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- ヒグマを駆除して報酬ゼロ…。地方の猟友会が抱える闇とリアル

秋田、札幌など都市部でのクマ出没が相次ぐ今、その最前線では「命がけの仕事に報酬ゼロ」という深刻な現実が横たわっています。積丹町での出動拒否問題や、発砲許可を巡る銃砲所持許可取り消し…。そういった相次ぐ事例は、現場で活動するハンターたちが直面する構造的な過酷さが、すでに限界に達していることを示しているのではないでしょうか。
各地でのクマの出没は、都市部での生活者と駆除を担う者、両者にとっても見逃せない深刻な問題です。果たしてクマの大量出没にはどんな原因があるのか。そして、なぜハンターを取り巻く環境はここまで過酷なのか。
今回は、北海道三笠市にて、ヒグマ対策護衛業務を行う有限会社GOE-MON取締役であり、北海道猟友会三笠支部の支部長も務める高崎梨徒(たかさきりと)氏と、同支部所属のハンター鈴木環妃(すずきたまき)氏のおふたりにお話を伺いました。
<目次>
「ヒグマ民家侵入事件」が発生。ヒグマ出没増加の要因とは

全国的にクマの出没被害が相次ぐなか、北海道三笠市では令和7年度の8月末まで、公式にクマ出没通報がほとんどなく、平穏な状態が続いていました。
しかし、その流れが一変したのは9月16日。北海道三笠市幾春別町の公営住宅に、ヒグマが窓ガラスを破って侵入する事件が発生しました。
住民の女性が家の中で洗濯をしていたところ、窓ガラスを割って侵入したヒグマが目の前を通って、開いていた玄関ドアから外へ出ていく事件が発生。幸い女性にケガはなく、奇跡的に無事だったようです。
この騒動を受けて三笠猟友会では全力で対策に取り組み、パトロール体制を強化して、被害防止のために檻罠を開きました。その結果、民家に侵入したヒグマについては駆除した可能性が高いと高崎氏は語ります。
しかし、この事件以降、短期間で10回の通報、合計13頭にも及ぶヒグマが出没するという、異常とも言える頻度となってしまいました。
高崎氏は、クマの出没が増えた背景には複数の要因が重なっていると分析します。
「今年は、クマにとって秋の冬眠前に最も重要な主食であるミズナラ(どんぐり)が不作でした。クルミやクリを求めるのですが、クリは元々一部地域を除いて自生していません。結果、民家の庭先に生えているクリが代替の餌になってしまい、必然的にクマが人の生活圏に降りてくる状況になっているかなと思います」
さらに、前年にどんぐりが豊作だったことも影響しているといいます。栄養状態の良かった母グマが冬眠中に双子や三つ子を産むケースが増加。その結果、人里に親熊が降りることに慣れたために、その子熊も人に慣れていき、警戒心が醸成されないことが問題なのだそうです。
駆除しても報酬ゼロ。旧態依然とした猟友会の構造的な課題

日夜、クマ出没のニュースが取り上げられ、住民の不安が募る日本。その最前線で命を懸けるハンターたちには、知られざる現実があります。なり手不足、金銭問題、旧態依然とした構造…。ヒグマの捕獲を担う猟友会は、組織的な課題を抱えており、クマ対策の難しさをより深刻なものにしています。
そもそも猟友会は、狩猟免許を所持するハンターが所属する任意団体であり、本来は獣害対策を担う組織ではありません。そのため、パトロールや罠の設置、捕獲といった市からの有害鳥獣対策としての委託費はあるものの、その実態は、ボランティア・社会貢献活動に近いものです。
「三笠市の場合、仮にヒグマを発砲して駆除しても、それによる報酬はないので儲かるわけではありません。狩猟免許を持つ若者自体は増えていても、命の危険が伴うリスクを受け容れるだけのメリットがないし、そういう人が出てきても批判の矛先にされてしまいます。この構造上、あまりなりたい人がいないんですよね」と高崎氏は頭を悩ませます。

