ネットトラブルから子どもを守る! SNSトラブル実例と今後の方向性とは(令和6年度 文部科学省 ネット対策地域モデル事業 in沖縄)

インターネットが普及した現在、便利さゆえに依存症に陥る子どもやSNSトラブルに巻き込まれる子どもが増えたほか、インターネット上でのいじめなどの問題もあとを絶ちません。
こうした状況を背景に、2025年2月17日(月)、「令和6年度 文部科学省 ネット対策地域モデル事業 in 沖縄」(主催:アディッシュコンソーシアム)が開催されました。
「ネットトラブルの実態に迫る!ネット社会を安全に生き抜く、大人と子供のためのトラブル予防実例集」をテーマに、基調講演および活発な意見交換が行われた当日の様子をレポートします。
<目次>
第一部 森雅人氏(一般社団法人 刑事事象解析研究所 代表理事)による講演

森雅人氏は、千葉県警の警察官として勤務した15年間で約500件の刑事事件を担当しました。相談を受けた事案の総数は約2,000件。事件化するもの以外にも、多くのトラブルが存在する事実を指摘しています。
森氏が警察官時代に手がけた事件のうち、SNSを介して子どもや若い世代が巻き込まれた2つの事例が紹介されました。
SNSによるいじめ事例
東日本大震災以降、子どもにスマートフォン(以下、スマホ)を持たせる重要性が広く認識されるようになりました。一方、スマホが普及したことでいじめの舞台が、インターネット上へと移行したのも事実です。
ある中学生の少年が、コミュニケーションアプリ「LINE」のグループ内でいじめを受けていた事例がありました。警察が調査したところ、少年が参加していたLINEグループとは別に、少年をメンバーから除いた「裏グループ」が存在していたことが判明しました。少年へのいじめは、この裏グループでのやりとりに端を発するものだったのです。
この事案では、少年の担任教諭をはじめとする周囲の大人たちは裏グループの存在を把握しておらず、学校内での直接のいじめ行為も確認できませんでした。
現代のいじめは、学校の中よりは家庭内で発生する傾向が強まっています。ただし、不幸中の幸いとも言えるのは、インターネットを介したいじめには「証拠が残る」という特徴があることです。
「少しでも嫌な思いをした場合は、スクリーンショットを撮るなど証拠を残すようにしてほしい」と、森氏は語りました。
SNSをきっかけとした性被害事例
SNSを介して、10代から20代前半の女性が売春に巻き込まれた事例も紹介されました。
ある女性は、SNSのダイレクトメッセージでやりとりをしていた男性に対し、次第に恋愛感情を抱くようになり、実際に会って交際が始まりました。その後、一緒に住むようになりますが、実はその男性は「スカウト担当」と呼ばれる売春組織の一員で、女性を組織に引き込み、管理する役割を担っていました。こうして女性は、組織的な管理のもとで売春を強いられるようになります。
組織のルールを守らなければ制裁を加えられる状況のなかで、女性は徐々に心理的に支配され、売春組織から抜け出せなくなっていきました。警察の摘発により助け出されたあとも頑なな態度で、本来の自分を取り戻すまでには長い時間を要しました。
「突拍子もない事件だと映るかもしれないが、日本のごく普通の街で若い女性に起こった事件です」という森氏の言葉が印象的でした。
第一部 新垣和哉氏(うるま市立あげな中学校 学校長)の講演

