平均年齢55歳、女子刑務所の知られざる日常。書道家が教える「幸福」の文字に受刑者は何を見たか

山口県岩国市にある女子刑務所

女性だけが収容される刑務所では、どのような日常が営まれているのでしょうか。山口県岩国市にある「岩国刑務所」は、中国地方では唯一の女子受刑者のみを収容している刑務所です。

「女子受刑者のみの刑務所での取り組みを知りたい」
「刑務所が抱える問題は?」
「社会復帰を目指すための活動とは?」

今回はそうした疑問を明らかにすべく、岩国刑務所で働く刑務官と、一般改善指導の一環として「書道」を担当する篤志(とくし)面接委員・岩見屋錦舟さんに話を伺いしました。

岩国刑務所の取り組みや現状、そして今後の課題や受刑者の様子について掘り下げていきます。

短期から無期まで収容する岩国刑務所の課題

岩国刑務所の女性受刑者
岩国刑務所

岩国刑務所では短期から無期まで多種多様な受刑者を収容しています。中国地方では唯一、女子受刑者のみを収容している刑務所であり、女性の刑務官を多く配属しているのが特徴です。また、令和7年4月以降、20歳から26歳未満の若年層の受け入れが減少しており、その反面、長期刑の受刑者の受け入れが増加しています。

共同室の室内には洗面所やトイレは設置されておらず、部屋には施錠もされていません。受刑者は居室から自由に出入りし、共用のトイレや洗面所を利用しています。(共同室および共用のトイレ、洗面所があるエリアに入る扉が施錠されています)
刑務所内で進む高齢化と再犯の課題
刑務所内でも高齢化が進んでおり、2022年時点で岩国刑務所の受刑者の平均年齢は55.5歳となっています。さらに、岩国刑務所が抱える課題には、高齢化だけでなく再犯率の高さや精神疾患や貧困を背景とするさまざまな問題が併存しているとのことです。

刑務官曰く、岩国刑務所に収容されている受刑者のなかでも窃盗の比率が特に高いとのこと。受刑者の半数以上が再犯者ですが、初犯では軽微な犯罪の累積によるケースが多くみられます。

「窃盗といってもほとんどが万引きです。一回目の犯行では刑務所に入ることが少なく、万引きを積み重ねた結果、刑務所に入ることが多い印象です」

そう語る刑務官は、近年窃盗(万引き)での高齢者の数が増えていると感じているといいます。

再犯率を下げるためには、個々に合わせた指導が必要であり、岩国刑務所でも試行錯誤しているのだそうです。実際、出所後の支援は受刑者本人が希望しなければ行うことができません。特に女性の場合、年齢が高くなるほど、支援を断る傾向があるようです。

「出所後に帰る家がある、住所があると本人は話していても、実際には生活できる状況ではないケースも少なくありません。そうした場合、行き場を失い、再犯につながってしまうこともあります。だからこそ、支援を受けてほしいと願っています」

出所後の生活そのものに刑務官が直接関わることはありません。そのため、地域の福祉専門官や保護観察所、地域の支援センターなどと連携を取り、円滑な社会復帰につなげていくことも、刑務官の重要な役割です。

刑務官は、今後の課題として「刑務官のなり手を増やすこと」を挙げています。現代は公務員の人気が低く、募集人員を満たした採用が叶わないそうです。

特に岩国刑務所は女性刑務官が多く、自身の結婚や出産を機に退職する人も珍しくありません。職員が増えると、その分受刑者の改善更生に割く時間が作れるため、人材の定着率をいかに高めていくかも、重要な課題のひとつとなっています。

一般改善指導とは?目的と取り組み内容

岩国刑務所の一般改善指導

2025年6月1日に施行された「拘禁刑」により、従来の懲役と禁錮が見直されました。

それに伴い、改善更生を図るため、日々の作業に加えて必要な指導が行われています。一般改善指導改善とは、受刑者の更生及び円滑な社会復帰を図る目的があり、受刑者の特性に合った指導のことです。

受刑者の特性ごとに分類される矯正処遇課程が新設され、高齢者や精神疾患を抱える人、薬物依存の傾向がある人など、各課程に合わせた処遇が実施されます。

岩国刑務所では、この度新設された「高齢者福祉過程」、通称「DS(Daily care-Senior)」の対象となる、おおむね70歳以上で、認知症や身体障害等により自立した生活を営むことが困難な受刑者を多く収容しています。

高齢者福祉過程・DSと「書道」の取り組み

たとえば「手で書くこと」を通じて、社会復帰に向けた指導も行われています。「手で書くこと」では、一人ひとりの状況や特性に応じた内容で、硬筆の練習をする取り組みです。

