生まれる順番で性格が変わる?出生順位との関係について

「生まれる順番で性格が変わる?出生順位と性格の関係について」ライター:秋谷進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

人間の性格は、生まれつき決まっている部分ももちろんあるのですが、生まれた後の環境も大きく関わってきます。

生まれた場所や家族の状況など、様々な因子が複雑に絡み合って、性格は形成されていきます。ここで、多くの人が「生まれた順番は性格に影響する」と考えていると思います。

例えば、長男はしっかりしていて、次男は甘えん坊とわれたら、何となくしっくりくる人が多いかと思います。
しかし、本当にそうなのでしょうか?

今回は、出生順位と性格について解説していきます。

一人っ子は「わがまま」は本当か?

アメリカの心理学者スタンレー・ホールは、「一人っ子は、兄弟姉妹が持っているような適応能力をもって人生を歩むことは期待できない。」すなわち、一人っ子であることは、それだけで問題を抱えていると言っていたそうです。

近年、一人っ子が増加しています。
2002年では8.9%であった一人っ子の割合は、2015年には18.6%に増加しています。(国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」)

増加している一人っ子ですが、「わがままで我慢が苦手」「寂しがりで甘えん坊」「マイペース」といったイメージを、何となく持っている人が多いのではないでしょうか。
古今東西で、「一人っ子はわがまま」というイメージを持つ人が多いのですが、実はそんなことはないという研究結果が出ています。

ドイツの研究では、一人っ子233人を含む1810名を対象にしたデータを用いて、解析しています。一人っ子と兄弟や姉妹のいる子では、「自己愛性特性」や「自分への批判を回避するための他人への攻撃性」に大きな差はなかったとの結果が出ました。

一人っ子が、みんなワガママということはないのです。
では、なぜそのようなイメージが出来上がったのでしょうか。
まず、一人っ子は兄弟や姉妹がいない分、保護者からの愛情をたくさん受けることとなり、自己肯定感が伸びやすいという特性があります。それは、甘えがちであったり、ワガママという性格につながりやすかったりしますが、一方で、幼少期からの兄弟間の争いを経験しないことや、兄弟間での格差を感じる機会が少ないことから、穏やかな性格になりやすいといわれています。
また、両親や親戚の年長者と話す機会が増えることから、年長者との関係づくりが得意という面もあります。

ネガティブイメージを持たれがちな一人っ子ですが、愛情を与えて甘やかしすぎないように注意して接することで、穏やかで協調性の高い人に育てることができるでしょう。

参照:Michael Dufner, Mitja D. Back, Stefan C. Schmukle,et al. The End of a Stereotype: Only Children Are Not More Narcissistic Than People With Siblings. Social Psychological and Personality Science 2020;11: 416-424

兄弟・姉妹間の性格の違い

出生順位による性格への影響についての研究は、古くから行われてきており、1963年の研究では、以下のような結果になっています。

1.長子は自制的, ひかえめ, 親切など, 次子は快活, 甘つたれ, 依存的などの性格特性を持つ。子どもの出生順位によつて親の役割り期待・子どもの役割認知が異なつている結果であることを暗示している。同時にに男子的性格, 女子的性格というものも存在している。
2.きょうだいの年令差が2才~4才であるときに, きようだいの性格的差異はもつとも顕著にあらわれる。
3.日常生活において, きようだい同士が固有名詞で呼びあつている場合は, 次子が長子を普通名詞で呼んでいる場合よりも, 性格的差異の現われかたは有意に少ない。

引用:依田明,深津千賀子.出生順位と性格.教育心理学研究 1963;11: 239-246

一方で、比較的近年の研究を見てみると、大学生を対象とした研究では出生順位と性格との関連性はそれほど優位でなく、偶然的な差を認めた程度と報告したものや、出生順位とソーシャルスキルなどとの間に関係が見られないという研究結果も出ています。

参考:
白佐俊憲. きょうだい関係 と性格.北海道女子短期大学紀要 1995;31:1-16
相川充.きょうだい構成が子どものソー シャルスキルの程度に与える影響 東京学芸大学紀要 総合教育科学系 2010;61:91-105

これは、子どもの頃は家庭の中で生活しており、生活の環境のほとんどを家庭が占めるなかで、子どもの頃の性格は出生順位に影響を受けやすいが、成長して学校や職場といった外のコミュニティーに影響を受けるようになってくると、段々とそちらの影響で出生順位による差が少なくなっていくことが関わっていると考えられます。
つまり、幼少期で性格の全てが決まるわけではなく、社会に出てどのような経験をするかが大きく関わっているということになります。

兄弟・姉妹の関わり方について考える

出生順位が性格に関連するという話は、昔から言われていますが、実際にはそこまで強い相関はなさそうです。
だからといって、全く気にしないでも良いというわけではありません。
なぜなら、様々な能力を獲得するために重要な幼少期の行動様式には、少なくない影響があるからです。

ただし、長男専用、次男専用というような対策があるというのではなく、兄弟がいない場合には、外のコミュニティーで人と接する時間を作り、ソーシャルスキルを養う、甘やかしすぎない、というような対策を行いましょう。
兄弟がいる子どもの場合は、ステレオタイプに「お兄ちゃんだからこうしなさい」「弟はこういうものだ」というような接し方は避けた方が良いでしょう。

兄弟ごとの特性だけでなく、本人にとって納得感のある接し方が重要です。
兄弟がいる子どもでも、外のコミュニティーに属しつつ、家族とも関わる育て方がソーシャルスキルの獲得には重要です。

生まれた順番よりも子どものことをしっかり見て接する

今回は、出生順位と性格について解説してきました。

出生順位は、幼少期の性格に確かに影響を与えるのですが、外のコミュニティーに触れたり、家族と過ごしたりする時間を増やすことで、一人っ子でも兄弟がいても、必要なソーシャルスキルを獲得することができます。

生まれ持った個性を活かしつつ、幼少期の接し方で兄弟に大きな差をつけることや、ステレオタイプで出生順位ごとの性格のイメージを持ちすぎるのではなく、ひとりひとりの子どもの性格をしっかりと分析することが重要です。

秋谷進医師

投稿者プロフィール

小児科医・児童精神科医・救命救急士
たちばな台クリニック小児科勤務

1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。
金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。
専門は小児神経学、児童精神科学。

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