協力雇用主とは?出所者の社会復帰を目指して雇用する企業(有限会社松竹梅造園)

青森県で協力雇用主として出所者の社会復帰を目指して雇用する企業「有限会社松竹梅造園」代表の渡辺精一様

”協力雇用主”という言葉、制度があることをご存知でしょうか?

協力雇用主とは、犯罪や非行をした者の自立や社会復帰に向けて事情を理解したうえで就職先として受け入れる、受け入れようとする民間事業主です。

刑務所からの出所者を雇用している企業の存在を知らない人も多いのではないでしょうか。知らない方にとっては知るきっかけになれば、協力雇用主に興味がある方にとっては参考になればと思います。

犯罪や非行をした人の就労支援を推進していくために手を挙げて活動されている事業主様にインタビューさせていただきました。協力雇用主をなぜやろうと思ったのか?良いこと、苦労することは何なのか?そして、これから実現したいことなどを有限会社松竹梅造園の代表である渡辺精一様に伺いました。

<目次>

協力雇用主になったきっかけ

Q、御社の事業内容について教えてください

造園業を営んでいます。主な業務内容は、造園管理(剪定、草刈り、薬剤散布、雪囲い)やブロック舗装(インターロッキング、平板)など多岐にわたります。冬季は除雪や雪下ろしも行います。

冬が訪れる前には、雪による枝が折れたり、木の傾きを防ぐための雪囲いをして、春にはその解体をします。また、害虫や菌による樹木への害を防ぐための薬剤散布で草取りや剪定などの作業も定期的に行っています。他にも公共の建物の植栽、造園管理も請け負っています。

2023年に創業30周年を迎えました。現在、社員10名、アルバイト7名が在籍しており、家族も経営に関わっています。専務は妻が務め、息子も当社で働いています。

Q、出所者を雇用しようと思ったきっかけは?

平成30年、雇用主会に加盟したときに、最初の出所者を雇用しました。雇用主会とは、出所者の雇用に積極的な企業が集まる団体です。当時、仕事は順調に増えていましたが、それに見合う人手が不足していました。そこで、雇用主会を通じて若い力を借り、会社を成長させたいと考えました。

出所者を雇用することへの不安は特にありませんでした。理由は、自分自身も紙一重の境遇であるという自覚があったからです。たとえば、運転中に不意に人身事故を起こし、それが死亡事故につながることもあります。これ以外でも、何かのきっかけで刑務所に入ってしまうことも不思議ではありません。つまり、誰もが一歩間違えば刑務所に入る可能性があるということです。

私は、出所者がどのような罪で刑務所に入っていたかを、敢えて聞かないようにしています。過去の罪に関わらず、二度と刑務所に戻らないよう真摯に仕事に取り組み、新たな人生をスタートをしてほしいと思います。罪を犯したことを理由に仕事の機会を奪うのではなく、彼らの力を借りて共に歩んでいきたいです。

Q、社員の方にはどのタイミングでどのようにお伝えしましたか?

「出所者を雇用する」という方針は、社内では大々的には言っていませんが、社員の間では何となく伝わっていたと思います。

この決定は私の独断で行いましたが、社員たちは「心の広い社長の考えで雇っているので、私たち社員も受け入れている」という姿勢を示してくれています。新たな仲間の面倒見もとても良いです。

青森県で協力雇用主として出所者の社会復帰を目指して雇用する企業「有限会社松竹梅造園」の手作りの社名看板

出所者との関わりで意識していること

Q、今まで出所者を何名雇いましたか?

これまでに8名ほど雇いました。若者も多く応募してくれましたが、彼らが長期間勤めることはあまりないです。最長で5年ほど勤務した人もいましたが、短いと数ヶ月で終わることもあります。

出所者との関わりでは、「相手を傷つけないように」という点を意識しているので、話題選びには慎重になることがあります。たとえば、その人が以前刑務所にいたかどうかを尋ねることで、傷つけてしまう可能性があります。オープンに話せる関係になることが理想ですが、そこまでの関係構築ができる前に辞めてしまうこともあります。

Q、出所者を雇った当初と現在で、雇う側の気持ちや環境などで変わったことはありますか?

