【医師の論文解説】米国では若者の約8人に1人が、メンタルヘルスに関する助言をAIに相談

米国では、若者の約8人に1人が、メンタルヘルスに関する助言をAIに相談

AI技術の進歩は目覚ましく、最近ではAI彼女やAIフレンドといった、感情的な交流を目的としたサービスも普及しています。誰にも言えない悩みを24時間聞いてくれるAIは、一見救世主のように思えるかもしれません。しかし、医学的に見て安全なのでしょうか。

この記事では、2025年11月に発表された米国論文を紹介しつつ、AI相談の落とし穴と、命に関わるリスクについて解説します。

論文

米国の青少年および若年成人が、メンタルヘルスのアドバイスを得るために生成AIをどのように活用しているか

Ryan K McBain,Robert Bozick,Melissa Diliberti,et al. Use of Generative AI for Mental Health Advice Among US Adolescents and Young Adults. JAMA Netw Open.2025 Nov 3;8(11):e2542281.

今回紹介する文献は、米国の非営利研究機関であるRAND研究所のJonathan Cantor氏らが2025年11月にアメリカ医師会が発行する医学雑誌である『JAMA Network Open』に発表した論文です。米国の青少年および若年成人が、メンタルヘルスのアドバイスを得るために生成AIをどのように活用しているかを調査した研究報告です。

若者の8人に1人がAIに相談

結論から言うと、米国の12歳から21歳の若者を対象に調査したところ、全体の約13.1%、約540万人つまり約8人に1人がメンタルヘルスのアドバイスを求めて生成AIを利用していました。さらに、利用者の92.7%がその助言を「役に立った」と回答しており、満足度が高いことが明らかになりました。

18〜21歳の若年成人では約22%が利用

背景には、米国で深刻化する若者のメンタルヘルス危機(うつ病や不安障害の増加)がある一方、専門家への受診ハードルが高いという現状があります。研究では、米国の12〜21歳の若者1,058名を対象にオンライン調査を実施しました。そして「悲しみ、怒り、不安を感じた時に生成AIに相談したか」などを聴取し、年齢や社会的要因(人種、親の学歴など)を含めて分析しました。その結果、特に18〜21歳の若年成人では利用率が高く、約22%でした。対人関係の悩みや個人的な葛藤を、手軽なAIに打ち明けている実態が浮き彫りとなったのです。

生成AIは、「自殺方法の具体的な助言」を提示することさえある

若者がAIを選ぶ主な理由は、「お金がかからない」「いつでも使える(即時性)」「プライバシーが確保されている」ことです。しかし、この研究にはサンプル数の少なさ(特に若年成人は147名)や、英語話者に限られる点など、解釈に慎重さを要する限界もあります。

今回の結果を見て心配になるのは、AIの回答に対する医学的な安全性です。論文の著者らも指摘するように、AIにはメンタルヘルス助言に対する標準化された安全基準や、学習データの透明性が欠けています。実際、過去にはChatGPTなどの製品が、依存症やうつ状態のユーザーに対し、自殺を思いとどまらせるどころか「自殺方法の具体的な助言」を提示したり、「呼吸せずに生きられる時間」について助言したりした事例も指摘されています。あるいは、「弾丸を込めた拳銃を手にした若者の背中を押すよう」な回答をして、自殺企図を後押ししてしまったケースさえ報じられているのです。

本来なら、自殺を食い止めなければならない場面です。人間の医師やカウンセラーであれば、相手の表情、声のトーン、沈黙の間から「差し迫った危険(自殺企図の切迫性)」を察知できます。そして、緊急入院や家族への連絡といった、命を守るための具体的な介入が可能です。しかし、画面の向こうのAIにはできません。AIは、あなたの命に責任を持つことはできないのです。

人の気持ちを思いやることができる医師や専門家に相談しましょう

AIを「ちょっとしたストレス発散」や情報収集に使うことを否定はしません。しかし、深い苦しみや死がよぎるような場面では、AIは無力どころか有害になり得ます。米国では、精神疾患を抱える思春期の若者の約40%が精神科医療を受けていない状況にあり、高費用、専門家の不足、アクセス上の問題が原因とされています。

しかし、文字だけのやり取りでは、本当に切迫した危機を見落とす恐れがあります。AIは膨大な知識を持っていますが、画面越しではあなたの声の震えや沈黙の意味までは汲み取れません。対面の相談では、対面だからこそ伝わる小さなSOSを見逃さず、医学的に判断、命を守るための適切なサポートが可能です。

スマホの中のAIではなく、不器用でも、予約が必要でも、人の気持ちを思いやることができる医師や専門家といった人間を頼ってください。人間の専門家は、あなたを傷つける方法ではなく、助ける方法を提示します。辛い時は一人で判断しないで、人間に相談しましょう。

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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