人の心とどう向き合うのか。心理専門官の仕事とモデル事業での挑戦

東京報道新聞がインタビューした「札幌刑務所精神科リカバリーユニット(略称:PRUS〈プラス〉/愛称:IPPO〈いっぽ〉)」で勤務する心理専門官

心理専門官とは、刑務所や少年院などの矯正施設で働く非行や犯罪に関わった人たちの立ち直りを支える心理職の国家公務員です。受刑者への面接や心理検査、再犯リスクの評価、処遇計画の立案といった業務を担っています。一人ひとりと対話を重ねながら、再犯防止と円滑な社会復帰を支援する心理専門官。その仕事は、私たちの想像を超える繊細さと覚悟を伴うものです。

今回インタビューした心理専門官は、採用当初は少年鑑別所で非行・犯罪を犯した少年の資質の調査を行う業務を担当し、現在では心理専門官として「札幌刑務所精神科リカバリーユニット(略称:PRUS〈プラス〉/愛称:IPPO〈いっぽ〉)」で勤務しています。受刑者のグループワークを実施し、日々受刑者の心と向き合う最前線の視点からお話しを伺いました。

心理専門官は、刑務所で「心」と向き合う仕事

心理専門官は、新たな受刑者が入ってきた時に、最初に受刑者と関わり、性格や特性に合わせて、更生プログラムを考えていきます。

受刑生活が始まるにあたり、受刑者の性格や能力などの調査を行い、どのような刑務作業に従事するのがよいか、また、再犯リスクを評価・査定し、どのような再犯防止のための指導をすればよいか、方針を示します。希望者に対するカウンセリングを実施するのも仕事の一つです。

しかし、カウンセリングの際は、自分自身が犯してしまった罪、自身の持っている病気についての話になると、拒否反応が見られやすく、自身の問題と向き合いたくないという思いが強く出てしまうといいます。

「精神障害を抱える受刑者は非常に繊細です。だからこそ、できる限りゆっくり、やさしく話しかけるようにしています」と語る心理専門官。

拘禁刑では、本人の特性を踏まえて、高齢福祉課程や福祉的支援、依存症回復処遇課程といった受刑者を24のグループに集団編成を指定します。

一人の人間として相手と相手の心に向き合い続ける。それが心理専門官の仕事の一つです。

更生を目指すモデル事業と専門官の葛藤

精神障害受刑者処遇・社会復帰支援モデル事業「札幌刑務所精神科リカバリーユニット(略称「PRUS」プラス/愛称「IPPO」いっぽ」)」で行われている受刑者のグループワーク
今回の話題はバイキング(食べ放題)の話

札幌刑務所で行われているモデル事業では、精神障害をもつ受刑者に対し、再犯防止を目的とした新しい支援が展開されています。

「モデル事業をするにあたり、参加していただく受刑者と話すとき、最も重視視しているのは、本人に更生の意思が強く見られるかどうかです」

なぜその行為に至ったのか、繰り返さないためには何が必要なのか。そうした根本的な問いに対し、心理学の知見と技術を駆使して分析し、再び社会の一員として生き直すための支援プログラムを考え、実施していくのです。

刑務所の中で出会う受刑者には、外の世界では内面に抱える問題に気づかれず、十分な支援を受けられなかった人たちが多くいます。なかには精神障害を抱えたまま罪を犯し、社会から孤立してきた人も少なくありません。

そのため、本人の特性への深い理解が心理専門官には求められます。モデル事業をスタートさせるにあたり、プログラムの参加者を決める面談をした際も、なかなか素の自分を見せてもらえず、苦労した場面は多かったといいます。

素の自分を出しても大丈夫な相手だと受刑者に感じてもらえるよう、粘り強く関わりながら接触の機会を重ねていきます。それでも1人の受刑者と打ち解けて素直なやりとりができるようになるまでに、3か月以上かかることもあります。面談だけを担当するだけではなく、グループワークの担当としても積極的に関わり、受刑者たちと向き合って、その行動の背景にある要因を丁寧に探っていきます。

「もともと大学でも精神疾患や特性について学んでいたのですが、その知識だけでは賄いきれないので、普段の業務と並行して再度勉強しなおしました。モデル事業やグループ分けのルールもこれから作っていくなかで、勉強もするというのはなかなか大変ですね」