大々的に”出所者”と周知していないからかもしれませんが、新しい従業員が入社しても、特に変化は感じられません。

ほとんどの出所者は関係構築できる前に辞めてしまいますが、今までで最も長く一緒に働いている方は、だんだん自分のことも話してくれるようになって打ち解けてきました。とても礼儀正しい方で、客観的に見ても出所者だとは気づかないですね。

しかし、時折「やはり」と思ってしまう人もいて、出所者にそのような偏見を持ってしまう自分に対しても不快感を覚えます。

たとえば、物が無くなってしまったときに、「もしかして」という疑念が浮かぶことがあります。このような先入観を避けるために、敢えて彼らの罪名を聞かないようにしています。

青森県で協力雇用主として出所者の社会復帰を目指して雇用する企業「有限会社松竹梅造園」で働く皆さん
有限会社松竹梅造園の皆さん

出所者の仕事に対する姿勢

Q、出所者の仕事に対する取り組む姿勢はいかがですか?

入社するときは未経験なので、現場で叩き上げて身につけていきます。出所者だからといって差別することなく同じように働いてもらいます。長く勤めている方は60歳くらいになりますが、ずっと勤勉に働いてくれています。

これまで雇用した出所者の中で、反抗的な態度を取ることや、喧嘩に発展するような事態は一度も発生していません。

Q、出所者に裏切られたような経験はありますか?

確かに、再犯していなくなってしまう出所者もいます。皮肉になってしまいますが、「刑務所が居心地が良い場所なのか?」と思うこともあります。

出所者を雇用することで、多くの実体験を得て、様々な感情を抱くようになりました。出所者に限った話ではないですが、言葉ばかりで行動が伴わない人は長く勤めることができません。辛抱強さや忍耐力が欠けていると感じます。

「度々裏切られるのが現実で、怒りを感じることもある」と語る社員もいますが、改心して長期間勤務している方の姿をみて、出所者への見方が変わったといいます。

求める人物像や今後のビジョン

青森県で協力雇用主として出所者の社会復帰を目指して雇用する企業「有限会社松竹梅造園」の皆さんでつくった干支に関する創作物
有限会社松竹梅造園の皆さんでつくった干支に関する創作物

Q.出所者に問わず、採用していきたい人材像は?

将来を考えたときに、若い世代が当社に加わってくれることを望んでいます。特にやる気ある人を歓迎します。息子も話していたように、「ワクワク、ドキドキするような仕事にしていくこと」が仕事を続けるうえで大事であり、経営者の役目だと思っています。「この仕事についてよかった」と毎日が楽しくなるような仕事にしたいです。

時間があるときは社員全員で、干支にちなんだモノを作っています。たとえば、事務所入り口に展示してあるうさぎのオブジェは、布団の綿で作りました。毎年、干支に関連したさまざまな作品を製作したり、三内丸山遺跡の六本柱を1/50スケールで再現するなど、感性を磨きながら、楽しく仕事ができるように心がけています。

青森県で協力雇用主として出所者の社会復帰を目指して雇用する企業「有限会社松竹梅造園」で毎年書いている社員さんの夢や目標

Q、御社の今後の目標とかビジョンを教えてください。

毎年、社員と夢や目標を決めていて、ひとつでも実践できる社員になってほしいです。

私は2024年1月に69歳になりますが、仕事はまだやれますし、やっぱり経営者は情熱と気力が必要です。家族経営みたいと言われますが、誰が来ても受け入れられるような会社でありたいですね。

また、今後は再犯しない人を増やしたいですね。「就職してからが始まり」という想いで仕事に取り組んでほしくて、罪を犯した人がこういうところで立ち直ってくれるきっかけになればと思います。

協力雇用主になるに際して知ってほしいこと

Q、最後に、協力雇用主に関して伝えておきたいことはありますか?

失敗することを気にするよりも、まず雇って経験することも大事で、それから判断してほしいです。会社を経営するようになって、やっぱり社員がいてこその会社だと思うようになりました。社員は社長の背中を見ているからこそ、出所者を受け入れることについてもどんどん挑戦してほしいですね。

1人で会社をやっている訳ではありません。社長になると、さまざまな人が入社してくる可能性があって、雇わないといけないのは同じです。社員の協力も仰いで一緒に経験を積み重ねてほしいです。

青森県で協力雇用主として出所者の社会復帰を目指して雇用する企業「有限会社松竹梅造園」の外観

有限会社松竹梅造園
https://www.shouchikubai.co.jp/

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