
福島第1原発の事故から14年が経過する中、事故当時の安全管理を担っていた東京電力の元経営陣に対する刑事裁判が最終局面を迎えました。最高裁第2小法廷は5日、業務上過失致死傷罪で起訴された元幹部の無罪判決を確定させる決定を下しています。
岡村和美裁判長を含む最高裁第2小法廷は、検察官代わりとなった指定弁護士からの上告を退ける形で、これまでの無罪判断を支持しました。この決定により、史上最悪レベルの原発災害を巡る刑事責任の追及は事実上終了することになります。
刑事責任を問われたのは武黒一郎氏(78)と武藤栄氏(74)の2名です。もう1人の被告だった勝俣恒久元会長は2024年10月に他界したため、既に裁判手続きが打ち切られていました。
彼らが強制起訴されたのは震災から5年後の2016年2月のことです。起訴内容の核心は、東京電力が津波の危険性を認識しながら適切な対策を講じなかったという点にありました。
同社は震災の3年前、政府機関による地震予測に基づき最大15メートル超の津波の可能性を把握していたものの、その信頼性を理由に対策を先送りしていたのです。
裁判の焦点となったのは、この予測情報の信頼性でした。指定弁護士側は「事故を予見できた」として厳しい処罰を求めましたが、東京地裁は2019年9月、当時の科学的知見では確実性が不十分だったとして無罪判決を言い渡しました。
その後の東京高裁も2023年1月に一審判断を支持し、今回の最高裁決定で三審とも一貫して無罪の判断となりました。最高裁は地震予測に「積極的な裏付けが欠けていた」点などを指摘し、予見可能性を否定した下級審判断の合理性を認めています。
強制起訴制度とは?検察の不起訴判断を覆す仕組み
福島第1原発事故は「強制起訴制度」を通じて裁判に持ち込まれた注目の事例です。強制起訴とは、無作為に選ばれた11人の検察審査員が検察の不起訴判断を覆す仕組みのことです。8人以上が起訴すべきと判断すれば、専門の弁護士が検察官役となって裁判を進めます。
東京電力の事件では、この制度を通じて勝俣恒久元会長や武黒一郎氏、武藤栄氏らが業務上過失致死傷罪で起訴されました。しかし、最終的に全ての裁判所が「巨大津波を予見できなかった」と判断し、無罪が確定しています。
この結果は、市民感覚と専門的判断の間にある溝を浮き彫りにしました。検察審査会は被害者救済のための重要な手段である一方、科学的・技術的な判断を要する事案においては難しい側面も示しています。
強制起訴制度は2009年の裁判員制度開始と同時に本格導入され、市民の司法参加を促進する重要な仕組みとなっています。