日本人は座り過ぎ?思ったより体に悪影響な「座りっぱなし」

「日本人は座り過ぎ?思ったより体に悪影響な「座りっぱなし」」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

デスクワークや趣味のゲーム、自動車での移動と、現代を生きる私たちは座って過ごす時間が非常に長くなっています。
そして、世界の中で最も座って過ごす時間が長いのは、私たち日本人なのです。

2011年に発表されたシドニー大学の研究では、世界の座っている時間の平均が5時間なのに対して、私たち日本人は、なんと平均して7時間も座って過ごしているのです。(参考:The Descriptive Epidemiology of Sitting: A 20-Country Comparison Using the International Physical Activity Questionnaire (IPAQ))

「日本人が座りすぎているのはわかったけど、それが何か問題あるの?」と思われた方も多いかと思いますが、実は大きな問題があるのです。
今回は、座りすぎることが体に与える悪影響を解説します。

座り過ぎが体に与える悪影響とは

2020年に世界保健機関(WHO)が発表したガイドラインでは、「座りすぎ」が健康を害し、心臓病やがん、2型糖尿病のリスクを高めることを明記しています。
(参考:WHO 身体活動・座位行動ガイドライン)

なぜ長時間座ると、体に悪いのでしょうか。
長時間座っていると、脚を動かさない時間が多くなります。実は、体の筋肉の7割は脚に存在し、これだけの筋肉が長時間動かない状態になると、代謝が落ちてしまいます。
そのため、血液中に存在する脂質の代謝が低下して、脂質異常症になったり、血液中の糖の代謝が落ちて、糖尿病になったりする確率が上がってしまいます。脂質異常症や糖尿病は、動脈硬化を引き起こし血管を詰まらせます。その結果、脳梗塞や心筋梗塞など重大な疾患に繋がってしまうのです。
京都府立医科大学の研究では、座っている時間が長いほど死亡リスクが増加することが明らかになっています。日中の座位時間が2時間増えると、死亡リスクが15%増加するという、なかなかに衝撃的なデータが出ているのです。

また、脚は「第二の心臓」といわれます。
重力に従って下に分布する血液を、心臓の力だけで汲み上げるのは大変で、足の筋肉の動く力で、血液を上に戻すための手助けをしています。
そのため、足の筋肉が動かないと、血液が脚に溜まり気味になり、血流が滞ります。
これにより、足のむくみが起こったり、血流が滞った部分で血液が固まり、血管を詰まらせる深部静脈血栓症のリスクになったりするのです。

高齢の方の場合には、座りっぱなしで足を動かさないと、筋力が低下してしまったり、認知症のリスクが上がったりするなど、さらに大きな影響があります。
座っているのが楽だからといって、ずっと座っているのは危険なのです。

長時間座ることの悪影響を回避するために

長時間座ることの悪影響についてわかったところで、次はその悪影響を避けるためにどのようなことを実践するべきなのかについて見ていきましょう。

わかりきったことですが、長時間座ることの悪影響を避ける最も有効な対策は、「長時間座ることを避ける」ことです。
しかし、この対策をするにあたって、勘違いしがちなことがいくつかあります。
そこに注意して対策をする必要があります。

まず、よくある勘違いとして「座ること自体が体に悪い」と考えてしまうことです。
ずっと立っていることが良いのではなく、疲れたときに座るのは問題ありません。
また、ただ長時間立っていればいいというわけではなく、立ったまま全然動かなければ、ずっと座っているのに近い悪影響があります。
一番の問題は、「座って動かない時間が長すぎること」です。

もう一つありがちな勘違いは、「長い時間座ったけど、その後しっかり運動したから大丈夫」と思ってしまうことです。
普段、デスクワークで長時間座り、土日は運動している、という人も多いかもしれませんが、これは長時間座る悪影響を受けてしまっています。
先述の京都府立医科大学の研究でも、「余暇時間の運動活動量を増やしても、長時間座っていることの影響を完全に抑制できない」と記載されています。

厚生労働省が発表した、健康づくりのための身体活動・運動ガイドライン2023では、歩行またはそれと同等以上の身体活動を1日60分以上行うことを推奨しています。
これを満たそうとすると、週末に集中して運動するのでは足りず、平日の空いたタイミングで運動する意識を持つ必要があります。
週末に運動するのは、もちろん素晴らしいことですが、座って過ごす時間が30分をすぎたら、一度立ち上がってストレッチなどをする、車や電車だけの移動でなく歩いて移動することを心がける、なるべく階段を使うなどの対策が重要です。

テレワークの人であれば、スタンディングデスクを使うのも有効です。
ついついスマホをみてぼーっとして時間を過ごすと、長く座りがちなので時間を区切って運動の時間に切り替えるなども有効です。

こまめな運動で座りっぱなし生活を変える

今回は、座りっぱなしで過ごすことの悪影響について解説しました。

運動せずにずっと座っていることは、想像以上に体に悪影響を与えます。
運動をこまめにすることが、健康寿命を伸ばすのに大きな役割を果たします。
ぜひ空いた時間を活用して、座りっぱなしな生活を変えましょう。

参考文献:
1.Hongying Shi,Frank B Hu,Tianyi Huang,et al. Sedentary Behaviors, Light-Intensity Physical Activity, and Healthy Aging.JAMA Netw Open. 2024 Jun 3;7(6):e2416300. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2024.16300
2.Dori E Rosenberg, Weiwei Zhu, Mikael Anne Greenwood-Hickman, et al.Sitting Time Reduction and Blood Pressure in Older Adults: A Randomized Clinical Trial.AMA network open. 2024 Mar 04;7(3);e243234. pii: e243234
3.Wayne Gao, Mattia Sanna, Yea-Hung Chen, et al.Occupational Sitting Time, Leisure Physical Activity, and All-Cause and Cardiovascular Disease Mortality.JAMA network open. 2024 Jan 02;7(1);e2350680. pii: e2350680
4.Hiroya Kono, Kento Furuta, Takumi Sakamoto,et al.Effects of Standing after a Meal on Glucose Metabolism and Energy Expenditure.International journal of environmental research and public health. 2023 Oct 17;20(20); pii: 6934
5.Satomi Tomida, Teruhide Koyama, Etsuko Ozaki,et al. Seven-plus hours of daily sedentary time and the subsequent risk of breast cancer: Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort Study.Cancer science. 2024 Feb;115(2);611-622. doi: 10.1111/cas.16020
6.Joanna M Blodgett, Matthew N Ahmadi, Andrew J Atkin,et al.Device-measured physical activity and cardiometabolic health: the Prospective Physical Activity, Sitting, and Sleep (ProPASS) consortium.European heart journal. 2024 Feb 07;45(6);458-471. doi: 10.1093/eurheartj/ehad717
7.Edvard H Sagelv, Laila Arnesdatter Hopstock, et al.Device-measured physical activity, sedentary time, and risk of all-cause mortality: an individual participant data analysis of four prospective cohort studies.British journal of sports medicine. 2023 Nov;57(22);1457-1463. doi: 10.1136/bjsports-2022-106568
8.David A Raichlen, Daniel H Aslan, M Katherine Sayre,et al.Sedentary Behavior and Incident Dementia Among Older Adults.JAMA. 2023 Sep 12;330(10);934-940. doi: 10.1001/jama.2023.15231

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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