川越刑務所で開催された令和5年度(2023年度)の東京矯正管区技能競技大会の開会式

東京矯正管区技能競技大会とは

東京矯正管区(関東地方)の刑事施設に収容されている受刑者が、職業訓練や刑務作業を通じて磨いた技能を競う「東京矯正管区技能競技大会」は、健全な社会人としての社会復帰を目指して開催されています。各競技は制限時間内に課題を完成させることが求められ、時間内に終えられないか、課題条件を満たしていない場合は審査対象外となります。

新型コロナウイルスの影響で3年間中断された後、去年に再開されました。今年は状況が改善され、参加施設数が増えています。

この大会は、技術労働者の不足や技能五輪大会への対応など、産業界の変化に応じて昭和43年11月に初開催されました。初回は中野刑務所で開催され、6つの競技種目(家具木工、活版文選、活版植字、印刷機、機械旋盤および仕上げ)で9施設から50名が参加しました。ただし、中野刑務所は昭和58年3月に廃止されています。

東京矯正管区技能競技大会は通常、川越少年刑務所で開催されます。女性受刑者の技能競技大会は、栃木刑務所で年に1回開催されています。

令和5年度(2023年度)東京矯正管区技能競技大会の様子

川越少年刑務所で開催された令和5年度(2023年度)の東京矯正管区技能競技大会の開会式の演台

令和5年度(2023年度)10月25日、54回目の開催を迎える東京矯正管区技能競技大会。本大会には、14の施設から合計47名が参加しました。それぞれの施設からは、受刑者が自らの技能を競い合い、社会復帰への意欲を高める機会となっています。

参加施設
水戸刑務所、喜連川社会復帰センター、前橋刑務所、千葉刑務所、市原刑務所、府中刑務所、横浜刑務所、新潟刑務所、甲府刑務所、長野刑務所、静岡刑務所、松本少年刑務所、東京拘置所、川越少年刑務所

大会で競技される技能は8種目

  • 電気工事
  • 家具指物
  • 建築塗装
  • 被覆アーク溶接
  • 炭酸ガスアーク溶接
  • 壁装
  • 理容
  • タイピング
川越刑務所で開催された令和5年度(2023年度)の東京矯正管区技能競技大会の開会式で選手宣誓を行う受刑者の代表者と大会長の東京矯正管区長

開会式では、大会長を務める東京矯正管区長からの挨拶および開会の宣言があった後、受刑者の代表者が選手宣誓を行い、東京矯正管区技能競技大会が開始しました。

理容

川越少年刑務所で開催された令和5年度(2023年度)の東京矯正管区技能競技大会で行われた理容(有資格者)部門で課題に取り組む受刑者

理容の資格の有無によって、審査部門が分かれる東京矯正管区技能競技大会。写真は有資格者の部門の様子です。刑務官や審査員が見守るなか、緊張感が漂っていました。

昨年度の大会から、課題が”ソフトモヒカン”スタイルに変更になったようです。変更になった経緯として、ソフトモヒカンの整髪ができることが即戦力となるための必要な技術として、協力雇用の企業主からの提案に基づいています。大会では、受刑者が自分たちの考えるかっこいいソフトモヒカンスタイルに整髪し、バリカンの使い方、基本技術、全体のバランスをもとに審査員が評価します。

川越少年刑務所は、全国の刑務所(PFIを除く)で理容訓練を行っている5施設のひとつです。敷地内に理容所があり、一般の客を迎えることで、訓練生は実践の経験を積む機会が多くなっています。

川越少年刑務所内の理容所のチラシ

川越少年刑務所内の理容所では、手頃な価格で高い技術を提供しています。刑務官も含め、多くの方が利用されているとのことです。なお、理容所の事前予約はできません。

建築塗装

川越少年刑務所で開催された令和5年度(2023年度)の東京矯正管区技能競技大会で行われた建築塗装の部門で課題に取り組む受刑者

建築塗装の部門では、木板に区画線を引き、見本の色に合わせて自分で色を調合し、線引きした範囲内に丁寧に塗装します。審査では、線引きの正確さ、塗装の丁寧さ、色の調合度が重視されます。

川越少年刑務所で開催された令和5年度(2023年度)の東京矯正管区技能競技大会で行われた建築塗装の部門の審査で使用された見本

見本に従って正確な線引きと、目視で色を調合する繊細さが求められます。さまざまな道具を使用するため、作業中の道具の整理整頓も重要です。作業場を整理するのが苦手な受刑者もいますが、職業訓練を進めるうちに多くの人が作業場を綺麗に保つ姿勢を身につけます。職業訓練では、技術だけでなく精神面や細かな作業面の向上も図られています。

