猛威をふるうインフルエンザ ワクチンによる予防接種について

「猛威をふるうインフルエンザ ワクチンによる予防接種について」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

2019年から新型コロナウイルスSARS-CoV2による感染症COVID-19が猛威を振るい、多くの感染者がでました。
その一方で、一気に影が薄くなった印象があったのがインフルエンザです。

新型コロナウイルスの対策のために感染症の対策が進んだこと、特に人の移動に制限があったことなど様々な要因があり、2020年春にCOVID-19の流行が世界で本格的に始まって以来、我が国でインフルエンザの流行は見られませんでした。

しかし、2022年シーズンには大流行といかないまでも、厚生労働省の発表では注意報を優に超えるレベルの流行がありました。
さらに、イスラエルで「フルロナ」と命名された、インフルエンザとCOVID-19の同時感染では、死亡率は無感染者の6倍、新型コロナだけに感染した患者の2.3倍高いことが報告されています。

そして、2023年シーズンには、新型コロナウイルス感染症の感染対策が緩和され、インフルエンザの流行が猛威をふるっています。
今回は、インフルエンザウイルスとそのワクチン接種について解説していきます。

そもそもインフルエンザとは

インフルエンザは、インフルエンザウイルスを病原とする気道感染です。
インフルエンザウイルスにはA型、B型、C型と3つの型が存在し、毎年流行するのはA、B型となっています。

風邪と同じく気道(空気の通り道である気管や、その先で呼吸に関わる肺など)にウイルスが感染して起こる疾患ですが、インフルエンザウイルスの感染は症状が重くなりやすいことから、いわゆる普通の風邪とは区別されています。

我が国では毎年11月下旬から12月上旬ごろに流行が始まり、翌年1月から3月ごろまで患者数が増加していき、4−5月ごろになると流行が落ち着くことが多くなっています。

なお、C型は、一度感染すると免疫がつき、ほぼ一生かからないといわれています。
また、流行の時期が1月-6月と考えられていますが、検査できる医療機関も少なく、まだわかっていないことも多いです。
そして、同じA型の流行でも数年ごとに変異したウイルスが現れ、世界的な流行を見せることがあります。

インフルエンザの症状

インフルエンザウイルスに感染すると潜伏期(3日以内であることが多い)の後、発熱、頭痛、喉の痛み、筋肉痛、関節痛など、風邪と同じような症状が出現します。
咳や鼻水などの気道症状も風と同様ですが、風邪よりも全身症状が強いのが特徴です。

特に、小児や高齢者、免疫力の低下する慢性疾患、呼吸器疾患などを持つ人では、インフルエンザの経過中、さらに細菌感染を併発し、入院が必要になったり死亡するリスクが上昇することが知られています。

小児の領域を見てみると、近年インフルエンザにかかった幼児の中に、急激に悪化する急性脳症が増加することがわかっています。
これを、インフルエンザ脳症といいます。

厚生労働省からの発表では、毎年50-200人程度のインフルエンザ脳症が報告されています。
恐ろしいのは、「インフルエンザ脳症の死亡率が10-30%」と非常に高いことです。
インフルエンザ脳症の原因はまだ詳細にはわかっておらず、有効な対処法も確立されていません。

インフルエンザのワクチンは接種すべき?

インフルエンザワクチンを打っても感染したから、
もう受けない。
子どもにも受けさせない。

このようなことをおっしゃる患者さんやその家族もいらっしゃいます。
しかし、結論としては、インフルエンザワクチンを受けた方が恩恵は多いようです。

インフルエンザワクチンは、予防に非常に高い効果を挙げています。
高齢者におけるインフルエンザワクチンは、健康な65歳異常の高齢者の発病を45%、死亡の80%を阻止する効果があったという報告があります。

インフルエンザワクチンを接種しても、感染を完全に防ぐことはできないのは確かです。
しかし、かかった際の症状はワクチン接種している人と、していない人で大きな差が出ます。

小児では6歳未満の小児を対象として研究が行われていて、インフルエンザワクチンの発病防止の有効率は60%との報告がなされています。
ここでは、インフルエンザワクチンによる効果と副反応を表にまとめました。

対象結果指標有効率
健常者
(65歳未満)
発病70~90%
一般高齢者
(65歳以上)
肺炎・インフルエンザ
による入院
30~70%
老人施設
入所者
(65歳以上)
発病30~40%
肺炎・インフルエンザ
による入院
50~60%
死亡80%
小児
(1歳~6歳)
発熱20~30% 
表1.季節性インフルエンザに対するワクチンの効果11)

ワクチン接種人数副反応報告症例数1万人当たりの頻度
DPT4,222,0821680.33565
DT783,059
麻しん11,30065.30973
風しん61,20950.81687
MR1,937,568580.29934
日本脳炎141,42130.21212
ポリオ2,054,38090.0438
BCG978,075981.00196
インフルエンザ13,064,354250.01913
23,253,448372 
表2.予防接種法に基づく定期接種における副反応報告症例数

海外のインフルエンザ予防接種

インフルエンザの予防接種の回数は、参考文献11の「厚生労働省.ワクチン接種」によると、生後6ヶ月-12歳までは2回接種、13歳以降は1回接種とされています。

海外を見てみると、アメリカでは9歳未満は2回接種、9歳以上は1回。ただし、9歳未満でも過去に2回以上の接種歴がある場合は、1回でも良いといった規定になっています。

また、アメリカの予防接種は皮下注射である日本と異なり、定期接種に位置づけられかつ筋肉注射ではありますが、製剤的にはほぼ同じものが使われています。
筋肉注射の方が効果は高いといった報告もありますが、日本で筋肉注射での治験が行われていませんので、本当にそうであるのかは明らかではありません。

また、COVID-19予防接種の報道で見られた方もいると思いますが、州によって取り決めは異なります。
基本的に、薬剤師の職能として予防接種が認められているため、薬局で簡単に予防接種が受けることができます。

まとめ

今回は、COVID-19の収束に伴い、猛威をふるうインフルエンザについて解説をしました。

小さい子どもや高齢者が感染すると、場合によっては命に関わる重要な感染症です。
予防接種をはじめとする適切な対策を行いましょう。

参考文献:

  1. 国立感染症研究所
  2. 外務省
  3. 医学教育研究所
  4. 森晃爾,石丸知宏,小林祐一ら. Vaccine Hesitancy:Factors influencing intention to vaccinate and the workplace:産業医学レビュー 2022;34:179-198
  5. 中山哲夫.インフルエンザスプリットワクチンの限界と新規ワクチンの開発:モダンメディア 2015:61:283-289
  6. Elam-Evans LD, Yankey D, Singleton JA, et al. National, Regional, State, and Selected Local Area Vaccination Coverage Among Adolescents Aged 13-17 Years – United States, 2019. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2020; 69: 1109-1116
  7. Kang GJ, Culp RK, Abbas KM. Facilitators and barriers of parental attitudes and beliefs toward school-located influenza vaccination in the United States: Systematic review. Vaccine. 2017; 35: 1987-1995
  8. Co-infection of SARS-CoV-2 and influenza viruses: a systematic review and meta-analysis. J Clin Virol Plus. 2021; 1: 100036
  9. Coinfection with influenza A virus enhances SARS-CoV-2 infectivity. Cell Res. 2021; 31:395- 403
  10. The epidemiology and clinical characteristics of co-infection of SARS-CoV-2 and influenza viruses in patients during COVID-19 outbreak. J. Med. Virology. 2020;92:2870–2873
  11. 厚生労働省.ワクチン接種

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