近年、子どもたちが性に関する情報に触れる機会は、驚くほど増えています。
スマートフォンやパソコンを通じて、ネットにいつでも触れられる環境が整っているためです。さらに、SNSは偏った情報も多く流され、子どもたちにとって歪んだ情報が飛び交いやすくなっているのです。
そして、スマートフォンの普及と低年齢化に伴い、小学校高学年の子どもたちが、SNSを通じて性被害や性的いじめに遭うケースが増加しています。
実際、警察庁が発行している「令和4年における少年非行及び子どもの性被害の状況」の報告書によると、児童ポルノ事犯の検挙件数が3,035件、被害児童数が1,487人と年々増加傾向になっており、9年前のなんと”倍”になっているのです。
これは非常に由々しき事態ですよね。
もちろん文部科学省もだまっては見ていません。
近年、文部科学省では「生命の安全教育」として、正しい知識を子どもたちに伝え、性犯罪・性被害を未然に防ごうと働きかけています。
しかし、家庭でも正しい性教育を行っておきたいという思いもあるでしょう。
さらには、日本では成人年齢が20歳から18歳に引き下げられ、成長段階に合わせた正しい性知識を身につけることが、より重要になりました。
そんな日本の性教育は、標準レベルまで達しているのでしょうか?
日本の性教育の現状を世界の性教育の違いを交えながら解説していきます。
日本の性教育はどうなっている?
日本の文部科学省のプログラムでは、幼児期〜小学校低学年くらいまでは「自分と相手の体を大切にできるようになっていく」くらいにとどめ、本格的な性教育は、小学校4年生から開始されます。
①小学校高学年の性教育
小学校の性教育は「体の発達について」です。
体は思春期になると、次第に大人の体に変化していき、初経や精通が起こったりすることを理解させます。
一番わかりやすいのは「第二次性徴」についてですね。
子どもから大人になるときに、以下のような体の変化が出てきます。
- 体毛の発生:思春期に入ると、わき毛や陰毛などの体毛が発生することを学びます。
- 胸の発達:女の子の場合、乳房が発達し始めることを説明します。
- 声変わり:男の子の場合、声が低くなる声変わりについて学びます。
このような男女の体つきに、変化が生じることを前もって説明しておくことで「心の準備」をさせることが狙いです。
②中学生の性教育は?
中学生になると、以下のことを学びます。
- 思春期には、内分泌の働きによって生殖に関わる機能が成熟すること。
- 成熟に伴う変化に対応した「適切な行動」が必要となること。
- 受精・妊娠する可能性があること。
- 後天性免疫不全症候群(エイズ)及び性感染症について。
かなり具体的なことも学ぶようになるのですね。
「射精」「月経」「性衝動」など、性に関する重要なキーワードについても学んでいきますので、私たちが「性教育」と思っているものは、主に中学生で学ぶといって過言ではありません。
③高校生の性教育は?
高校生になると、「人生」「社会」をテーマに、生涯のライフステージの一環として「性」を学ぶようになります。
そのため、例えば以下のことを学びます。
- 生涯の各段階の健康課題に 応じた自己の健康管理が必要になること。(特に受精し妊娠した時、出産した時のライフステージの変化など)
- したがって、家族計画を行うことがチア説であること。
- 人工妊娠や中絶による心身の影響について。
- 感染症の予防には、個人の取組及び社会的な対策を行う必要があること。
高校にもなると、人生や社会を俯瞰した目で見ることができると考えた結果、かなり大きな視点で「性」をとらえていることがわかりますね。
このような日本の性教育は一見なにも問題がないように見えますが、昨今「はどめ規定」に関する問題が話題になっています。
当然、性教育の中心は性行為や妊娠となるはずですよね。しかし、国が定める学習指導要領に「妊娠の経過は取り扱わないものとする」という一文があるため、性行為は教えないことになっています。これが「はどめ規定」です。
これが本来の性教育を捻じ曲げたものを担っていると議論が紛糾しています。
では、こうした日本の性教育のあり方は海外と比較して「標準」といえるのでしょうか。
次は海外の性教育について見ていきましょう。
海外の性教育はどうなっている?
