TRON2024プログラミングコンテスト表彰式 〜リアルタイムOSで実用的な未来を描く~

2024年12月11日〜13日までの3日間、『2024 TRON Symposium』が開催されました。

1984年から始まったTRONプロジェクトは、今年で40周年。昨年まで東京ミッドタウンホールで開催していましたが、今年は渋谷PARCO DGビル カンファレンスホールに場所を移しての開催です。

本記事では、12月12日に行われた「TRONプログラミングコンテスト表彰式」についてお伝えします。

<目次>

「TRONプログラミングコンテスト2024」について

TRONプログラミングコンテスト2024について

TRONプログラミングコンテストは、世界標準のリアルタイムOS「μT-Kernel(マイクロ・ティー・カーネル) 3.0」と、最新のマイコンを使用したアプリケーション、ミドルウェア、開発環境、ツールなどのプログラムを募集するコンテストです。

TRONプロジェクトリーダーである坂村氏は、「本コンテストは、リアルタイムOSの開発という、専門性が高くあまり周知されていない分野に対して、多くの方に興味を持っていただき、さらに全体レベルを向上させるという趣旨で作ったコンテストです」と語ります。

コンテストは以下の3部門で構成。各部門では最優秀賞、優秀賞、特別賞が用意され、総額500万円の賞金が授与されます。

  • RTOSアプリケーション部門(学生部門・一般部門)
  • RTOSミドルウェア部門
  • 開発環境・ツール部門

本コンテストのスケジュールは、下記のとおりに進行しました。

  • 参加エントリー期間       :2023年12月11日(月)~2024年3月31日(日)
  • 応募プログラムの計画書の提出  :エントリー申請後~2024年3月31日(日)
  • エントリー審査および結果の連絡 :2024年4月1日(月)~2024年4月12日(金)
  • プログラム応募期間       :2024年4月13日(土)~ 8月31日(土)
  • 表彰式             :2024年12月12日(木)

「TRONプログラミングコンテスト2024」のスケジュールと各受賞作品は?

TRONプログラミングコンテスト2024の受賞の4つのポイント 
「TRONプログラミングコンテスト2024」の各受賞作品のポイントを語る坂村氏

今回のTRONプログラミングコンテストには、61件のエントリーがあり、そのうち実際に応募された作品は30件でした。応募作品に対し、坂村氏とマイコン提供各社の審査員による厳正な審査が行われました。

坂村氏は受賞作品の選定基準について、以下の4つのポイントを挙げています。

  1. 「しっかりとした動作をするかしないか」
  2. 「実現性・実用性・独創性・将来性があるか」
  3. 「リアルタイムOS μT-Kernel 3.0の特徴をうまく活用しているか」
  4. 「オープンソースにして誰でも使えるようにするか」

 これらの基準を総合的に判断した結果、優秀賞3件、入賞5件、激励賞2件が選ばれました。

表彰式の様子

表彰式では各部門の受賞者が登壇し、賞状と記念品が贈呈されました。

RTOSアプリケーション(一般部門)

優秀賞
作品名:人体の圧力値をリアルタイムで測定できる装置のプログラム
受賞者:Jiabin WANG
概 要:パルスセンサーに指を触れることで心拍変動を測定しストレスレベル指数をLCDに表示する人体のストレスチェッカー
RTOSアプリケーション部門優秀賞 Jiabin WANGさんコメント

Jiabin WANG氏が開発した作品は、センサーのELCDを効率的に制御するマルチタスク設計で、技術力と実用性を見事に融合させたものでした。

「最新のマイクロコンピュータでの募集とのことで、楽しく開発できました」と語るWANG氏。

坂村氏は、「実用性が非常に高く、センサー、LCDをμT-Kernel のマルチタスクで制御し、かつ低消費電力を考慮した設計が審査員から高い評価を得た」と評し、今回の受賞理由を明かしました。

入賞
作品名:サブセットPLCインタプリタ
受賞者:湯澤 竜也
概 要:μT-Kernel+micro:bitでPLC(Programmable Logic Controller)を実現

受賞式に欠席された湯澤氏に代わり、坂村氏がその作品について次のようにコメントしてい
ます。

「PLC の実用的な学習教材として役立つ有用なシステムになっており、自作拡張基板もプリント基板を起こしてしっかりと作られている点が審査員から評価された」

入賞
作品名:職住環境チェッカー
受賞者:奥田 顕浩
概 要:温度・湿度·照度·色温度·CO2濃度をリアルタイムで測定してLCDに表示
RTOS アプリケーション部門優秀賞 奥田さん コメント

「このアプリケーションは、自分自身がほしいと思っていたものを体現しました。今いる空間が仕事やリラックスにふさわしい指標かを示すものです」と、奥田氏は受賞作品について語りました。

RTOSアプリケーション(学生部門)

優秀賞
作品名:マイコンde協調型自動運転
受賞者:同志社大学ネットワーク情報システム研究室
概 要:micro:bit搭載のロボットカー(maqueen)をコース上で同時に複数台動かした上で、同じ区間に複数のmaqueenが進入して衝突することがないように制御
RTOS アプリケーション部門優秀賞 同志社大学ネットワーク情報システム研究室コメント

同志社大学ネットワーク情報システム研究室が開発した「マイコンde協調型自動運転」は、micro:bitを搭載したロボットカー「maqueen」を用い、複数台の車両を同時にコース上で制御する画期的なシステムです。