被覆アーク溶接/炭酸ガスアーク溶接

川越少年刑務所で開催された令和5年度(2023年度)の東京矯正管区技能競技大会で行われた被覆アーク溶接/炭酸ガスアーク溶接の部門で課題に取り組む受刑者

被覆アーク溶接/炭酸ガスアーク溶接の部門では、鉄板と棒状の鉄を溶接して耐圧の箱を作ります。審査員には、溶接業界の権威ある団体や大学の教授がおり、技能五輪の審査経験もあるそうです。大会参加者は、そのような審査員の前で競技することに気合が入っていました。

溶接は日本の産業にとって重要であり、この分野だけで生計を立てられるほど給与も良いことが知られています。作業専門官たちは、受刑者が技術を習得し、出所後に職業として活かしてほしいと願っています。

家具指物

川越少年刑務所で開催された令和5年度(2023年度)の東京矯正管区技能競技大会で行われた家具指物の部門で課題に取り組む受刑者

家具指物の部門では、3時間という制限時間内で大会用の課題家具を製作します。モノづくりは日本の伝統的な技術でありながら、現代社会での注目度は低いのが実情です。モノを作り上げる喜びを受刑者が体験し、出所後にもその技術を活かしていくことが作業専門官たちの想いです。

川越少年刑務所で開催された令和5年度(2023年度)の東京矯正管区技能競技大会で行われた家具指物の部門の審査に使用された大会用の課題家具

写真は大会用の課題家具。簡素なものに見えるかもしれませんが、この中に細かな技術が詰め込まれています。

電気工事

川越少年刑務所で開催された令和5年度(2023年度)の東京矯正管区技能競技大会で行われた電気工事の部門で課題に取り組む受刑者

電気工事の部門では、金属管を曲げて電気配線を行います。金属管を均等に曲げるのは非常に難しく、電気が正しく通るためには各工程の細かい技術が重要です。

電気配線の技術は難しいものの、習得しスキルアップすることで、将来的に一軒家やマンションの電気工事も手がけられるようになります。そのため、出所後の職業の選択肢が広がるというメリットがあります。

壁装

川越少年刑務所で開催された令和5年度(2023年度)の東京矯正管区技能競技大会で行われた壁装の部門で審査する審査員

壁装の部門では、壁の中心点を測定し、異なる色の壁紙を30cm四方に切り、貼り付けていきます。

素人目線では綺麗に見える作品でも、細部にわたり厳密にチェックする審査員から見ると、貼る位置が少しズレていたり、端が3mmほど壁紙が不足していたり、糊付けが荒い箇所があると、改善が必要とされます。こうした細かい指摘を外部から受けることは、褒め言葉とともに、受刑者が受ける職業訓練にとって非常に貴重な機会となります。

壁装の職業訓練では、刑務所内の工場で練習用の台を使って、実践的な練習が行われています。

タイピング

川越少年刑務所で開催された令和5年度(2023年度)の東京矯正管区技能競技大会で行われたタイピングの部門で課題に取り組む受刑者

タイピングの部門では、漢字、ひらがな、カタカナ、英数字、記号などが混在する長文を正確に入力することが課題となります。

「受刑者の中で、もともとパソコンを使っている人は少ないです。パソコン操作とその技術の習得は難しい面がありますが、それだけに非常にやりがいがあり、成長が目に見える職業訓練です」と作業専門官は述べています。

東京矯正管区技能競技大会を終えて

川越刑務所で開催された令和5年度(2023年度)の東京矯正管区技能競技大会の表彰式で登壇した受刑者の代表者と表彰状を読み上げる大会長の東京矯正管区長

競技自体は午前中の1〜3時間程度で終わり、その後審査が行われました。午後には閉会式が開催され、審査結果が発表されました。審査結果は順位を決めるものではなく、金、銀、銅の3段階に分けられ、それぞれのカテゴリーに値する成果を残した参加者が発表されます。審査は各部門で、制限時間内に完成した作品を審査員が細部まで確認し、減点方式で採点します。

金賞から順に受賞対象となる受刑者の名前が呼ばれ、名前を呼ばれた受刑者は元気よく返事をし、起立します。そして代表者が登壇し、大会長から表彰状が手渡されました。

表彰後に、審査員長から各部門それぞれの総評が発表されました。良かった点と改善すべき点が丁寧に受刑者へ伝えられました。第三者である審査員の方々からのコメントは、受刑者のモチベーションにもつながります。

