
大手広告会社電通の新入社員だった高橋まつりさん(当時24)が長時間労働の末に過労自殺してから、25日で10年を迎えます。母親の幸美さん(62)は24日、厚生労働省で記者会見を開き、「まつりのような過労死の犠牲者を増やさないでください」と涙ながらに訴えました。
まつりさんは2015年春に電通に入社し、ウェブ広告を担当していましたが、眠れないほどの長時間労働とパワーハラスメントに追い詰められ、同年12月25日のクリスマスの朝、借り上げ社宅から投身自殺しました。発症1カ月前の残業時間は月105時間に達し、2016年9月に労災認定されました。
幸美さんが受け取ったまつりさんからの最後のメールには、「大好きで大切なお母さん、さようなら。今までありがとう。仕事も人生も全てがつらいです。お母さん、自分を責めないでね。最高のお母さんだから」と綴られていました。幸美さんは「何度季節が巡っても、私の時間はあの日のまま止まっています」と心境を語りました。
まつりさんの死をきっかけに、働き方改革が加速しました。2019年には時間外労働に罰則付きの上限規制が導入され、原則として月45時間、年360時間まで、特別な事情がある場合でも年720時間以内、月100時間未満、複数月平均で月80時間以内という制限が設けられました。電通も残業時間削減に取り組み、企業の労働環境は改善されてきました。
しかし、厚生労働省によると、2024年度に過労死や過労自殺(未遂含む)で労災認定されたのは159件と、2019年度以来5年ぶりに150件を超えました。精神障害による労災支給決定件数も1055件と、6年連続で増加しており、過労死はなくなっていないのが現状です。
そうした中、高市早苗首相は今年10月、上野賢一郎厚生労働相に対し、「心身の健康維持と従業者の選択を前提にした労働時間規制の緩和の検討」を指示しました。高市首相は総裁選で「私自身もワークライフバランスという言葉を捨てます。働いて働いて働いて働いて、働いて参ります」と発言し、働き方改革の見直しに意欲を示していました。
この方針に対し、幸美さんは会見で強い懸念を表明しました。「まつりが生きている時に改善していたら命を落とすことはなかったと思うと、悔しくてたまりません。働き方改革を後退させるようなことが行われるとしたら、私たち遺族は絶対に認めることはできません」と訴えました。また、「過労死ラインを超えてまで働きたい人がどれだけいるのか。自分でも気がつかないうちに追い詰められる」と、過労死の恐ろしさを強調しました。
まつりさんの代理人である川人博弁護士も、「国には一刻も早く立法に向けた議論を始めていただきたい」としながらも、「政府や関係省庁は具体的に問題提起しないと、国民的な議論は困難だ」と指摘しました。
過労死防止への道のりは道半ば 遺族の願いと政策の狭間
高市首相の労働時間規制緩和の指示は、「もっと働きたい人が働ける環境づくり」「賃金アップ」を目的としていますが、過労死遺族や労働問題に取り組む弁護士からは強い反発の声が上がっています。現行の労働時間上限規制は、過労死ラインとされる月80時間超を絶対に許さないという社会的メッセージを含んでおり、これを緩和することは「命よりも経済を優先する」というメッセージになりかねません。
厚生労働省の担当課は、「『もっと働きたい』という意見のなかでも、『上限規制を緩めたい』なのか『今よりもっと働きたい』なのかがごちゃ混ぜになっている」として、現在の労働時間の上限規制は過労死の認定ラインであることもふまえたうえで、「働き方の実態やニーズをしっかり踏まえて検討深めていく」としています。
幸美さんは「働くことが人の命を奪ってはならない。その当たり前のことをかつて日本はまつりの死を通して気づいたはずです」と述べました。10年という月日を経ても、まつりさんの死が報われる社会は実現していません。「まつりの死が報われるとしたら、『働く人の命を奪わない社会をつくる』という約束だと思います」という母親の言葉は、今も私たちに重い問いを投げかけています。









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