さらに、委託業務の内訳や報酬の分配が支部長の権限に委ねられてしまうことも、問題を複雑化させています。一般会員が金額を知らないことも多く、不公平感や会員同士の対立の原因、横領や不正受給の温床になった事例もありました。
また、高崎氏と鈴木氏が所属する三笠市猟友会では、先代の支部長時代に「女性はクマの駆除に参加させない」という考えもあったといいます。
「猟友会では昔の男尊女卑といわれる考えがかなり根強くありました。今ならセクハラやパワハラといったコンプライアンス違反に該当するような発言も多かったです。正直、その問題に向き合うのにはかなり苦労しました。そんな環境で狩猟のやり方を教わらないといけないので、特に若い女性なら、まず耐えられないと思います」と、鈴木氏は猟友会での苦労を露わにしました。
高齢化が進む閉鎖的空間で人間関係を築き、技術を磨かなくてはならないのに、報酬はほぼゼロ。命の危険もある仕事でありながら、インセンティブが存在しない構造が続いているのです。
命がけの現場にさまざまな批判の声。ハンターへの逆風

問題は報酬の有無だけに留まりません。命を脅かすクマを捕獲したとしても、ハンターには感謝されない構造ができていると高崎氏はいいます。
「クマが出没したときは、外出が極めて危険なので速報で伝えられます。ですが、捕獲したことに関してはあまり報じられないんですよね。その裏で多くのハンターが命がけで動いているからこそ通達できているのに、そこにはフォーカスされないのです」
高崎氏は最も近いときには約5メートルの距離でヒグマを撃った経験があり、鈴木氏も約30メートルから突進してきたヒグマを撃ったことがあるといいます。どちらも「死を覚悟した瞬間」だったと振り返りました。
「正直、一種の『もの好き』じゃないとハンターは続けられないと思います。私はハンターの活動も好きだし、クマも好きなんです。近づきすぎた人とクマの適切な距離を元に戻したいと思います。こういう本人の強い意志がないとできないのではと」
手負いのクマを放しておくのは、次の人的被害につながる可能性があるため、「確実に仕留められないなら引き金は引くべきではない」という教えのもと活動をしているハンターの人々。そのような状況下、いつ襲ってくるかわからないクマと対峙しなければなりません。
しかし、それだけ厳しい環境下でなんとか駆除したとしても、高崎氏には「動物虐待だ」「そのうち人も殺すようになる」「思いあがるな人間ごときが」などと心ない言葉が日々投げかけられているそう。最も心を痛めるのは、インターネットではなく地元民の心無い言葉でした。
「インターネットや電話での批判の言葉には慣れましたが、同じ市内でも、中心部とクマがよく出没する郊外では、クマの駆除に対する反応が違います。こういう同じ場所でもクマの強さを知らないゆえの軋轢があります」
このような批判の根源は「想像力の欠如」にあると高崎氏は指摘します。
「批判する人々は『そもそもそんなところに住む人間が悪い』と言いますが、彼らが食卓に並べる食材は、クマ被害に苦しむ地方の農家さんや、酪農家さんが山あいで生産しているものです。都会の人々が田舎の一次産業に依存しているなかで、その生産者を批判する姿勢は矛盾してると感じますね」
クマの問題は、野生動物や地域住民だけの問題ではなく、全国民の生活の根幹に関わる複雑な社会問題であるといえるでしょう。
ハンターの環境改善と里山の整備でクマ対策を

この現状を持続可能にしていくために「ハンターの待遇改善」と「地域住民の意識改革」が最も重要であると鈴木氏は提言します。
「クマを絶滅させる必要はなくて、野生動物との軋轢を最低限に留める事が大事です。野生動物が人間の生活圏に迫ってきているのは事実。なので、夜道を避けること、クマスプレーを持つこと、家に栗の木があるなら落ちた実は処分するなど、クマと鉢合うリスクを考えた行動が大事ですね」
一方で高崎氏は、クマが人里に下りてくる根本的な原因は、人間の経済活動にあると指摘します。
「今は森林管理が疎かになってしまい、クマの生息環境にも影響を与えています。安価な海外産木材のせいで国産木材が売れないため、林業従事者が木を売っても赤字になるので切れないからですね。だから、森が手入れされず荒れていくんです。国産木材を買うという選択も、実はクマの被害を減らす行動につながります」
私たちは、「クマを殺すな」という無責任な批判の裏で、命がけで安全を守るハンターの存在を忘れてはなりません。都市で暮らす生活者もまた、地方の一次産業と、それを脅かす野生動物の間に立つハンターに依存して生活しています。クマ対策は、もはや一部の地域住民や行政、ハンターだけの問題ではありません。
社会全体が日々の消費や意識を通じて、「山と人里」そして野生動物との関係を見直していくこと。それが、この複合的な危機を乗り越え、野生動物と共存できる持続可能な社会への道につながるのではないでしょうか。
【有限会社GOE-MON】
https://mikasa-goemon.com/






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