うるま市教育委員会、沖縄県教育庁義務教育課を経て、沖縄県警察本部少年課への出向経験も持つ教員の新垣和哉氏による講演では、沖縄県内の学校現場におけるトラブル事例と対応について取り上げられました。
沖縄県の教育現場での現状
教育現場にいる新垣氏から見て、テレビよりもYouTubeを視聴する子どもや、シューティングゲームに熱中する子どもたちの比率は高いとのこと。チャットなどを通じて他者と交流している子どももいて、デジタル機器は日常生活の一部となっています。その一方で、プログラミング教育の観点から考えると、スマホやゲームを一切禁止するという極端な対策はナンセンスです。
ただし、スマホやゲームにのめり込むあまり、課金がやめられない子どもがいたり、中学生になると盗んだお金をつぎ込んでしまうといった深刻なケースも報告されています。スマホやゲームの過度な使用が依存を招き、問題を深刻化させてしまう現状も見過ごせません。
沖縄県の教育現場での対応
沖縄県内でも、SNSによるいじめの事例が確認されています。いじめは加害者と被害者の問題だと捉えられがちですが、傍観者や観衆と呼ばれる第三者たちの果たす役割が重要なケースも少なくありません。新垣氏は「いじめは加害者と被害者だけの問題でなく”集団の問題”である」と、子どもや保護者たちに伝えています。
また、将来を脅かしかねない「デジタルタトゥー」の問題についても触れています。不適切な情報をインターネット上に投稿することの危険性はもちろん、軽い気持ちでいたずら写真をSNSで公開したために、刑事罰や損害賠償、学校退学といった大きな代償を負うケースがあることを教えています。
子どもたちに伝えたいこととして「SNSへ投稿する前には5秒待ち、それが誰に読まれても、誰に見られても恥ずかしくない内容のみを書き込むようにして欲しい」と、新垣氏は強調します。
さらに、育児における親の「スマホ・ネグレクト」も問題視されていることから、保護者への働きかけにも注力しているそうです。「スマホから少しでも離れることで、さまざまなものに気づける。大切なことを見失わないでほしい」と新垣氏は言葉を結びました。
第二部 パネルディスカッション「子どもをネットトラブルから守るために適切な情報教育を」

第二部のパネルディスカッションでは「地域全体で青少年を守るために大人が今できること」をテーマに意見交換が行われました。ファシリテーターは、冨田幸子氏(一般社団法人ソーシャルメディア研究会主席研究員/甲南女子大学講師)、登壇者は下記の4名です。
- 森雅人氏(一般社団法人 刑事事象解析研究所 代表理事)
- 新垣和哉氏(うるま市立あげな中学校 学校長)
- 安里幸治氏(那覇地区PTA連合会 会長)
- 吉田慶太氏(文部科学省 総合教育政策局 安全教育推進室 室長)
全国の子どもたちに比べ、沖縄県の児童・生徒たちのインターネットやスマホへの依存度が高いという調査結果が、冒頭で示されました。
この結果を受けて、安里幸治氏からは「幼児期におけるスマホの与え方について、保護者にお話しできる機会が増える施策を行うことが課題のひとつ」との意見が出ました。森雅人氏からも「インターネットやスマホに関するリテラシーは、学校によって温度差があるのが現状」との意見が出るなど、情報との関わり方をいかに子どもや保護者に適切に伝えていくかが、共通の課題として捉えられていることがわかります。
こうした課題をふまえた今後の方向性として、新垣氏は「教育現場では教科横断的に、SNS利用にあたっての情報モラルを指導していく。時代の変化に合わせた指導ができるよう、学校現場だけでなく社会全体で取り組む必要がある」と述べました。
那覇地区PTA連合会も、保護者の資質向上を目指しながら、社会を巻き込んで子どもたちのインターネットリスクを軽減するために活動を継続していくとしています。

文部科学省の吉田慶太氏は「子どもが直面する状況に合わせた『使える資料』を活用し、全国に向けて情報モラル教育を発信していくとともに、青少年が主体となって取り組む活動も広めていきたい」と話しました。さらに、ファシリテーターの冨田幸子氏からは「子どもに対する教育だけでなく、保護者に対しても積極的に啓発していくことが大事なのだと改めて感じました」との発言がありました。
子どものネットトラブル未然防止に向けて
乳幼児期から情報端末に触れる現代の子どもたちをネットトラブルから守るためには、家庭や学校、地域はもちろん、社会全体での取り組みが必要です。インターネットやスマホを介したトラブルは多岐にわたり、時代の変化とともにその内容も複雑化しています。こうした状況に対し、学校だけで対応するには限界があります。
情報ツールの利用を制限するのではなく、安心・安全に利活用しながらトラブルを未然に防ぐためには、「大人」がその重要性について認識を深め、教育現場や保護者、行政、地域、企業など、それぞれの立場から連携して取り組み、子どもたちの情報モラルや判断力を育んでいくことが重要であることが、改めて浮き彫りとなったイベントでした。