篤志面接委員・岩見屋錦舟さん
篤志面接委員・岩見屋錦舟さん

「手で書くこと」の指導を担当するのは、篤志面接委員である岩見屋錦舟さん。取材当日は、18名の受刑者に対して硬筆の指導を行っていました。

「“明日”という字は明るい日と書きます。私たちは過去だけでなく、明日という明るい日に向かって生きていきましょう」

岩見屋さんの言葉に深く頷く受刑者も見られました。この日は「幸福」という字に取り組みます。

「幸福」という字について話す篤志面接委員・岩見屋錦舟さん

縦と横の線で構成される「幸福」は、長い線と短い線の違いや線の余白のバランスが難しいとのこと。受刑者によって書くペースが異なりますが、一人ひとりに目線を合わせ丁寧に指導をされていました。

写真:書いた文字にひとつずつ、丁寧に説明する岩見屋さん
写真:書いた文字にひとつずつ、丁寧に説明する岩見屋さん

月に一度、約一時間の硬筆を通して受刑者と向き合っています。

篤志面接委員に見せる受刑者の新たな表情

篤志面接委員について話す岩見屋さん
篤志面接委員に見せる受刑者の新たな表情

篤志面接委員とは、専門的な知識や技能、経験に基づいた支援を行うボランティアのことです。

法務大臣からの委嘱を受け、全国の刑務所、少年院、拘置所などの矯正施設に収容される人に必要な手助けを行っています。弁護士や司法書士など法律家のほかにも、茶道や華道、一般家庭の主婦など合わせて全国で約1,300人が活動しているそうです。

篤志面接委員として書道を受刑者に指導

元々書道家として活動していた岩見屋さんは、受刑者の社会復帰に貢献したいという思いから篤志面接委員として活動を始めました。また、保護司は出所後の支援が中心であり、目指す方向性は同じではありますが、篤志面接委員とは役割が異なるとのこと。

「官(刑務官)と民の違いがあり、民(篤志面接委員)の空気が入ることによって受刑者の皆さんに与える影響は大きいと思います」

岩見屋さんは、篤志面接委員が「官」で足りない部分を補うため必要な存在であると考えています。官の立場から、365日さまざまな指導をしていても、どうしても十分に関われない部分が生じてしまいます。そうした現状を前に、「自分にも何かできることがあるのではないか」と考え、この活動を続けています。

DS課程では、車椅子や歩行器を必要とする受刑者も多く、運動のような体を動かす指導は難しいのが現状です。そこで、昔から慣れ親しんでいる「字を書く」という指導はどうかという話から、この取り組みが実現しました。手で書くことは、認知症の予防にも効果が期待できるとし、2025年8月に第一回目の硬筆の指導が開始。2026年1月時点では6回目の指導となりました。

「結局、社会復帰を果たすには社会の皆さんが知らねばならぬ」

さらに、岩見屋さんは受刑者の社会復帰のために篤志面接委員の認知を広げることにも意欲を示しています。

「心に訴える指導」が受刑者の更生のきっかけになればいい

受刑者の更生について話す岩見屋さん

「第一回目からみんなが一生懸命に書いているんです。月にたった一回ですが、その限られた時間に一生懸命に取り組んでいる人が何人もいるというのは、効果があるんじゃないかと思います」と、岩見屋さんは話します。

「教育は、必ずしも思い通りの結果につながるものではありません。それでも、何かがきっかけとなり前向きな動機の一助になればいいと考えています。100%やったからといって100%の効果があるものでは決してありません。ですが、無駄なことではないでしょう」

岩見屋さんは、「字が磨かれてくるというのは、実は人として磨かれている証拠」であるとも考えています。少しずつそのような話を入れ込みながら、四季の美しさや俳句などにふれ、受刑者の心に訴える指導を意識しているのだそう。

「他人と過去は変えられないですが自分と未来は変えられます。ただ、覚悟と決意は必要です。だからこそ、明るい未来を見て欲しい」

岩見屋さんが話す言葉には、そんな想いが込められていました。

今後は、拘禁刑の施行により、懲役で仕事をさせるのではなくより個人に合った教育が求められていくのではないでしょうか。今回取材した一般改善指導のような取り組みも、今後は指導や管理の在り方として、さらに幅広く展開されていくことでしょう。

〈写真撮影:東京報道新聞編集部〉

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丸山希商業ライター

投稿者プロフィール

愛媛県出身・広島県在住。
FP2級を保有しており金融記事・ライフスタイルコラムが得意。

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