受賞に際して、以下のように語られました。

「これまで組み込みシステムやリアルタイムOSを扱った経験がありませんでしたが、研究・開発できたうえに、賞までいただけて嬉しく思います」

入賞
作品名:Pawpaw
受賞者:李 きん佳
概 要:飲水容器に水位センサーとジャイロセンサーを取り付け情報を取得し、デジタル植物やデジタルペットによって、飲水を促すシステム
RTOSアプリケーション学生部門入賞 李さんコメント

「開発時間が短い中で、なんとか仕上げることが出来ました。まだ未完成な部分もあるので、来年挑戦する機会があれば再度挑戦したいです」と、受賞した李氏は、次回への意欲を覗かせました。

RTOSミドルウェア部門

入賞
作品名:MQTTプロトコルによる通信を実現するためのライブラリ
受賞者:久保寺 祐一
概 要:μT-Kernel 3.0でMQTT通信を実現するためのライブラリ「mtk3bsp2_mqtt」
RTOSアプリケーションミドルウエア部門入賞 久保寺さんコメント

受賞に際し、久保寺氏は次のように語りました。

「久しぶりにμT-Kernelに触れてみたいと思い応募しました。実は私は、坂村研究室の出身
者なんです」

入賞
作品名:Comado
受賞者:本谷 茂
概 要:組込みマイコンのためのウインドウシステム
RTOSミドルウェア部門入賞 本谷 茂さんコメント

受賞した本谷氏は「まさか受賞するとは思っていなかったので、率直にうれしい。オープンソースにして、改良を重ねていきたいです」と、受賞の喜びを表現しました。

激励賞
作品名:ハウスOS想定の後付けリモートスイッチシステム ATA-02
受賞者:須藤 義明
概 要:トロンフォーラムが提唱するハウスOSの理念を取り入れ、家庭内のスイッチ操作を自動化する次世代スマートホームシステム
RTOSミドルウェア部門 激励賞 須藤 義明さん コメント

激励賞を受賞した須藤氏。「25年前はTRONの実証事例の研究員として携わっていたので、とても懐かしく感じながら取り組むことが出来ました」と、コメントしました。

開発環境・開発ツール部門

優秀賞
作品名:NT-Shell・CppUTestを使用した簡易テスト環境
受賞者:阿部 耕二
概 要:組込み向けシェルライブラリNT-Shellと、 C/C++向けユニットテスト・フレームワークCppUTest (共にオープンソース)を利用したμT-Kernel 3.0用の簡易テスト環境
開発環境・開発ツール部門 優秀賞 阿部 耕二さん コメント

阿部氏が開発した「NT-Shell・CppUTestを使用した簡易テスト環境」は、オープンソースツールを巧みに組み合わせたことで開発者の負担を軽減し、テスト効率を向上させる実用的なシステムとして高く評価されました。

「日頃の開発現場で自分が困っていることを、実際に体現してみたいと思い制作しました」と、コンテスト応募の動機を明かしました。

激励賞
作品名:mtdbg
受賞者:西田 雄亮
概 要:UART経由でPCからμT-Kernel/DSの呼び出しができるリモートデバッガ
開発環境・開発ツール部門 激励賞 西田 雄亮さんコメント

激励賞の受賞にあたり、西田氏は次のように語りました。

「大学時代の友人に聞いて応募しました。まだまだ改善点はあるが、受賞したのは嬉しいです」

式の後半には、各受賞者による作品紹介と、マイコン提供各社の審査員による講評が行われ、盛況のうちに幕を閉じました。

坂村氏の講評

「TRONプログラミングコンテスト2024」についての講評 坂村氏
「TRONプログラミングコンテスト2024」の講評をする坂村氏

各部門の受賞者が発表された後、坂村氏による講評が行われ、受賞者たちを祝福するとともに、コンテストの意義や今後への期待を語りました。

「受賞者のみなさん、コンテストまでの限りある時間の中で作品を形にして、各賞を受賞されておめでとうございます。本コンテストは、リアルタイムOSの組み込みシステム・μT-Kernel3.0の特質を理解していたかを重視しました。審査員の間でも、μT-Kernel3.0を使ったからこそ生まれる実用的なアイデアがみたいとの声もありました。これから回を重ねるごとに、ブラッシュアップして良い作品が生まれることを期待しています」

この坂村氏のコメントは、次世代の技術者たちがリアルタイムOSの可能性を広げていくことへの期待感を感じさせるものでした。

「TRONプログラミングコンテスト2025」の予告

「TRONプログラミングコンテスト2025」予告
「TRONプログラミングコンテスト2025」について説明する坂村氏

コンテスト表彰式の最後には、次回「TRONプログラミングコンテスト2025」の予告が行われました。次回は、これまでの「μT-Kernel 3.0」の有効活用に加え、新たにAI部門の新設が予定されています。

坂村氏は次のように述べ、AI部門の設立に対する意欲を語りました。

「プログラミングを書く工程でAIが使われる流れ、AIシステムが全世界に社会実装される動きに対応し、組み込み分野においてもAIの利用が高まるでしょう。それを見越して、コンテストにもAIを積極的に活用する部門を段階的に新設していきたいと考えています」

「TRONプログラミングコンテスト2025」の詳細は、2025年1月21日に発表予定です。最新情報をチェックして、ぜひ次回の挑戦に備えましょう!

TRONプログラミングコンテスト2025

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