日本最大規模の刑務所イベント、2024年全国矯正展をレポート!再犯防止を支える人たち〜職業訓練と就労支援〜
〈目次〉
全国矯正展とは?
全国矯正展(全国刑務所作業製品展示即売会)とは、年に一度、法務省の「社会を明るくする運動」中央推進委員会・公益財団法人矯正協会が主催で開催されるイベントです。第64回を迎えた全国矯正展は昨年に引き続き、東京国際フォーラムで開催されました。
全国矯正展では、刑務作業の現状や重要性だけではなく、矯正行政について一般市民に広く理解してもらうため、国が取り組んでいるさまざまな施策等について広報を行っています。また、実際に受刑者が製作した刑務所作業製品の展示・即売も実施されています。
全国矯正展の目的
受刑者の数は年々減っているものの、再犯者率の高さ(令和4年:47.9% 令和5年版犯罪白書より)は日本の現代社会における大きな課題です。出所者の再犯防止を防ぐため、各矯正施設の取り組みや矯正行政が果たしている役割などを、全国矯正展を通じて一般市民に伝えています。矯正に関する理解を多くの人が深めることで、各地域における出所者の受け入れ体制が整いやすくなり、新たな犯罪を生むことのない安心・安全な社会の実現を目指せます。
また、第64回全国矯正展のテーマは「再犯防止を支える人たち〜職業訓練と就労支援〜」です。再犯防止に努める矯正活動を来場者に知ってもらうことを目的として開催されました。
全国矯正展はどんな内容?
(引用元:法務省)
第64回全国矯正展は、主に以下の内容で開催されました。
<2024年度全国矯正展の内容>
- 刑務所作業製品の即売・展示
- 全国刑務所作業製品審査会における受賞製品や出品製品の展示
- 矯正広報に関するパネル展示
- 刑務作業体験コーナー
- 性格検査
- バーチャル施設見学
- ステージイベント各種 など
【ステージイベントの詳細】
===11月23日(土)===
9:45〜 オープニングセレモニー・テープカット
10:30~ 少年院映像表現コンクール表彰式
11:00〜 全国刑務所作業製品審查会授賞式
11:30〜 保護犬プロジェクト
12:00〜 刑務所作業製品の動画紹介
13:00〜 Paix² メッセージコンサート
14:00〜 農福連携ミニシンポジウム
14:45~ 特別警備活動要領等披露
16:00〜 横浜創英中学・高等学校吹奏楽部演奏会
===11月24日(日)===
9:45〜 MY fit dance!
10:30〜 再犯防止を支える人たち
11:15〜 刑務所作業製品の開発秘話・作業専門官広報
12:00〜 刑務所作業製品の動画紹介
13:00〜 東京都再犯防止シンポジウム
13:30〜 刑務所作業製品の動画紹介
14:00〜 特別警備活動要領等披露
大いに盛り上がった当日の様子を、イベントレポートとしてお伝えします。
2024年度(令和6年度)の全国矯正展の様子
【日程】
2024年11月23日(土)10:00〜17:00
2024年11月24日(日)9:30〜15:00
【場所】
東京国際フォーラム ホールE
横須賀刑務支所のブルースティックや、横浜刑務所のパスタなど人気の製品に関しては売り切れ必至のため、購入待ちの来場者が殺到していました。
全国矯正展初日の11月23日(土)には、特設ステージにてオープニングセレモニーが開場前に実施されました。俳優の杉良太郎特別矯正監、落語家の桂才賀矯正支援官、タレントのコロッケ矯正支援官、歌手のPaix²のメンバーである 井勝めぐみ矯正支援官、北尾真奈美矯正支援官、歌手のEXILE ATSUSHI矯正支援官、そして、特別ゲストとして警察庁の伍代夏子特別防犯支援官が登壇しました。
登壇者の皆さんは、オープニングセレモニーの前に会場内を視察されました。新商品販売ブースをはじめ、種類豊富な刑務所作業製品や飲食ブースの珍しさに期待と関心の目を向けていました。
杉良太郎 特別矯正監