最後に、川越少年刑務所長から受刑者へ向けたメッセージがありました。

「社会人として自立し、周囲の信頼を得ることが重要です。この大会を契機に、更に技術や技能の向上を図りながら1日も早く社会復帰を果たし、社会に必要とされる技能者として精進することを願います」

技能競技大会の主な目的は、受刑者が職業技術を向上させ、社会に再び貢献できる人材として育成することです。そして再犯防止の観点で、職業と住居を確保することが重要です。受刑者が社会に戻る際、即戦力として期待されることが多く、刑務所はそのような有能な人材を育成することに努めています。今後も、この大会のようなイベントを通じて、再犯防止や就労支援につなげるとともに、地域社会の理解が深まることを願っています。

東京矯正管区技能競技大会の気になること

受刑者ってどうやって会場へ集まる?

大会の前日、各刑務所から受刑者が護送車で会場へ向かいます。護送車内では、受刑者に手錠がかけられた状態で移動します。受刑者は川越少年刑務所で一泊し、翌日大会に参加します。

新潟刑務所からの参加者は、最も遠い地点から約5時間かけて来ます。新潟刑務所のように遠方からの参加者は、閉会式の前に帰路に就くことがあります。

移動中のトイレ休憩は、人目が少ないパーキングエリアで短時間に済ませます。手錠をかけた状態での移動は、目立たないように配慮されています。

技能競技大会への出場者はどのように選抜されている?

職業訓練を受けている受刑者の中から、模範となる受刑者が選抜されます。選抜は、作業専門官が技術レベルの高さと、模範となる態度を基準に行います。技能競技大会は年に一度開催されるため、年間を通じてこれらの基準に適う受刑者を観察します。そして、大会の2,3か月前に参加者を選抜します。

この大会への参加は、受刑者のモチベーション向上と更生への道を促進する目的があります。第三者の審査と評価を受けることで、参加者の自信が育ち、社会復帰への一歩となります。

参加にあたって、刑の種類、年齢、刑務作業歴などの制限は設けられていません。

金賞を受賞したら何かあるのか?

前述の写真でもわかる通り、表彰状が授与されます。そして、各刑務所の判断によって、1万円以下の施設内で使える物(ペンやノート等)を対象の受刑者へ与えられる場合があります。

技能競技大会で審査するのはどんな方々?

塗装業協同組合や電気工事工業組合、ものづくり大学の教授など外部の団体で各業界で専門的な知見や実績を持つ方が審査をしています。いずれの方も職業訓練に携わっています。

川越少年刑務所について

法務省矯正局の東京矯正管区に属する刑務所です。全国6箇所の少年刑務所のひとつで、少年刑務所では日本最大規模です。受刑者の平均刑期は3年です。

26歳未満で犯罪傾向の進んでいない男子受刑者を収容しているため、令和4年度から開始された若年受刑者ユニット型処遇など、それにふさわしい教育的処遇を実施し、社会生活に適応する能力の育成に努めています。

(引用:https://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei05_00087.html

川越という地は、法務大臣政務官である中野英幸政務官の出身地でもあるので、刑務官の方々にとっても誇りとなっています。

川越少年刑務所の基本情報

【住所】
埼玉県川越市南大塚6-40-1

交通手段
●西武新宿線「南大塚駅」下車 徒歩20分
●JR川越線・東武東上線「川越駅」下車 車15分

刑務所前バス停がありますが、本数が少ないため、車やタクシーで行くのが便利です。

TEL 049(242)0222 
FAX 049(242)0240

川越少年刑務所の取り組み

生産作業、社会貢献作業、自営作業、職業訓練の刑務作業を行っています。職業訓練は以下の15種類を行っています。短いもので3ヶ月、長いもので24ヶ月の訓練期間を要します。

  • 理容科
  • 自動車整備科 3級整備士
  • 電気通信設備科 電気通信工事課程
  • 情報処理技術科 情報処理技能養成課程
  • CAD技術科 基礎課程
  • CAD技術科 応用課程
  • 溶接科 応用課程
  • 内装施工科 総合課程
  • 建築塗装科
  • 介護福祉科
  • ビル設備管理科
  • 建設機械科 小型建設機械課程
  • フォークリフト運転科
  • ビジネススキル科 パソコン基礎課程
  • CAD技術科(基礎課程)/農業科(園芸課程) 若年受刑者ユニット型処遇

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