朝起きられないのは甘えではない 睡眠相後退症候群

朝起きられないのは甘えではない 睡眠相後退症候群

「毎朝、子どもを起こすのがまるで戦争のよう」
「夜更かしをやめさせたいけれど、本人は『どうしても眠れない』と言う」
といったお悩みをお持ちではありませんか?

「朝起きられない」というと、単なる夜更かしや怠けだと思われがちですが、体内時計のズレによる「睡眠相後退症候群(DSPS:delayed sleep phase syndrome)」という病気が隠れているかもしれません。

この記事では、睡眠相後退症候群について、起立性調節障害との関連性や無理に起こすことの弊害について解説します。

リズム障害「睡眠相後退症候群(DSPS)」とは?

睡眠相後退症候群とは、睡眠・覚醒のタイミングが、慣習上ないしは社会的に許容される時間帯より2時間以上相対的に後退する状態となる病気です。一度、眠りにつけば睡眠の質自体には問題がないことが多いものの、自分の意志や、学校・仕事といった社会的なスケジュールに合わせて眠ったり、起きたりすることが非常に困難になります。

この病気は、特に学童期から思春期にかけて、長期休暇明けなどをきっかけに出現しやすい傾向があります。小学校から中学校へ成長するにつれて、夜型の生活になり、睡眠時間は短くなりがちです。しかし、第二次性徴(思春期の体の変化)が始まると、生体リズムとして睡眠時間が一時的に延び、個人差はあるものの1~2時間延長する場合があります。これにより、夜更かしの傾向と必要睡眠時間の延長が重なり、結果として起床時間が極端に遅くなってしまうのです。

これらは単なる「甘え」ではなく、体内時計のリズム(概日リズム)を調節する機能が、何らかの原因でうまくいかなくなるために起こる身体的な問題です。

睡眠相後退症候群と起立性調節障害の違い

「朝起きられない病気」として広く知られているのが、起立性調節障害(OD :Orthostatic Dysregulation)です。起立性調節障害は、思春期に好発する自律神経機能不全のひとつで、立ちくらみや失神、朝の起床困難、頭痛、倦怠感などを伴います。

医療機関で「朝起きられない=起立性調節障害(OD)」と診断されている子どものなかには、この睡眠相後退症候群(DSPS)が本当の原因であったり、起立性調節障害と睡眠相後退症候群の両方を合併していたりするケースが、かなりの割合で存在します。起立性調節障害の治療として、血圧を上げる薬を飲んでいても症状が改善しない場合、背景にあるリズムの乱れへのアプローチが不足している可能性があります。

両者は治療のアプローチが異なります。

    睡眠相後退症候群起立性調節障害
好発年齢思春期から青年期学童期から思春期
薬物療法入眠困難:メラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬朝の起床困難:ドパミン D2受容体部分アゴニストアリピプラゾール(微量)ミドドリン
【睡眠相後退症候群と起立性調節障害の違い】

かつては、強い光を浴びる「高照度光療法」や入院での生活指導が中心で、治療が難しいとされてきた睡眠相後退症候群ですが、現在は有効な薬剤が使用可能になってきました。具体的には、入眠困難に対してメラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬を用いたり、朝の起床困難に対してドパミンD2受容体部分アゴニストであるアリピプラゾールをごく微量使用したりすることで、リズムの調整を図ります。

なお、睡眠相後退症候群に対するこれらの薬剤使用は、小児においては保険適応外使用となるため、専門医による慎重な判断が必要です。

心身を守るための治療方針 無理やり起こすのは逆効果

学校に行かせるために、怒鳴ったり無理やり布団から引きずり出したりすることは、本人の心身の不調をさらに悪化させるリスクがあります。ここでは、睡眠相後退症候群の治療方針について解説します。

1.睡眠衛生の知識を確認する

無理な起床強要は、子どもの自己肯定感を下げ、うつ状態や不登校の長期化を招く恐れがあります。まずは、子どもと一緒に保護者の方も睡眠衛生の知識を確認しましょう。もし、正しい知識があっても実行できない場合は、「実行するための心のエネルギーが枯渇していないか」「背景に発達特性などの課題がないか」といった視点も大切です。

2.焦らず、タイミングを見極める

治療には、子ども自身が睡眠日誌をつけるなどして、主体的に参加することが重要です。医師・子ども・保護者の三者で、今の状態に合った「身体的・心理的・社会的に無理のない目標」を共有しましょう。そして、本人の準備が整い、概日リズムを整えるべきタイミングが来たときに、光療法や薬物療法を適切に導入することが、回復への近道となります。

【児童精神科医から】「朝起きられない」状態が続くときには、抱え込まず医師にご相談ください

小学生までしっかりと起きられたのが、中学生高校生になり朝起きられないなら、それは怠けだなどと決めつけることは時期尚早かもしれません。

朝起きられないことは、決して本人の性格の問題や、怠けではない可能性があります。適切な診断(起立性調節障害なのか、睡眠相後退症候群なのか、合併しているのか)を受け、生活指導だけでなく、必要に応じた薬物療法を含めたトータルな治療をすれば、生活のリズムを取り戻せる可能性は十分にあります。

児童精神科では、心と体の両面から、一人ひとりに合わせたサポートをしています。「どうして起きられないの」と一人で抱え込まず、ご相談ください。

参考文献
1.神林崇,千葉滋,入鹿山容子,他.朝 に 起きられ ない中高生「 若 年性 起 床 困 難 症 」への対処法:起立性調節障害と睡眠相後退症候群の異同について.不眠研究2022.32-37
2.粂和彦.若年者の睡眠覚醒リズムの問題と対策
3.日本小児心身医学会.概日リズム睡眠・覚醒障害

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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