「鹿児島というと茶葉。刑務所の敷地すべてがお茶畑なんですよ。作った傍から売り切れになるほど、非常に評判が良い。網走刑務所は、黒毛和牛A5ランクの”監獄牛”という牛を育ててますが、私は刑務所ではA5ランクを取らなくてもいいと思っているんですね。A4でいいから一所逸品運動として、安く、広く販売すべきだと考えています。いいものを安く売る。これが矯正展の特徴だと思っていただきたいと思います」
伍代夏子 警察庁特別防犯支援官
「久しぶりの矯正展に参加させていただき、製品の精度がすごく上がっていることやデザインがとてもおしゃれになっていることに驚きました。お安くお買い求めになることができると思いますので、ぜひ皆さま製品を手に取ってひとつは買って帰っていただきたいと思います。私は家具が気になって仕方ないので後ほど見たいと思います」
桂 才賀 矯正支援官
「わざわざ私のために来た、、訳ではございませんね(笑)とっても素晴らしいものがございますので、是非とも手に取って見て、買って帰ってください」
コロッケ 矯正支援官
「どうも、武田鉄矢でございます(笑)。本当に皆さん、今日はお越しいただき、ありがとうございます。私も矯正支援官をさせていただくようになりまして、いろんなことを学ばさせていただいております。各刑務所の素敵なものがたくさんありますから、皆さんひとつでも多くご購入よろしくお願いしたいと思います。購入していただくことで、刑務所などの運営にいい形になることもあります。それでは最後に美川憲一さんで『買ってくのよ〜(笑)』」
EXILE ATSUSHI 矯正支援官
「矯正支援官の活動をさせていただいて8年になります。時を重ねるごとに、矯正展がある意味の理解も深まり、今日は本当に楽しみに来ました。先ほどガラスペンと、茶葉を僕も購入させていただきました。素敵なものがたくさんあるので今日一日楽しんでいってください」
Paix²(ぺぺ)・北尾真奈美 矯正支援官(左)
「鹿児島刑務所で新しく紅茶が作られました。杉さんが厳しく味付けをされたそうで、すごく美味しい紅茶を買って帰りたいと思っております。みなさん、ぜひ全部見てもらっていただけたらと思います」
Paix²(ぺぺ)・井勝めぐみ 矯正支援官(右)
「毎年、テーマに沿って矯正展が行われています。今回は再犯防止に関する活動に携わっている方々をテーマに行われていますので、そのような視点でも会場を回りながら学びの機会にもなればと思います。楽しい一日を過ごしてください」
全国から集結!安くて良質な刑務所作業製品
矯正展の魅力は、質が高く価格も手頃な製品が手に入る点です。全国各地の刑務所が一堂に集まり、会場全体にまるでお祭りのような活気が広がっていました。刑務所というと暗いイメージを持つ方もいるかもしれませんが、出展スタッフの皆さんは鮮やかな法被を着て、来場者に明るい笑顔で声をかける姿がとても印象的でした。
会場入口付近には、矯正管区ごとのおすすめ製品が掲載されたパネルが展示されていました。一所逸品として、施設ごとに、施設いち押しの製品が選定されており、来場者の目に止まりました。地域ごとの特性や特徴ある製品がひと目でわかるパネルで、刑務所作業製品について詳しく知った方も多いでしょう。
会場内の約半分のスペースが刑務所作業製品の展示即売をしており、たくさんの来場者の興味を惹いていました。
鹿児島刑務所の刑務所作業製品と言えば茶葉が有名ですが、今年は新たに紅茶が展示即売されていました。
装飾が美しいことはもちろんのこと、筆記用具としても実用性を兼ね備えており、ペン先にインクをつけて使用するもの。独特な書き心地や紙に書いたときの音を気に入る人が多いそうです。
函館少年刑務所の「マル獄」シリーズに新作が登場しました。このブースは毎回多くの注目を集めています。
今回の全国矯正展では、約2,150品目、総数で約61,000点もの製品が出品されました。今年は新たにアウトレットコーナーが設置され、内訳は、小物が約180品目・約1,900点、靴が約190品目・約3,100点となっています。このコーナーでは販売終了となった製品が特別価格で提供され、最大70%引きで購入できるのは今回限りです。
