日本の医療費は高い?海外の医療システムとの比較について

「日本の医療費は高い?海外の医療システムとの比較について」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

最近、税金で話題といえば「子育て」に関することですが、日本の医療費は増大の一途をたどっていることをご存知ですか?

医療費が増大すると、高齢化社会とともに保険料を払える世代が減少し、国民負担が増えることになります。
ただし、少子高齢化問題を抱えているのは日本だけではありません。
他の先進国も同じ傾向をたどっているのです。

では、諸外国と比べて日本の医療費は高いのでしょうか?それとも安いのでしょうか?

今回、諸外国と比較しながら、日本の医療費の現状と将来の見通しや日本の医療費対策について、一緒に考えていきましょう。

1.日本の医療費の現状と将来の見通し

日本の医療費は年々増大しているのは何となく知っていると思いますが、実際どれくらい増えているのでしょうか?

内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省が共同で作成した「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」では、2040年には医療費が70兆円に迫ると予測されています。

令和2年度(2020年)の国民医療費は42兆9,665億円ですので、20年も経てば医療費が約1.6倍にもなるのです。

ただでさえ、基本賃金が上がらない中、電気代や物価の高騰や消費税の10%の増税などが重なり、国民負担が増えています。

これよりも増税を強いられる状況は耐えられないですよね?

しかし、高齢化社会が進む中で、保険料を払える世代が減少すれば、国民負担が増えることは明らかなのです。

では、日本のこうした医療費を巡る状況は、海外と比較して「いい状況」なのでしょうか?「悪い状況」なのでしょうか?

参照:
日本医師会「日本と諸外国の医療水準と医療費」
経済産業省「医療国際展開カントリーレポート 新興国等のヘルスケア市場環境に関する基本情報 重点国の基礎データ比較 (日米欧との比較)」

2. 他国と比較して、日本の医療費は高いのか?

1人当たり保険医療支出のグラフ(日医総研ワーキングペーパー医療関連データの国際比較-OECD Health Statistics 2021 およびOECD レポートより-)
出典:日医総研ワーキングペーパー 医療関連データの国際比較-OECD Health Statistics 2021 およびOECD レポートより-

日本の医療費は他国と比べてどうなのでしょうか。それを理解するために、いくつかのランキングを見てみましょう。

①一人当たり保健医療費支出のランキング

上図を見てください。このランキングは、一人あたりにどれだけの保健医療費がかかっているかを比較したものです。

日本は15位で、38カ国中上位の方に位置しています。つまり、日本の一人当たりの保健医療費は中央値よりもやや高い方だと言えます。

②一人当たり医療費自己負担額のランキング

次に一人あたりが自分のお金で支払う医療費(自己負担額)がどれだけなのかも見てみましょう。

すると日本は22位で、38カ国中、中位の方に位置しています。つまり、日本の一人当たりの医療費自己負担額はそこまで高くないと言えますね。

③医療費自己負担比率のランキング

そして最後に、医療費全体のうち、どれだけが自己負担で、どれだけが保険などでカバーされているかを比較した「医療費自己負担比率」を見てみましょう。

すると、日本は27位で、38カ国中、下位の方に位置しています。
つまり、日本の医療費の自己負担比率は低い方だと言えます。

これらのランキングから何が言えるのでしょうか。

それは「日本の医療費は高いけれど、自己負担比率は低い」ということです。
これは「日本の医療保険制度がしっかりと機能している」とも言えます。

一方、アメリカは医療費が非常に高く、自己負担額も高いですが、自己負担比率は低いです。
これは、アメリカの医療費が非常に高いため、保険などがカバーする部分も大きいからです。

例えば、カナダやイギリス、ドイツ、オーストラリアなどは、医療費が高いかどうかはさまざまですが、自己負担比率が高い傾向にあります。

これは、これらの国では医療費は国から補填したり、自分で保険をかけてカバーせず、「医療費は自己負担するもの」という認識が一般的だからです。

「どの国が一番正しい」ということはありません。

国というシステムを使って、国民全員でカバーをするか、自分で保険に入って保険会社にカバーしてもらうか、はたまた自分で医療費を払っていくか。
払う方法が変わるだけなのです。

参照:
日本医師会総合政策研究機構医療関連データの国際比較-OECD Health Statistics 2021およびOECDレポートより-

3. 日本と海外でこれだけ変わる「手術費用」

日本でいかに自己負担額・自己負担率が少ないか。
それを如実に表すのが、手術費用です。

例えば、急性虫垂炎(盲腸)の治療費用を見てみましょう。

日本で虫垂炎の手術をすると、入院・手術費用は一般的に30万です。
(特別個室に入った時などは追加料金がかかります)