①イギリスの場合
実は、イギリスでは「教えるべき内容」として、性教育について厳格に年齢制限を設ける動きが見られています。
例えば、小学校3年生までは、オンラインゲームやソーシャルメディアについて教えません。
性教育も、5年生より前に教えるべきではないと明記されています。
中学校についても、「セクハラに関する問題は7年生までは教えるべきではなく、自殺への直接的な言及は8年生までは教えるべきではなく、性行為に関する明確な議論は9年生までは教えるべきではない。」としています。
このように、性行為についても、学校に提示するものの、非常に性教育について慎重な動きが見られています。
他にも男性、女性の他のトランスジェンダーの話題や性転換についても明記されていることが特徴ですね。
③アメリカの場合
一方で、アメリカの場合は性教育のガイドラインが確立されていますが、「何歳までに性の何を学ぶか」が非常に細かく記載されています。
このなかには、性行為だけでなく、前戯の方法の段階的な学び方まで記載されています。
主に学ぶ内容としては次の通りです。
5歳から8歳(幼稚園から小学2年生)
- 身体の理解: 各体の部位の名称と機能を学ぶ。
- 性差の認識: 生物学的な性別に基づく身体の違いを理解する。
- 自己肯定感: 自分の体を大切にすることを学ぶ。
9歳から12歳(小学3年生から6年生)
- 思春期の変化: 思春期における身体的変化について学ぶ。
- 生殖能力の発達: 男子は精子を生産し、女子は月経が始まることを理解する。
- 衛生管理: 性器の清潔と健康維持について学ぶ。
12歳から15歳(中学生)
- 性的反応と生殖: 性的反応システムと生殖システムの違いを学ぶ。
- 性と快感: 一部の性的および生殖器官が快感を提供することを理解する。
- 自己検査: 女子は乳房自己検査を、男子は睾丸自己検査を学ぶ。
15歳から18歳(高校生)
- 性的分化: 性的分化が胎児期の初期に染色体によって決定されることを学ぶ。
- 性的健康管理: 定期的な婦人科検診、避妊方法、STD予防について学ぶ。
- 性的同意と関係性: 性的関係における同意と尊重の重要性を理解する。
しかし、それでも性行為について学ぶには、12歳から15歳のときが中心ですので、それまでは非常に慎重に性教育を行っているといえます。
結論:日本の性教育はおおむね「標準レベル」
このように、世界で見たときに、性行為そのものを教えるかどうかに議論の余地があるものの、日本の性教育はおおむね「標準レベル」といえます。
何でも「早期教育」が良いわけではありません。
脳が未発達で、正しい情報が取捨選択できないときに性について教えることは、むしろ弊害であるという見解が一般的です。
家庭で性教育を教えるときも、年齢に応じた性教育に取り組んでほしいと思います。
最後に、検挙を通じて新たに特定された、自らを撮影した画像に伴う被害児童数(区分/年次)を表にまとめました。
性被害にあわないためにも、性教育は必要なのです。
小学生 | 中学生 | |
2014 | 22 | 147 |
2015 | 20 | 205 |
2016 | 28 | 253 |
2017 | 29 | 259 |
2018 | 45 | 239 |
2019 | 41 | 290 |
2020 | 49 | 244 |
2021 | 46 | 241 |
2022 | 63 | 295 |
2023 | 76 | 266 |
参照:
1.gov.uk 「New RSHE guidance: What it means for sex education lessons in schools」
2.CDC「Guidelines for Comprehensive Sexuality Education (3rd Edition)」
3.文部科学省「学校における性に関する指導及び関連する取組の状況について」
4.文部科学省「学校における性に関する指導について」
5.NHK「学校の性教育で“性交”を教えられない 「はどめ規定」ってなに?」
6.警察庁「なくそう、子供の性被害」
7.警察庁「令和5年における少年非行及び子供の性被害の状況」