横須賀刑務支所のブルースティックや横浜刑務所のパスタなどの乾麺は、刑務所作業製品の中でも特に人気が高く、専用の購入列ができるほど注目を集めていました。また、購入点数には1人あたりの上限が設けられていました。
全国矯正展では、購入した商品をその場で配送できるコーナーが設置されているため、大量購入や家具などの大型商品を購入する際も安心です。さらに、3,000円以上の購入者には「お楽しみガチャポン」を引ける特典も用意されていました。
初日には、少年院映像表現コンクール表彰式が行われ、オープニングセレモニー出席者の皆さんから表彰状が渡されました。 表彰式後には、受賞作品の映像が流されました。
少年院広報コーナーでは常時、少年院の映像表現作品が上映されていました。数席の椅子が用意されているため、ゆっくりと鑑賞することができます。
保護犬プロジェクトについて学ぶ
『保護犬プロジェクト』は、殺処分の危機にある野犬を刑務所で引き取り、トレーナーの指導のもと、受刑者が愛情を込めて訓練を行う取り組みです。この訓練を通じて、いずれ家庭犬のように人に懐くようになることを目指しています。犬との触れ合いや訓練の過程が、矯正教育や再犯防止につながることも期待されています。
Paix²(ぺぺ)のメッセージコンサートで会場盛り上がり
11月23日(土)には、女性デュオ・Paix²がメッセージコンサートを開催。今回はフルート奏者も演奏に加わり、豊かなハーモニーで素敵な時間を演出しました。
日頃から刑務所で慰問活動に積極的に取り組んでいるお二人のパフォーマンスは、力強さにあふれており、受刑者の更生への深い想いが伝わってきました。
刑務作業やVR施設見学を体験
製品の展示即売だけでなく、全国矯正展では数多くの体験コーナーが設けられていました。実際に刑務作業を教えている方が、丁寧に教えてくれる貴重な体験ができます。
日本財団の協力のもと、就労支援の一環として、VRを活用した介護における食事介助や重機操作体験ができます。
今年は女子刑務所に内容を刷新。工場での洋裁体験や、介護福祉・美容師の職業訓練等の女子刑務所ならではの処遇を疑似体験できます。また、実際の居室の中に入室したような疑似体験も可能となっています。
VRでの職業体験およびプリズンアドベンチャーは、両日ともに定員が設けられているので人気のコーナーとなっていました。
少年鑑別所職員が実施する「性格検査体験コーナー」では、設問に答えることで自分の性格傾向を知ることができ、無料で体験できます。同伴者同士で楽しみながら体験し、盛り上がる姿が多く見受けられました。
法務省や警視庁の車両展示、刑務官のキッズ制服試着コーナーなどは特に子どもたちに大人気で、多くの方が記念撮影を楽しんでいました。こうした矯正展ならではの体験が、一般の来場者に自然と受け入れられている様子が印象的でした。
全国矯正展ならではのグルメや各地域の物産
全国矯正展では、キッチンカーや飲食ブースが数店出店していました。
キッチンカーの目玉商品が、実際に大阪刑務所で作られているレシピを用いた監獄カレーや「横浜刑務所で作ったパスタ」で作ったパスタで、一度は食べてみたいと行列が絶えない盛況ぶりを見せていました。
鹿児島刑務所の『煎茶』(100円)や北の大地の監獄和牛コロッケ(300円)がリーズナブルなこともあり、買い求める来場者で賑わっていました。
たくさんの方の足を止めていたのは、インパクトのある網走刑務所のプレミアム監獄和牛ステーキ弁当(2,500円)。網走刑務所で刑務作業の一環として飼育されたブランド牛「監獄和牛」を使用し、今回の全国矯正展のために特別に作られた弁当です。
受刑者は刑務所から約7km離れた刑務所用地「二見ケ岡農場」の宿泊施設に住み込み、約70頭の牛を育てています。近年では、高ランクの「A5」を獲得する牛も増えており、飼育技術の向上が注目を集めています。
府中刑務所で作られたコッペパンや、刑務所や少年院で栽培された野菜は非常に手頃な価格で販売されており、購入を希望する来場者の行列が絶えませんでした。
矯正行政で注目されている「農福連携」は、農作業が一般的な刑務所作業と比べて太陽を浴びる時間が多いのが特徴です。最初は慣れないこともありますが、長期的には出所者の精神面や肉体面の健康に良い影響を与えるとされています。