さらに、高額医療費には上限があるので、手術後に何かトラブルがあったり高リスクの方で、集中治療室に入った場合なども、その差額は国で支払ってくれます。

一方、ニューヨークの私立病院では約5,995,000円〜8,165,000円、ホノルルでは約3,373,000円です。なんと日本の10倍以上、いや20倍以上になることも珍しくありません。

みなさんはこんな金額を突然払うこと、できますか?
難しいですよね。

当然、アメリカの人も払えるわけがありません。
そこで、保険を使います。
しかし、保険でも補填できる金額は限りがあります。
さらに、保険会社が契約している病院があって、「この病院はA保険が使えるがB保険が使えない」なんていうことも。

そのため、どの保険を使うかによって、どんな医療が受けられるかが変わってくるのです。
さらに、アメリカでは一般の初診料だけで150〜300ドルの請求を受けることも普通のこと。アメリカでは原則、病院が医療の価格を決定しているからです。

また、カナダの私立病院では、約934,800円〜1,332,500円、イギリス(ロンドン)では約620,000円〜720,000円となっています。

外来医療費胃腸炎初診  
公立病院 私立病院 
アメリカ約16,000~
32,000円
約32,000~
44,000円
イギリス約12,000円約32,000円
フランス約3,000~
10,000円
約3,000~
18,000円
ドイツ約37,000円約49,000~
74,000円
日本2,880円~
入院医療費虫垂炎
公立病院私立病院
アメリカ約209万円以上
イギリス約35万円約62万円
フランス約63万円約72万円
ドイツ約25万円約37万円
日本約31万円~
表. 諸外国における医療費の状況

アメリカよりは高額ではないものの、かなり自己負担額が大きいですよね。

医療費が抑えられている分、いざ病気になったり体調がすぐれない時に、さらにお金の心配もしなければなりません。

だから欧米では「セルフメディケーション」、自分で自分を治すことが求められるわけですね。

日本の医療費の増大は解決すべき問題ではありますが、決して海外と比べて劣っているわけではないことがわかるでしょう。

参照: 日本医師会「日本と諸外国の医療水準と医療費」

4. 増大する医療費にどう立ち向かえばいい?

とはいえ、日本の増大する医療費も深刻であるのは事実。

医療費が増大すると、私達の税金も増えますし社会保険料も増えます。
当然、国の財政状況は悪化してしまうでしょう。

特に、高齢化社会が進む日本では、医療費の増大はより深刻な問題となってきます。
こうした医療費増大問題に私達が出来ることは何でしょうか?

まず1番にされるべきは「予防医療の推進」です。

病気の予防や早期発見をすれば、深刻な事態になって医療費がかさむのを抑えることができます。
健康な生活習慣の推進や定期的な健康診断の受診をして、自分で自分をケアしていく姿勢が大切です。

同時に、「本当に必要な医療だけを提供する姿勢」も大切です。

例えば、みなさんはヒルドイド問題を知っていますか?
ヒルドイドが保湿効果に優れていることを知った国民が、あまり乾燥肌でないのにもかかわらず、医師に保湿剤を要求し、ある報道では50-70億円も医療費を増大させているとした問題です。

もちろん、本当に乾燥肌が強く保湿剤が必要な方もいるでしょう。
しかし、中には不当に医師に必要量以上に要求する方もいます。
これは、日本の医療制度を悪用しているのです。
そして、その大半は悪気がない、もしくは悪用している自覚がないのです。

こうした方がいると、全体の医療費増大にも繋がってしまいますね。

また、日本臨床外科学会のホームページでは、日本は国際比較において受診回数が多いことや、医療費における医療費比率が高いことも指摘しています。

参照:
日本臨床外科学会 「日本の医療費と医療を正しく理解するために」
日本臨床外科学会名誉会長・外保連名誉会長 出月康夫

みなさんの心がけ一つで、日本はもっと豊かになります。
「自分だけ良ければいい」と思わずに、日本の医療のことを、頭の片隅に考えて受診してみてくださいね。

参考文献:
1.和彦 西沢. 国民健康保険財政「赤字」の分析. JRI レビュー 2015; 3(22): 27-42
2.Jin J., Wang J., Ma X., Wang Y., Li R. Equality of Medical Health Resource Allocation in China Based on the Gini Coefficient Method. Iran J Public Health 2015; 44: 445-457
3.皿谷 麻子. 大都市圏における医療費の都府県内格差と都府県間格差. 厚生の指標 =
Journal of health and welfare statistics 2018; 65: 31-8

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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