モデル事業では、精神科医師の求める調査を適切に実施することが期待され、心理専門官の中でも専門性が高い業務になっています。今後のモデル事業の発展や拘禁刑下でのグループ分けに役立てるためにも、自己研鑽を怠らないように意識をしていると、心理専門官は笑顔で語ります。

自己理解を育む新たなアプローチ

多目的室。ここでグループワークをして受刑者同士で話し合う。
多目的室。ここでグループワークをして受刑者同士で話し合う。

モデル事業に取り組む中で心理専門官が特に力を入れているのは、「精神の不調に自分で気づけるように個人に目を向けることができる環境づくり」だそうです。

「精神疾患を抱える受刑者に疾病教育を受けてもらったり、体に現れる不調のサインを認識できるようにするプログラムを受けていただいたりしています。従来の刑務所では全体を管理していることが、大きな目的となり、個人に対して目を向けることはできませんでした。それがモデル事業では個人それぞれに合わせたプログラムが実施できるようになったのは大きな環境の変化だと思います」

モデル事業では、刑務官がいつでもすぐに話を聞ける環境を整え、自分の思いを吐露できる環境を整えています。

その結果、心を開きづらかった受刑者も、自身の心身状態に不調と感じたら、刑務官に申し出て休養室に移動して休むということを自発的に申し出られるようになっています。

「自分から発信ができるようになるというのは、個人的にも一番大きな変化だと感じます。いざというときに助けを求められるという考えを理解することで、社会に出たときにも活かせるかと思います」

心の変化を支える娯楽が再犯防止の鍵

音楽室。カラオケや小さなキーボードも設置されている。
音楽室。カラオケや小さなキーボードも設置されている。

モデル事業の大きな特徴に、娯楽をプログラムに取り入れている点があります。今までも刑務所には、少なからず娯楽はありましたが、積極的に取り入れた処遇プログラムは一部でしかありませんでした。しかし、精神障害を持つ受刑者にとって楽しい時間を意図的に持つことで、余暇時間の過ごし方を分かるようになり、再犯のリスクを軽減するほか、自分の感情の扉を開けることにも役立つと、心理専門官は語ります。

「最初はカラオケでも感情の変化が見えづらかった人が、時間が経つにつれて笑顔が見られるようになりました。音楽を心から楽しむようになるんです。そうした変化に立ち会えるのは、うれしいです。イベントを楽しむことができて、発散できるようになったのは良いことだなと」

この娯楽を取り入れるという取り組みは、犯罪を犯した人へ過度に優しい環境ではないかとの、外部からの意見もあります。

「もちろん被害者もいるので、そのような意見があることは仕方がないと思います。一方で特性を踏まえた方法を取らないままであると、また再犯をしてしまう可能性があります。再犯を減らし、よりよい社会を作るための取り組みであることを理解してほしいですし、必要性について丁寧に説明するのが不可欠だと感じます」

刑務所の最終的な目的としては、罰を与えることではなく、再犯防止があります。懲役刑における再犯率は令和2年で49.1%に上り、今までのやり方では再犯率低下には限界があると言わざるを得ないのは事実です。今までとアプローチを変える必要があるのではないかと心理専門官は説きます。

また、心理専門官の力を入れていることに、地域との連携があります。このモデル事業をスタートさせるにあたり、札幌市にある障害者就労支援施設との連携するなどしています。受け入れ先の福祉施設には事前に訪問し、本人の性格や特性の理解をすすめ、受刑者が社会に出た時も見守ってくれる人を増やす取り組みです。

「刑期を終えて社会に出た時に、意味ある支援を行っても、社会に出て最も身近に接する人たちにその思いが伝わっていなければうまくいきません。頼れる人がいなければ孤独になりますし、また同じことを繰り返してしまいます。だからこそ、本人を見守ってくれる社会で頼れる人を増やしていければと思います」

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翌檜 佑哉ライター

投稿者プロフィール

現地取材や専門家へのインタビューを重ね、一次情報に基づいた正確でわかりやすい記事を執筆。独自の視点から社会や地域の課題を取り上げる。

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