卒アル写真がAIでポルノに…”偽画像”が生む新たな性被害

卒業アルバム

生成AIの進化によって顔写真を使った性的画像や動画を簡単に作れる時代になりました。なかでも深刻なのが、卒業アルバムの写真を悪用した「卒アル問題」です。知人や友人が卒業アルバムの写真を生成AIに読み込ませ、性的な画像を作り、SNSに投稿することで生じる一連の被害は、社会で大きな問題になりつつあります。

これは生成AIが可視化した、新しい形の性犯罪です。刑法が専門の上田正基氏(神奈川大学法学部准教授)へのインタビューを通じて、その実態と法的課題を探りました。

<目次>

生成AIの民主化で起きた新たな性犯罪

 「卒アル問題」とは、卒業アルバムなどに掲載された顔写真を素材として、生成AIで裸や性的行為をしているかのような画像を作成し、共有・拡散する行為を指します。

かつては著名人が主な標的でした。しかし近年は、一般人、とりわけ小学生や中学生など未成年の写真が使われるケースが社会問題化しています。

上田氏はこう指摘します。

「ディープフェイク自体は2020年以前からありました。顔をアダルトビデオにはめ込むアプリも存在していました。ただ、それが著名人ではなく一般人に広がり、しかも誰でも簡単に使える形になったことが大きいのです」

上田正基氏(神奈川大学法学部准教授)

卒業アルバムが象徴的に取り上げられますが、実際にはSNS上の写真でも成立します。「卒アル」は、若年層が被害者になりやすいことを象徴する言葉にすぎません。

そして加害は、同級生や知人、匿名の第三者など、特別な技術を持たない人物によっても可能です。閉じられたコミュニティ内で拡散される場合、被害者は自分が被害に遭っていることすら気づきにくい構造があります。

子どもが標的になりやすい理由のひとつは、「顔写真が大量に流通している」現実です。卒業アルバム、学校行事、部活動、保護者のSNS投稿――意図せず公開された画像は、簡単にデータとして取得できます。

もうひとつは、立場の弱さです。上田氏は「閉じられたコミュニティで行われる場合、自分が被害に遭っていることを知ること自体が難しい」と指摘します。仮に知ったとしても、「それは自分ではない」と言いながら、「でも自分の顔である」画像について声を上げることは、心理的なハードルが極めて高いのです。

性犯罪一般と同様、羞恥心や周囲の視線への不安が、告発を困難にします。特に未成年の場合、「未成年と知らなかった」という加害側の言い訳が通用する余地も残されており、被害の構造はより複雑です。

「卒アル問題」を巡る法解釈

スマートフォンを見て驚く女性

従来の盗撮やリベンジポルノは、「実際に撮影された」画像の存在を前提としていました。しかし卒アル問題は違います。そもそも被害者は、性的な行為も、性的な服装もしていません。それでも、本人の同意なく性的画像が生成され、拡散される――。これは明確な性被害です。

では、現行法は対応できているのでしょうか。上田氏は次のように説明します。

「現行法の性犯罪規定は、撮影された性的画像を前提としています。生成された画像は、直接的には想定されていません」

リベンジポルノ防止法や盗撮関連規定は、実在の性的姿態の撮影・拡散を想定しています。生成AIによる“虚偽の性的画像”には、正面から適用できません。

名誉毀損が成立する可能性はあります。実際、顔をアダルトビデオに合成された事例で、有罪判決が出たケースもあります。しかし「単に裸にされた」場合、社会的評価が下がると認定できるかどうかは微妙です。

さらに問題は、児童ポルノ規制との関係です。児童ポルノ法は「児童の性的姿態」を前提としています。顔だけが実在で、体がAI生成の場合に適用できるかは、現時点では明確ではありません。

一方、海外では規制が進んでいます。韓国では、いわゆる「N番事件」を契機に法整備が進み、虚偽の性的画像の作成・拡散を処罰対象としました。台湾でも、政治家のディープフェイク被害を受け、規制が強化されています。

「法」イメージ画像

それに比べて、日本には「それ自体を正面から処罰する法律はない」と上田氏は言います。問題はAIそのものではありません。上田氏は、技術の使いやすさが被害拡大につながると懸念します。無料で、しかも数分で生成できるアプリが普及すれば、「試しにやってみた」が重大な性被害を生む可能性があります。

しかし「作れるから使う」という発想こそが問われています。法律が未整備であっても、被害は現実に起きています。プラットフォームは削除対応を強化すべきですし、学校は写真の取り扱いについて再検討する必要があります。保護者もまた、子どもの顔写真公開の意味を熟考するべき時に来ています。

再考すべき「顔写真の公開」

生成AIのイメージ画像

顔写真は、もはや単なる「記念」ではありません。高度な生成技術と結びついたとき、それは性的画像の素材になり得ます。

だからこそ、最低限の防波堤として、下記のような行動が求められます。

  • 拡散しない
  • 保存しない
  • 面白半分で共有しない

同時に、法整備の加速も不可欠です。上田氏は「それ自体を処罰対象とする法律の検討が必要だ」と提言します。違法であると明確に示すことが抑止力になります。

AI生成ポルノは、「本物ではない」から軽いのではありません。存在しないはずの自分のポルノが存在するという事実こそが、人格と尊厳を深く傷つけます。

問われているのは技術ではなく、それをどう使うかという私たちの社会の姿勢です。「顔写真を公開すること」の意味に、私たちも向き合わなければいけません。

神谷春記者

投稿者プロフィール

某民放局報道局にて事件事故を中心に取材。
特に安倍元首相銃撃事件や、大阪・北新地放火殺人事件などを精力的に取材。一方でG7サミットや五輪などの取材経験も。

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