刑務所や少年院だけでなく、さまざまな地域の物産販売ブースもたくさん出店していました。地域の魅力が感じられる商品が並び、お買い物に彩りが添えられたようです。
法務省矯正局等の矯正に関する取り組みについて
令和7年度より施行予定の「拘禁刑」の概要を詳しく紹介。今の日本における矯正行政のあり方を伝えていました。他にも矯正に関する国の取り組みを各所でパネル展示していました。
従来は、刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる「懲役刑」と、刑事施設への拘置のみの「禁錮刑」が法において定められていました。この度の改正で、懲役刑・禁錮刑は「拘禁刑」へと移行し、受刑者個々の資質や環境に応じて作業・改善指導・教科指導を行います。所定の作業を行うことがこれまでの懲役刑では必須でしたが、拘禁刑では受刑者1人ひとりがより円滑に社会復帰することを目指した内容へと変容しているのが特徴です。
法務省矯正局として、能登半島地震の支援活動をしているパネルが展示されていました。刑務所や少年院に関する矯正活動だけでなく、被災地支援を行っています。
少年院の矯正活動などについての広報パネルや、少年院の少年たちが描いた作品の展示も行われていました。
今回の全国矯正展のテーマである「再犯防止を支える人たち〜職業訓練と就労支援〜」にも非常に関係する「コレワーク(矯正就労支援情報センター)」のブースや、矯正職員採用コーナーもあり興味ある方が詳しく聞ける場が設けられていました。
矯正協会による出版物の展示販売や、令和5年12月に運用開始された「被害者等の心情等の聴取・伝達制度」の概要の紹介がされていました。
全国矯正展を通じて国民に伝えたいこと
全国矯正展は、受刑者の改善更生や円滑な社会復帰を図るためにどんな取り組みをしているのか、刑務所作業製品の販売や各種広報等を通じて社会に広く伝えることを目指しています。
受刑者数減少の一方で再犯者率が高く推移している背景には、刑期を終えて刑務所から出ることができても、社会の受け入れ体制が整いきっていないことが窺えます。刑務所と社会の間にある隔たりをできるだけなくすために、各矯正施設が改善更生により一層力を入れ、出所者が社会復帰した後も再犯を生まない社会づくりを目指していることが、全国矯正展を通して改めて伝わってきました。
第64回全国矯正展は、2日間を通して約3.6万人の来場者が訪れました。
法務省矯正局とは?
矯正局は、犯罪や非行をした人たちを収容する矯正施設(刑事施設(刑務所、少年刑務所、拘置所)、少年院、少年鑑別所、婦人補導院をまとめて『矯正施設』といいます。)における業務がよりよく運用されていくように、計画や提案をしたり、指導・監督をしています。 (引用:法務省 矯正局)
法務省矯正局の沿革
法務省矯正局の歴史をさかのぼると、その歩みは約140年にもわたります。
明治12年に「内務省監獄局」として発足し、その後、司法省・法務府・法務省等の内部部局として、名称も「行刑局」「刑政局」「矯正保護局」等に変遷。それらを経て、昭和27年に現在の名称となりました。
法務省矯正局の概要
矯正施設(刑務所・少年刑務所・拘置所・少年院・少年鑑別所)の保安警備、分類保護、作業、教育、医療、衛生など被収容者に対する処遇が適正に行われるよう指導、監督するとともに、最近の矯正思潮に沿った新しい処遇方法についての調査研究など矯正行政全般に関する事務をつかさどっています。
多職種からなる矯正職員が協力して、受刑者の逃走等を防止し、犯罪や非行をした人たちが科された刑罰や処分を受け止め、矯正施設の中でしっかりと矯正処遇に取り組むよう導くことで、自らの罪を反省させ、償わせることは重要な目的です。それだけでなく、円滑に社会復帰できるように、再犯・再非行を防止することも欠かせません。それにより、国民が犯罪被害を受けることのない、安全・安心に暮らせる社会の実現を目指しています。
昨年(2023年)の「全国矯正展」の記事はこちらから。