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AI関連スタートアップ「オルツ」の大規模な不正会計問題を受け、東京証券取引所を傘下に持つ日本取引所グループ(JPX)が新規上場審査の抜本的な強化策を打ち出しました。AIを活用した議事録作成サービスで急成長したオルツは、2024年10月に東証グロース市場に上場しましたが、売上高の最大9割を循環取引により水増ししていたことが第三者委員会の調査で判明し、2025年8月末に民事再生法を申請、上場廃止となりました。
公募価格を背景に時価総額約800億円規模でスタートした新興銘柄が、上場から1年足らずで倒産・上場廃止に追い込まれた事態は、スタートアップ市場全体への信頼を揺るがす象徴的事件として受け止められています。
JPXは12月12日、企業の新規上場審査において、従来以上に内部通報制度の実効性を重視する新方針を公表しました。具体的には、経営陣から独立した通報窓口が設置されているか、不正の実行者や関係者に通報内容が伝わらないよう情報管理体制が整備されているかなどを詳細に確認し、体制が不十分な企業は上場を認めない考えを明確にしました。
さらに、売上の大半が少数の取引先に偏るビジネスモデルなど、不正会計や循環取引のリスクが高いと判断される案件については、監査法人の見解に加え、主要取引先へのヒアリングなど追加的な実地確認を行う方針も示されています。
オルツのケースでは、複数の関連会社や取引先を介して同一資金を回転させる循環取引により、AIサービスの売上が実態以上に膨らんで見える構造が長期間にわたり続いていました。一部の取引契約書や請求書にも実態と異なる記載があり、第三者委員会の報告書では、上場審査や監査の過程で十分な検証が行われなかった点も問題点として指摘されています。JPXは今回の改善策で、こうした「形式上は要件を満たしているように見える不正」を早期に検知する仕組みが必要だと強調し、審査担当部門の人員・専門性の強化や、AI・SaaS系スタートアップの特性を踏まえたチェックリストの見直しも進めるとしています。
スタートアップ育成との両立が課題に
一方で、上場審査の厳格化がスタートアップの資金調達環境を冷え込ませるとの懸念も根強くあります。東証グロース市場は、成長可能性を重視し、新規上場基準を一部緩和してきた経緯があります。ここ数年、SaaSやAIなど無形資産を軸にした企業の上場が相次ぎましたが、上場後に時価総額が伸び悩む銘柄も多く、投資家からは「質の担保」を求める声が強まっていました。JPXは、スタートアップ育成に向けた証券市場改革の一環として上場維持基準の厳格化や市場区分見直しを進めており、今回の審査強化もその延長線上に位置づけられます。
JPXは説明の中で、「スタートアップ企業の上場機会を奪うのではなく、上場後も持続的に成長できる企業に投資資金が向かう環境を整えることが目的」と強調し、内部統制やガバナンスの水準を引き上げることで、長期投資家の信頼を高めたい考えを示しています。新たな審査方針は、今後公表されるIPO向けガイドブックや上場制度見直し案にも反映される見通しで、監査法人や証券会社、VCなどエコシステム全体に対し「不正の芽を市場に持ち込まない」意識改革を促す狙いもあります。オルツ事件を契機に、スタートアップの成長支援と投資家保護をどう両立させるのか、日本の資本市場の信認回復に向けた試金石となりそうです。








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