ガイドラインに学ぶ「2025/26 シーズンのインフルエンザ治療」の最適解

ガイドラインに学ぶ 202526 シーズンの インフルエンザ治療 最適解

2025年は早い時期に季節性インフルエンザの流行期に入りました。すでにかかった人も多いではないでしょうか?

急な発熱や関節痛などの症状が出ると、「すぐに病院で薬をもらえば治る」と考える方は多いかもしれません。しかし、実際にはインフルエンザ治療には、「ガイドライン(治療指針)」が存在し、必ずしも「すぐに薬」が正解とは限らないケースもあります。

(*ガイドラインは、実質的な「ルール」です。守らなければならないわけではありません)

今回は、私たち医師がどのように薬を選んでいるのか、ガイドラインに基づいた治療の考え方について解説します。

インフルエンザ治療薬の種類と特徴

現在、日本で使用されている主なインフルエンザ治療薬は、以下の通りです。

【インフルエンザ治療薬の種類】
【インフルエンザ治療薬の種類】

治療薬には、飲み薬・吸入薬・点滴といった剤形の違いや、1回で終わるもの・5日間続けるものといった服用回数の違いがあります。これらを患者様の年齢や状態に合わせて使い分ける必要があります。

日本のインフルエンザ治療とWHO重症インフルエンザ治療ガイドラインとの違い

インフルエンザ治療に対する考え方は、日本と世界で少し異なります。

日本のガイドラインでは、「すべてのインフルエンザ患者さんに対して、発症早期の段階から抗インフルエンザ薬で治療する」ことが原則です。一方、WHO(世界保健機関)の重症インフルエンザ治療ガイドラインでは、「健康な成人にはアセトアミノフェン(解熱剤)以外の投与はしない」という、より慎重な姿勢をとっています。

1.日本のインフルエンザ治療

日本のガイドラインで薬の投与が推奨される最大の理由は、「有熱期間の短縮」と「重症化予防」です。特に、幼児や高齢者、呼吸器症状が強い患者様には積極的な投与が推奨されています。原則として、発症から48時間以内に使用することで効果が期待できますが、重症化リスクが高い場合は48時間を過ぎていても投与を考慮します。

多くのインフルエンザは自然に治る病気であるため、薬の投与は必須ではありません。しかし、日本がこうした積極的な治療を行ってきた結果、2009年のパンデミック時には、世界で最も少ない死亡者数を記録し、妊婦の死亡ゼロを達成したという実績があります。また、アメリカのCDC(疾病予防管理センター)も、発症48時間以内であれば、リスクのない軽症患者への治療を勧めています。

2.WHO重症インフルエンザ治療ガイドライン

対してWHOのガイドラインでは、リスクのない健康な成人や小児の軽症インフルエンザは、そもそも抗インフルエンザ薬の治療対象としていません。薬を使う目的はあくまで「重症化と死亡の防止」に絞られており、健康な人には解熱剤(アセトアミノフェン)のみで対応するのが原則です。

ただし、リスク群に対しては、全例で早期のオセルタミビル(タミフル)投与を強く推奨しています。

ここでのリスク群とは、以下の方々を指します。

  • 重症患者
  • 慢性の肺疾患・心疾患・糖尿病といった基礎疾患を持つ方
  • 65歳以上の高齢者
  • 6歳未満の小児
  • 妊婦および分娩後2週以内の褥婦
  • 高度肥満の方

WHOがタミフル以外の薬(イナビルやゾフルーザなど)を推奨していない理由は、世界的に見て重症化防止効果のデータがまだ十分ではないためです。また、イナビルはアメリカ合衆国やヨーロッパでは使われていません。それは、アメリカ合衆国を中心に海外で行われた第二相試験でプラセボ(偽薬)と有意差がつかなかったからです。

ゾフルーザ(バロキセビル)と耐性ウイルス

近年、1回飲むだけで済むゾフルーザ(バロキセビル)が登場し、日本でも広く使われています。非常に便利な薬ですが、課題もあります。治療中にウイルスが変異し、薬剤耐性ウイルス(薬が効きにくいウイルス)が出現することが確認されているのです。特に小さなお子さんでは、耐性ウイルスが出現する傾向が強いことが分かっています。

そのため、ガイドラインや学会の指針では、12歳未満の小児などに対しては、便利さだけで選ばず慎重に判断するよう求めています。日本小児科学会の定めるガイドラインでは12歳未満では年齢及びインフルエンザB型など限定使用を推奨しています。医師があえてゾフルーザではなく、タミフルやリレンザを選ぶのには、こうした医学的な理由があるのです。

インフルエンザ治療について

日本は、世界のなかで最も多くの抗インフルエンザウイルス薬が使用される国とされており、ある報告では、インフルエンザ患者のうち、抗インフルエンザ薬が処方される割合が90%程度とされています。海外では約半数程度です。医療費の高いアメリカで、友人医師が病院でインフルエンザと診断されました。「予防接種しているのか?」と聞かれ、「しているが抗インフルエンザ薬は欲しい」と答えると、「クレイジーだ」と笑われ、処方はなかったそうです。予防接種をしているのに、さらに高い抗インフルエンザ薬を使用するという考え自体がないようです。

インフルエンザ治療薬には、熱を下げるだけでなく、重症化を防ぎ、さらには周囲への感染拡大を抑えるという意味もあります。医師と相談し、「新しい薬が良い」「1回で済む薬が良い」と自己判断せず、自身の年齢、体力、家族構成などを踏まえて薬を選ぶことが大切です。

参考文献:
日経メディカル.抗インフルエンザ薬治療のガイドラインと課題
2023/24 シーズンのインフルエンザ治療・予防指針
Guidelines for the clinical management of severe illness from influenza virus infections
インフルエンザの診断と治療 最新の WHO ガイドラインから
南江堂 今日の治療薬2024 解説と便覧
日本小児科学会. 2025/26 シーズンのインフルエンザ治療・予防指針

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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