
50歳間近のある日、英語の書籍を読破しているときに外国語の書籍を読む素晴らしさに目覚めた宮崎伸治氏。そのとき閃いたことは「外国語の書物が読めれば、過去に異国の地に住んでいた偉人とも“対話”が可能になる」だったそうです。その後、まったくゼロからフランス語、イタリア語、中国語、韓国語、ロシア語、タイ語…を完全独学で開始し、12年の間、1日も欠かさず勉強しているそうです。そんな宮崎氏に今、伝えたいことをお聞きしました。
宮崎氏が今、伝えたいこと
ー50歳から多言語学習を始められ、その後12年の間、1日も欠かさず勉強に励んでおられるとのことですが、これは相当強い動機がなければ続かないことだと思います。何が宮崎さんを動かしているのでしょうか
外国語は勉強しても勉強してもなかなか上達しません。それは私も同じです。楽しい側面もありますが、その反面、苦しい側面もたくさんあるのです。上達している感覚が得られないと、投げ出したくなるのはほとんどの人が経験することだと思います。
それほど苦労が多いのに12年の間、1日も欠かさずに続けられているのは、たとえ苦しい側面があったとしても、トータルで見れば「外国語学習はいいことだらけだ」と堅く信じているからです。外国語を学習すればするほど、さらにその信念が強固なものになってきているのです。
そして外国語学習の素晴らしさを享受すればするほど、その素晴らしさを世間の人に伝えたいと思うようになり、それが私の使命だとさえ感じるようになったのです。自分の使命だと思っているからこそ、長く続けられているというのがあります。
ーさきほど「外国語学習はいいことだらけ」とおっしゃいました。では、どんな「いいこと」があるのでしょうか。そしてそれは一般の人でもその「いいこと」を享受できるのでしょうか
まず、一般の人でも「いいこと」を享受できるか否かについてお答えしましょう。答えは、イエスです。だれでも享受できます。高齢の人でも、まったく学んだことのない外国語をゼロから始める人でも、海外に行く機会の無い人でも、あまりお金をかけられないという人でも、だれでも楽しめるのが外国語学習です。しかもいろいろな楽しみ方ができますので、最高の趣味といっても言い過ぎではないように思います。
語学は若いうちに勉強を始めなければ上達しないと思っている人が多いと思いますが、語学の上達にはさまざまな要因が絡んでいるので、高齢になったら上達しないというわけではありません。50歳から、まったくのゼロからフランス語、イタリア語、スペイン語、中国語、韓国語、ロシア語…と開始して、原書を読破できるようになっている私がその一例です。

ーでは、「いいこと」とはどのようなことでしょうか。海外の作品をダイレクトに理解できるとか、海外旅行に行ったときに現地の人と会話ができるといったことでしょうか
もちろん、そのようなことも魅力的なことです。特に今はインターネットに接続すれば、海外の動画は見放題です。自分が関心のある海外の動画を見つければ、楽しみはつきません。
さらに、自分磨きもできます。例えば、MOOCs(インターネットを利用したオンライン講座)を利用すれば、海外の有名大学の講座も受講できます。中には無料で学べるコースもあります。私はMOOCsの一つであるcouseraで、カリフォルニア大学、エジンバラ大学、エモリー大学、ジュネーブ大学などの講座を終了しています。
ーでも、それは英語さえできれば達成できそうな気もするのです。それなのに宮崎さんは8か国語も勉強されています。英語だけではダメでしょうか
もちろん英語だけでもかまいません。しかし、英語以外の外国語を学ぶ利点もたくさんあるのです。例えば、その1つが脳トレになるということです。英語がある程度できるようになった人が英語を勉強し続けていても、もはや脳トレの効果は限られています。なぜなら、その人にとって英語はそれほど難しいことではなくなっているからです。難しくないことは脳トレにはならないのです。
しかし、その人が英語以外の外国語に挑戦すれば、難しいがゆえに脳トレになるのです。実は外国語学習で脳トレをすれば、記憶力、集中力、言語処理能力、推論能力などさまざまな力が磨かれるのです。ワーキングメモリも増えますし、認知症予防にもなります。それでいて楽しめる。これほど素晴らしい脳トレはあまりないと思います。
ーこのたび宮崎さんは「50歳から8か国語を身につけた翻訳家の独学法」を出版されました。ちまたに語学書はたくさん出ていますが、特に宮崎さんが多言語学習に関して主張したいことはありますでしょうか?
私が多言語学習をお勧めする理由は、それが「日本人的単眼思考」から抜け出すきっかけになるからです。人間は“見慣れないもの”に対して偏見を持ちやすいのです。しかし、“見慣れないもの”からといって「おかしなもの」とは限りません。
多言語を学習すれば、いやおうなしに“見慣れないもの”に触れることになります。まず言葉の使い方が違います。文化も風習も違います。考え方も違います。違うことだらけなのです。だからこそ“見慣れないもの”の価値を考えるきっかけになるのです。そして“見慣れないもの”に対する偏見が解ければ、他文化や他者に対しても寛容になれるのです。
ー最後に一言、読者に対して言っておきたいことはございますでしょうか?
外国語学習は何歳からでも始められます。いろいろな楽しみ方ができますし、お金をあまりかけたくなければ、あまりかけずに楽しむ方法もあります。インターネットにつながる環境があれば、世界中の動画も見放題ですし、海外の本も輸入できます。しかも脳トレになりますし、“見慣れないもの”に対する偏見を解くきっかけにもなるのです。
これからの日本は外国人を多く受け入れる国になることが予想されます。異文化に対する偏見を取り除く上でも、多言語学習を始めることをぜひお勧めしたいです。
(プロフィール)

作家・講演家 宮崎伸治
1963年、広島県生まれ。現在、東京在住。作家・講演家。青山学院大学国際政経学部卒、英シェフィールド大学大学院言語学研究科修了、金沢工業大学大学院工学研究科終了、慶應義塾大学文学部卒、英ロンドン大学哲学部卒および神学部サーティフィケート課程修了、日本大学法学部および商学部卒。約60冊の著訳書がある。
50歳間近になってから多言語学習の素晴らしさに目覚め、その後12年の間、1日も欠かすことなく学習に励む。取得した主な語学関連資格は、英検1級、オックスフォード大学英検上級、独検2級、仏検準2級、伊検3級、西検4級、中検3級、HSK5級、ハングル検定5級、TOPIK1級、ロシア語検定4級。英語の原典は数千冊読破しているが、それに加え、フランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、中国語、韓国語、ロシア語の原典もトータルすれば数百冊は読破している。
現在、多言語学習に励む一方、多言語学習に関する講演や執筆を行っている。最新刊に『50歳から8か国語を身につけた翻訳家の独学法』(青春出版社)がある。