 12月復帰目指し準備進行中

    アイドルグループ「モーニング娘。'25」の北川莉央(21)が、当初予定していた今秋の活動再開を延期し…

2025年度矯正展まとめ

2024年に開催された全国矯正展の様子

【結果】コンテスト

【結果発表】ライティングコンテスト企画2025年9-10月(大阪・関西万博 第4回)

アーカイブ

ページ上部へ戻る