
企業取引の決済手段として日本経済を支えてきた手形・小切手制度が2026年度末をもって終わりを迎えます。全国銀行協会は決済システム「電子交換所」の運用停止方針を固め、明治から続いた伝統的支払方法に区切りをつける予定です。
この制度変更の背景には、デジタル化の進展と下請企業保護の社会的要請があります。手形は支払企業に資金猶予をもたらす一方で、受取側(多くは中小・下請企業)の資金繰りを圧迫するという構造的問題が長年指摘されてきました。
この「力関係の不均衡」を解消すべく、政府は下請法改正案を閣議決定し、法的にも手形払いの禁止へと舵を切りました。
取引実態を見ると、ピーク時には4,797兆円(1990年)あった交換高は、2024年には75兆円まで激減。枚数も1979年比で20分の1以下となり、既に主要決済手段としての役割は大きく後退しています。
金融機関にとっても画像データ化などの煩雑な手続きが負担となっており、廃止への機運が高まっていました。代替手段としては、リアルタイム送金可能なネットバンキングや印紙税不要の「全銀電子債権ネットワーク」への移行が進められています。
2027年以降、企業間での手形授受は理論上可能ですが、換金に応じる金融機関はほぼ皆無となる見通しで、実質的な「全廃」が確実視されています。
紙の手形・小切手廃止がもたらす新たなビジネス環境
2026年度末に予定されている紙の手形・小切手廃止には、明確な理由とビジネスメリットがあります。
廃止の主な理由は、紙媒体特有の時代遅れな課題にあります。資金化までの長い待機期間は受取企業の資金繰りを圧迫し、特に中小企業には大きな負担となってきました。
加えて煩雑な事務手続き、印紙税や郵送コスト、紛失・盗難リスクなど、デジタル時代には不釣り合いな非効率性が目立っていました。
一方で、電子決済への移行でビジネスは多くのメリットを享受できます。まず管理・押印・郵送といった手間とコストが大幅に削減されます。電子システムによる自動処理で支払期日の失念リスクも解消され、セキュリティ面でも格段に向上します。
最大の恩恵は資金繰りの改善です。約束手形では商品・サービス提供後も3〜4ヶ月現金化できない状況が常態化していましたが、電子化により資金サイクルが短縮され、特に中小企業の経営安定化に寄与します。